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キャッチボール リベンジ


7/24

「お前がどうして引きこもりになったのか教えてくれないか?やっぱり理由があるんだろう?」

部屋にやってきてすぐ、野崎君は言った。

(この前玄関で倒れたから……きっと心配してくれているんだよね)

正直なところ、原因は自分でもハッキリとはわかっていない。
ただ、きっかけらしきものはあった。
そのきっかけすらもささいな事で、きっと拍子抜けさせてしまうに違いない。

「理由は、私の心が弱いだけ……だと思う」
「心が弱い?」
「色んなことに自信が持てなくて。だから毎日怯えるように本ばかり読んでたんだ」
「そういや休み時間でも、お前ずっと一人だったな」
「し、知ってたの?」
「そりゃ分かるさ。同じクラスなんだからな」
「そ、そうだよね」
「……でも、本当にそれだけか?」
「ど、どういう事?」
「春まで通えてたのに、急に駄目になったんだ。通えなくなった理由くらいはあるんだろう」
「それは、行けなくなったきっかけみたいな事?」
「ああ。そうだ」
「……全くきっかけが無いとは言わないけど、それも私がこんなブスで馬鹿だから……」
「どうしてそう卑屈になる」
「……だって」
「ああ、もういい。じゃあ、そのきっかけってのを俺に教えてくれ」
「………………」
「言いたく、無いのか?」
「うん。ごめん……」
「そうか。まぁ気が向いた時でも構わないからいつか教えてくれ。そうじゃないと、お前の力にもなれないからな」
「うん。わかったよ……」
「………………」
「………………」

その日は、それからずっと気まずい雰囲気だった。

7/27

七月も終わりに近づき、甲子園の地区予選は終盤を迎えていた。
野崎君がいる野球部はすごい勢いで勝ち上がっている。
地元のテレビ局で放送されるたび、私は野崎君の活躍を手に汗握りながら応援していた。
そして今日も野崎君は忙しい中、私の様子を見に来てくれたのだった。

「明日の決勝の相手はあの強豪校だね」
「この前の練習試合は抜け球狙われて、ボコボコにされちまったからな」
「けど大会始まってからの野崎君の活躍すごいよね。今日の準決勝、また完封だったし」
「あの試合、観てくれてたのか?」
「うん。テレビで応援してたよ」
「そうか……」
「本当は球場まで行きたいんだけど、やっぱり無理だから……」
「それでも構わない。試合は見続けてくれないか?」
「も、もちろんそのつもりだよ」
「ここに来て球も走っているし、調子も上がってる。もしかしたらお前の応援のお陰かもしれないな」
「えっ……ち、違うよ。野崎君が今まで頑張ってきたからで……」
「どちらにせよ次の相手はあの強豪だ。応援しっかり頼んだぞ」

そうは言ってくれたけど、野崎君が実はすごい選手だという事を最近知った。
新聞でも注目選手として、大きな写真付きで紹介されていたほどだ。
私の応援なんて関係なく、実力は全国屈指のレベルらしい。
その記事を見て自分の事でもないのに誇らしく思える反面、寂しい気持ちにもなっていた。

「そうだ。今日はこの前できなかったキャッチボールのリベンジをしに来たんだった」
「キャッチボール……」

(この前みたいに倒れたらどうしよう……)

「そんな顔するな。大丈夫、これは室内でも出来るから」

野崎君が取り出したのは、新聞紙を丸めテープでグルグルに巻いたボールだった。

「新聞紙のボール?」
「ああ。これだったら危なくないし痛くも無い。おまけにタダだしな」
「そうだね。これだったら部屋でも出来そう」
「そうと決まれば、話は早い。ほら、はやく用意しろ」
「な、何……?」
「もうちょっと離れるんだよ。あの壁の端までだ」
「えっ。ちょっと待って……」
「いくぞ、ちゃんと捕れよ。ほらっ」

野崎君がゆっくり放った球は、綺麗な放物線を描いて私に近づいてくる。

「あたっ……」
「顔面で受けてどうするよ……」
「だ、だって……」
「この前のキャッチボール、軟球とはいえもし顔面に受けてたら怪我してたぞ」
「い、今のは不意をつかれただけだよ」
「言ったな。じゃあ、もう一度投げるから次はちゃんと受けろよ」
「も、もちろんだよ」
「いくぞ、ほらっ」

(わ、わわわ……)

「いたっ……」
「どんくさっ。顔面はグローブじゃないぞ」
「わ、わかってるよ……」
「俺はお笑いのコントをやりに来たんじゃない。キャッチボールをしに来たんだ」
「けど……難しくて……」
「難しいもんか。お前、もしかしてボール来る前に怖くて目を瞑ってないか?」
「目を?」
「ああ。ちゃんと最後まで見てないといつまで経っても捕れないぞ」

(そ、そういえば目を閉じてたかも)

「当たってもそんなに痛くないんだ。次は怖がらずにちゃんと最後まで見てろよ」
「うん。わかった」
「じゃあ行くぞ。ほらっ」

新聞のボールはどんどん近づき、私は両手を出す。
そして次の瞬間、両手にはそのボールがしっかり握られていた。

「と、捕れてる……」
「やったな。ボールさえ見てれば、なんてこと無かっただろう?」
「うん……」
「怖がって目を閉じたら、ボール位置が最後まで確認できない。
勇気を出してちゃんと目さえ見開いてれば、自然と捕れるもんだ」

(勇気を出して……)

「さぁ、ぼやぼやするな。次いくぞ」
「えっ……」
「今度はもう少し速い球を投げるからちゃんと受けるんだぞ。ほらっ」
「……いたっ」
「何やってんだ。もっと体の正面で捕るんだよ」

野崎君の指導は丁寧だけど、厳しすぎるのが玉に瑕だと思った。

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最終更新:2009年09月15日 04:57