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再会


 シラナミ達が歴史談義に花を咲かせていた頃、シラサギ・ハザマは模範生らしくハンガーでRBの機体調整をしていた。相変わらず訓練と実戦での力量差に頭を悩ませながら一人黙々と作業していると、背後から声をかけられた。
 「よぉ、少年。精進してるな」
 「少年はやめてくださいよ。もう大人ですし」
 まぁ、対して変わらんさとクリサリスは笑う。彼女がハンガーにいるのは珍しいことだった。大概は艦内のあちこちで昼寝をしているのが目撃されている。
 「精進もいいが、少しはリラックスして臨むことだな。そのうち慣れてくるさ」
 嫌でもな、そう付け加えるとクリサリスはふらりと何処かへ行った。掴みどころが無い人だとシラサギは思う。作業に戻ろうとRBの方に目をやると、今度は強烈な視線を背後から感じた。
 「えっと、何か用かな?」
 シラサギはぎこちない笑顔で応える。何故にこの子は自分に対して敵意をむき出しにするのだろうか。レイ・スリーピー少尉はシラサギから視線を逸らし、彼のRBを見ると傲然と言い放った。
 「中尉の戦果が思うように上がらないのは機体性能のせいでは無いと思います。この小隊の整備班は優秀です」
 「うん、まぁ、そうかなぁ・・」
 「失礼ですが、中尉。貴方のその自信なさげな態度が一番の問題ではないですか?訓練であれだけの動きができる人間とは思えません。上官である中尉に言うことでは無いですが、実戦に慣れ、自分に自信を持つことが重要だと思います」
 言いたいことは言い切ったようだ。レイはそのまま踵を返すと、自分のRBの方へ歩いていった。奇しくも二人のパイロットから似たようなアドバイスをされたわけだが、シラサギはレイの言葉を胸に刻むことにした。自分に足りないのは、あの厳しさだろう。なによりも、未だ殺し合いをすることへの覚悟の無さが、問題なのだろう。
 「ランチはコクピットの中に限るよなぁぁ、スリィィィィピィィィィィ!」
 ハンガー内に響くジョナサン叫び声とレイの怒号を聞きながら、シラサギは思うのであった。


 「目標は敵の新型試作機だ。一機でも良い。鹵獲しろ。ぬかるなよ」
 「ああ。しかし、この・・・VOBだったか?大丈夫なのか?」
 「安心しろ。最大戦速2000㌔だ。レーダーに補足されてもすぐさま接敵できるさ。莫迦みたいに突出してきたやつだけを狙え。無理はするな」
 「いや、心配なのは俺の身体の方で・・・」
 「おしゃべりは終わりだ」
 一方的に通信を切られると、男は溜め息をつく。
 「やれやれだな・・・」
 次の瞬間には、彼は今まで体験したことのないようなスピードを味わっていた。

 艦内に第一種戦闘配置の警報が鳴り響くとほぼ同時に、爆音と共に艦が揺れる。後に分かることだが、これは決して航海長のミスではなかった。彼は現に敵の存在をすぐに発見したし、通常通り第二種戦闘配置の警報を鳴らすよう命令し、通常通りそのアンノウンに対して警告を発しようとしたのである。しかし、彼の誤算は、そのアンノウンの接敵スピードにあった。総軍の最新鋭艦の最大戦速を遥かに上回るスピードで接近するアンノウンに対し、彼が出来たのは第二種から第一種へと危険度を上げるだけだった。
 「くそ、なんだっていうんだ!」
 よろめきながら何とか態勢を整えると、シラナミは船橋へ向かうべくドアへ駆け寄った。しかし、彼がドアノブに手をかけるよりも早く隔壁が下りる。
 「おいおい、冗談じゃないぞ・・・」
 アンノウンの攻撃は不運にも居住区付近に当たり、居住区廊下には火災が発生していた。この時点でアサヤケ小隊の戦力はほぼ半減したことになる。
 「ロゼ、俺の端末から船橋へ繋いでくれ。現状を知りたい」
 「もうやってますよ」
 傍らでは、カトリーヌが遺書を書いていた。

