思春期イベント
「お邪魔します…」
黒田くんが部屋に入るなり、私は先日見たニュースの話題を振った。
「こんにちは黒田くん!ねぇ、鴨川賞のニュース見た?」
私のいきなりの質問に少しびっくりしたようだったが、
それが本の話題だと分かると僅かに口元を緩ませた。
「あ、はい…今回は〇〇という新人作家が受賞したんですよね」
「そうそう。△△△っていう小説でしょう?」
会話が弾むのが嬉しくて、私はどんどん話しかける。
「面白いのかな?最後にどんでん返しがあるらしいけど…」
「そうですね、クライマックスの怒涛の展開には驚きました」
ん?驚きましたってことは…
「もしかして、黒田くんもう読んだの?」
私がそういうと、彼はハッとしてまたすぐに目をそらした。
「え、ええ実は…」
それを聞いて、興味津々の私は前に身を乗り出した。
「そうなんだ!どうだった?私も読んでみたいんだよね」
「あの、えっと…は、話は、悪く…なかったです、けど…」
言いながら、なぜか落ち着きなく目を泳がせる様子を不思議に思う。
「けど…?」
「け、けど、その…あまりお勧めはできないというか…」
「えっ、どうして?」
意外な言葉に驚き、思わず顔を覗き込む。
すると、黒田くんは真っ赤になり、しばらく口をもごもごさせたかと思うと、ついには下を向いてしまった。
私、何か悪いこと言ったのかな…?
「……ので…」
「えっ?」
「……性描写が露骨なので、女性が読むには…その……」
そこまで言うと、また俯いた。今度は私が真っ赤になる番だった。
「あ、そ、そっか…」
お互いに顔を火照らせ、しばらく無言で床を見つめた。
気まずい。何か言わなければ。この空気に耐えかねて、私は口を開いた。
選択肢ルート分岐
→「で、でも黒田くんは全部読んだんでしょう?」
言ってからしまった、と思ったがもう遅かった。
黒田くんは急に顔を上げ、泣き出しそうな目で私を見つめた。
「ご、ごめん、別にそういう意味じゃ…!
ただ、全部読んだなら内容自体は悪くないんだろうなって思って」
「…あっ、ええ、そうですね…
伏線が散りばめられていて、読み応えはありました。」
→「大丈夫!私そういうの全然平気だから!」
「……あ、そ、そうですか…」
私の言葉に、黒田くんは少々戸惑っているようだった。
「うん、だから気にしないで」
「あ、はい。分かりました…」
分岐戻る
なんだか急に喉が乾いてきた気がする。
お母さんが持ってきていた麦茶のコップに手を伸ばす。
と、その時黒田くんも同時にコップを掴もうとしていた。
テーブルが小さいせいだろうか。指先が、少し触れ合った。
私はビックリして、思わず手を引っ込めた。
ガタンッ
勢い余ってコップを倒してしまった。
見るとテーブルから零れた麦茶が、黒田くんの膝辺りを濡らしてしまっていた。
「た、大変!どうしよう!」
パニック状態の私は、ティッシュを大量に引っ張り出しながら黒田君に近寄った。
濡れた部分にティッシュをあてがおうとすると、黒田君が後ろに飛び退いた。
「だ、大丈夫…」
「でもズボンが!拭かないと…」
「これくらい、すぐに乾くから…っ」
黒田くんが慌てて立ち上がった。
「あ、ああああの、き、今日はもう帰ります!じゃあ!」
そう言うと、ペコリとお辞儀をして、私の部屋を飛び出して行ってしまった。
(…男の人の手に触ったのなんて、初めてだ…)
私は、心臓のドキドキが収まらないまま、呆然と彼の消えた方を見ていた。
最終更新:2009年09月15日 05:03