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本の話とタメ口


七月○日

いつものように黒田君が来てくれている。
私は悩みつつも、勇気を出して用意していたお勧めの本を渡した。

「これ……私の好きな作家なんだ」
「えっと……」
「前にミステリー好きって言ってたでしょ。
 だから、もし良かったら受け取って欲しいんだけど」
「えっ。でも、いいんですか?」
「いつも来てくれるお礼代わりに……貰ってくれるかな」
「あ、ありがとうございます……」

黒田君は少しだけ顔を上げ、本を受け取った。

「この作家、違う作品ですけど最近映画化されましたよね」
「そうだよ。よく知ってるね」
「僕も作家買いしてしまう方なので、この人の作品はよく読むんです」
「へぇ、私もだよ。今までどんなの読んだ?」
「はい……」

黒田君は読んだ本について説明を始める。
この作家は好きで割と読んできたつもりだった。
なのに黒田君は私の知らない本まですごく詳しく知っていた。

(もしかして……)

「あの、もしかして……もうこの本、読んでたりする?」
「えっ……あの……その……」
「慌ててるって事は、もう読んじゃってるって事かな」
「………はい、実は」
「そっか。もう読んでたんだ……」
「す、すみません……」

そう言うと、黒田君は背骨をさらに丸めてしまった。
落ち込む黒田君に私はなんて答えようかな。

→「ちゃんと確認しておけばよかったね」

「い、いいえ、そんな事ありません。僕、すごく嬉しかったですし」
「そ、そうなの?」
「その何ていうか、僕なんかの為に本を用意してくれた喪女さんの気持ちが嬉しくて……」
「用意なんて、そんな大げさなものじゃないよ」
「でも、僕のために選んでくれたのは間違いないですから」
「そ、それはそうなんだけど……」

(喜んでくれてるのは嬉しいけど、なんだかすごく恐縮しちゃうよ……)

→「なら、仕方が無いよね」

「本当にすみません……」
「いいよ。私が悪かったんだし……」
「……………」
「……………」


選択終わり
「……………」
「……………」
「……………」
「………あの」
「何?」
「また読み直してみたいと思っていたんです。だからその本、頂けませんか?」
「えっ、いいの?」
「はい。お願いします」

(勇気を出して渡してよかった……のかな)

七月○日

いつも通りに話していると、ある違和感に気付いた。

「あの、黒田君。今気づいたんだけどね」
「はい」
「前から違和感あるなとは思ってたんだ。やっぱり変だよ」
「な、何でしょう」
「どうしてクラスメイトの私にいつも敬語で話しているの?」
「えっ、それは……」
「私がタメ口で話してるんだから、全然タメ口で構わないのに」
「わ、分かってはいますが……」
「もしかして、敬語じゃないと話しにくとか?」
「そ、そうでも無いですけど……」

このまま敬語で話されたら、いつまで経っても仲良くなれない気がする。
せっかく普通におしゃべり出来るようになったのに、壁をつくられているみたいでなんとなく悲しい。
それに何より、私だけタメ口なんて黒田君に申し訳ない。

「私、口下手だしやっぱり話しにくいのかな」
「話しにくい訳ではないですが……」
「じゃあ、普通に話して欲しい。毎日来てもらっているのに、余所余所しいままなんて寂しいよ」
「ですが……」
「何か問題でもあるの?」
「問題という事でもないですが……喪女さんはその、女性ですし」

(ジョセイ?)

最初、自分が何を言われたのか分らなかった。
そしてその言葉が、性別の女性だとようやく理解する。
小さい頃からブスだのキモいだの散々からかわれてきたから、人扱いを受けただけでも奇跡だ。

「僕はその……あまり女性と話した事がないので」
「わ、私が女性……」
「もちろんです。喪女さんはどう見ても立派な女性です」
「どう見ても女性……」
「だから、母以外で普通に会話ができた初めての異性なのでつい敬語になってしまうのです」
「そ、そうなんだ……」

(私が女性……なんていい響き……)

自然に頬が緩み、幸せな気分に浸ってしまうのだった。


七月○日
「あの、喪女さん!」

入ってきた黒田君は何かを決意したように、私に話しかけてきた。

「な、何……かな?」
「僕、この前の事考えてきました」
「この前……」

(何か重大な話でもしたっけ?)

私は思い当たる事もなく、首を傾げる。

「僕、あなたとタメ口で話すことに決めました」
「あっ、この前の話の続きだね」
「僕は本気で喪女さんとタメ口で会話します。覚悟してください」
「いいよ。私もその方が嬉しいから」
「では、いきますよ」
「うん、どうぞ」
「………喪女さん」
「何?」
「…………………」
「あの、その……」
「…………」
「…………………」
「…………」
「済みません。急には難しいです」
「私こそごめん。む、無理しなくていいからね」
「いいえ。僕みたいな男を相手にしてくれる女性はあなただけです。
だから、期待を裏切らないように頑張ります」

(なんだかすごく意気込んでるみたいだけど……)

分岐
→「ありがとう。でもやっぱり無理しないでね」
「いいえ、無理なんて」
「自然でいいよ。だって黒田君が友達になってくれただけで、私、すごく嬉しいから」
「…………」
「どうしたの?」
「あっ、そうですね。友達だから、自然でいいんですよね」
「うん」
「ではゆっくりタメ口に直していき……い、いくよ」

(よかった……)

→「ありがとう。でもほどほどにね」
「喪女さん……?」
「黒田君が毎日来てくれるだけで、私、すごく感謝してるんだ」
「はい……」
「だから肩の力を抜いて、ごく自然に振舞ってくれるのが一番嬉しいよ」
「ごく自然にですか」
「うん。友達みたいに気兼ねなく、何でも言い合えるといいな」
「わかりました。じゃなくて、わかったよ……って、少し照れますね」
「わ、私も……なんだかくすぐったいよ」

黒田君もはにかむように笑うと、ゆっくり口を開く。

「では改めて……よろしく、喪女さん」

その言葉を聞き、なぜか鼓動が早くなるのを感じた。

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最終更新:2009年09月10日 15:47