 「こちらシラナミだ。状況を報告しろ」
 船橋のモニターに青筋を立てたシラナミが映る。
 「こちらクリサリス・ドーナー艦長代理。どーぞー」
 どこか眠そうな声でクリサリスは応じる。彼女を確認して少し驚いた顔をしたシラナミだったが、すぐさま表情を引き締める。 
 「少佐か、珍しいな、船橋にいるとは。まぁいい、そのまま艦長代理としてそこで指揮を取れ。こっちは隔壁が下りてそちらに向かえない」
 船橋にいたのは艦長席で昼寝を取っていたからだったが、結果オーライだったようだ。
 「了解。敵は一機のみ。どの機体コードにも載っていない、アンノウンです。時速2000㌔近いスピードでこちらに接近し攻撃をした模様」
 「2000㌔だと?莫迦な、そんな兵器が存在するのか?」
 「どうも特殊なブースターを取り付けていたようですな。こちらもシラサギ、スリーピー、リヴィングストンの三名を出撃させ応戦しています」
 「わかった。消火が済み次第そちらに向かう。」
 そう言い残すとシラナミがモニターから消える。
 クリサリスが戦闘モニターへ視線を移すと、4機の機体が忙しなく動いていた。その様はまるで踊っているようであった。
 いや、違うな。踊らされているのか、こちらが・・・
 クリサリスは妙な胸騒ぎを覚えた。

 「ちょこまかと、うざってぇぇんだよぉぉ!」
 反星号は全弾撃ち尽くさんというようにグレネードを射出する。辺り一面には爆風が吹き荒れ、まるで花火のようだとシラサギは思う。広範囲攻撃を得意とする反星号は複数の相手を同時に攻撃することにかけて特筆すべき効果を発揮するが、機動性に優れた機体相手だと分が悪かった。敵は反星号のグレネードを難なく躱しつつ、その隙をつくように攻撃する紅海号の攻撃をいなす。しかし、その隙が意図されたものだと気付くには、三人には圧倒的に経験が足りなかった。

 クリサリスは戦闘モニターを凝視し、敵の動きを観察していた。彼女は一度戦った相手、特にエースと呼ばれる者達の動きは全て記憶していた。それが激戦地である火星で生き残ってきた彼女の武器の一つであった。アンノウンの動きには見覚えがあった。しかしそれは、あってはならないことであった。
 「何故だ。何故生きている。確かにあの時、私が・・・」
 生きている筈のない存在。彼女の武器であるその記憶が、彼女の判断能力を奪った。
 「しっかりしろ!クリサリス!敵の狙いは試作機だ!」
 はっと顔を上げると、モニター一杯にシラナミの顔が映っていた。

 「こいつ、今までの敵とは違うッ!」
 アンノウンに何とか食らいつきマシンガンを連射するレイであったが、中々効果を与えられない。レイはマシンガンをパージすると、カトラスで斬り掛かる。
 「良い判断だな」
 コクピットに男の声が響く。突如音声回線に割り込んできた敵の賛辞に、レイは逆上した。
 「舐めるなぁぁっ!」
 怒りを込めた一撃は虚しく空を貫く。
 「しかし、まだ青い」
 アンノウンは、紅海号めがけてブレイドを振り上げる。
 刹那。黒い影がアンノウンの前に現れる。反星号と紅海号が作り上げた一瞬の隙をシラサギは見逃さなかった。左手に構えたカトラスで敵の左腕を斬り落とす。そのまま流れるような動きでコクピットにカトラスを突き刺そうとする。
 「やれやれ、やっとお出ましか」
 その言葉にシラサギの背中に冷たいものが走る。読まれていた?そんな莫迦な・・
 アンノウンは寸での所でカトラス避けると、兵音号の頭部を一閃した。
 「シラサギ!」
 「仲間の心配をしている場合か?」
 そのまま紅海号の背後を取ると、アンノウンはブースターを破壊する。海上へ落下する紅海号を一瞥することなく、モニターが破壊されて思うように動けない兵音号を回収すると、アンノウンは信号弾を出した。

 「6時の方向より小型戦艦接近!」
 航海長が叫ぶ。
 「アンノウンを回収するつもりだ!何としても食い止めろ!兵音号を取られるな!」
 アサヤケ艦内はかつてない混乱に見舞われていた。砲門を開き、狙いを定めるが小回りの効く小型戦艦に当てるのは中々難しかった。ほぼ、成す術も無く、アンノウンが回収される所を見ているしかなかった。
 シラナミが漸く船橋へ駆けつけると戦闘は全て終わっていた。
 「大佐・・」
 「何も言うな。全て俺の責任だ」
 アサヤケ小隊、初めての敗北であった。


最終更新:2011年08月09日 21:56