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喧嘩

(中盤辺りのイメージ)


チャイムが鳴ったから部屋の窓からこっそり玄関を覗く。
あの派手な金髪は間違いなく××君だ。
最近来なかったから、もう愛想を尽かされたと思っていたのに。
さっきお母さんが買い物に行ったから私が鍵を開けないと。
「××君、鍵開けたよ」
「……その声、喪子か?おばさんは?」
「さっき出かけたんだけど……お母さんに用事だった?」
「いや、いない方が好都合ってかいたらヤバいっつーか……とりあえず邪魔するな」
苦笑しながら入ってきた彼の姿に、もう少しで悲鳴をあげるところだった。
「ひえっ、な、なにっ……それ……」
顔には大きな痣や擦り傷切り傷。
シャツもどろどろに汚れていて、泥かと思ったら赤いシミも混じっている。
それなのに××君はぐちゃぐちゃになった頭を掻きながら笑った。
「えーっと……まぁ、ちょっとしくじっただけだからよ。喪子は気にすんな」
「でも、そんなに……ボロボロ……で……」
「うわあああ!泣くんじゃねぇ!!」
いつも以上に大きな声に涙が引っ込んだ。
身を竦めておどおどする私は格好悪いと思われてるだろうな。
そう思いながら××君の顔を窺うと、悲しそうに目を伏せていた。
「…………ビビらせて悪かった。お前の顔見たし、もう帰るわ」
「……ま、ま、ま、」
「んぁ?」
××君の鋭い視線に私は何故か横の壁に視線を移す。
「ま、まって、け、けが!てあてっ!」
「落ち着け、日本語喋れ、まず深呼吸しろ!!」
大きく息を吸って吐いて、今度は目を見て言う。
「怪我、してる、から。かなり酷いと思う、から!手当て、させて、くださ……い」
「んなもんいらねぇよ、気にすんなってんだろ?!」
「でも痛そうだから……」
「…………あのさぁ……俺なんか年中傷だらけなのによぉ、いちいち同情してどうすんだよ、あぁ?」
確かに喧嘩ばっかりしてるらしい彼はいつもどこかしら怪我をしている。
でもこんなに酷い怪我は初めて見た。
しかも××君はいつだって怪我してもほったらかしだから。
「……いつも××君は私のとこに来てくれるけど、私は何も出来ないし……」
「あぁ、てめぇからの見返りなんざ最初っから期待してねぇしな」
「で、でも!怪我の手当てなら多分出来るから!」
「だから何だよ、金でも取んのか?」
「違う!恩返し、のつもり……」
だんだん小さくなる語尾と俯いていく私に××君は吹き出した。
反論出来なくてますます俯けば、頭にそっと手が乗せられた。
「じゃあ頼むぜ、看護婦さん」
「う、うん!!」

腫れたところにはタオルで保冷剤を包んで当てた。
ガーゼが見当たらなかったから傷は消毒しか出来ない。
「ちょっとしみるかもしれないけど……」
「ちょっと待て、ストップ!心の準備するから!…………よし、来いっ!!」
ぎゅっと目を閉じた××君の顔にに、小さく笑いながら消毒液を染み込ませたティッシュを当てた。「くっ……!」
「ご、ごめんなさい……」
「しみてねぇ!痛くないっ!」
強がって裏返った声がおかしい。
初めて来た時は怖くて仕方なかったのに、今はあんまり怖くない。
怒鳴ったりする事も減ったから、お互い慣れてきたのかな。
それでもまだ昔みたいには喋れないけど。
「喧嘩強いって言ってたのに、こんなになってて……びっくりした」
「……今日は馬鹿みてぇに突っ込んじまったから、自業自得なんだよ」
「でも怖かったよ。こんな怪我するなら、もう喧嘩なんかしてほしくない」
××君が黙り込んで、私が勝手な事を言ってしまったと気付いた。
家から出られもしない私に偉そうな事を言う資格なんてないのに。
「…………守りたいって思ったもんがあるんだよ。そいつを傷付けられて、かっとなって、気付いたらこのザマだった」
かっこわりぃよな、と××君は笑うけど、私はそう思わない。
私には守りたいものも守れる力もないから。
「すっごく格好良いよ」
「……はぁ?」
「守りたいものがあるとか、格好悪くない……羨ましいな」
傷だらけになっても大切なものを守る××君も、そこまで彼に大切に思わわれてる何かも。
私には縁がないものだから羨ましい。
「…………ばーか」
「えっ?」
「喪子が馬鹿だから馬鹿っつってんんだよ、文句あるか?」
「ないです……」
「そういうとこも、本当お前って馬鹿だよなぁ…………じゃ、帰るわ」
「ええっ?」
「そろそろおばさん帰って来るだろ、あとはほっときゃ治るから」
さっさと玄関へ行ってしまった××君を追いかけたけれど、まだ外に出るのは怖い。
でも来てくれた彼をちゃんと見送りたい。
「そんなに慌てたら転ぶぜ?」
××君は靴を履いて玄関のドアにもたれていた。
「見送りならここまでで良いから、無理すんなよ。今日はありがとな」
「もう怪我しないでね!」
「約束出来ねぇけど、努力はしてやるよ」
そう言って手を振ると××君は帰って行った。
私の言った事に努力する、なんて言ってくれたのは初めてだ。
ちょっとだけ距離が縮まった気がした。


名前が分からなかったから××君になってます
喧嘩の原因は喪子関連です

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最終更新:2009年09月08日 12:48