目覚
「記憶は・・後付け・・いくらでも・・」
「しか・・・精神・・異常・・」
「問題ない・・・それよりも・・・」
嫌な夢を見た。嫌な、ということだけで、内容までは覚えていないが。しかし、何か、自分の根幹に関わるような。そんな重要な夢だった気がする。
身体を起こそうとするが体中が怠く、中々そんな気になれない。視線だけ動かして周囲の様子を探る。殺風景な部屋だ。自分が寝ているベッドと机があるだけ。花瓶が置いてあるが、花は生けていなかった。
シラサギ・ハザマは今自分が置かれている状況を整理しようと努めた。確か、アンノウンと戦闘になり、そいつにやられて・・・
「目覚めたようだな」
記憶を探っていると、いきなり頭上から声がした。枕元に男が立っている。いつの間に入ってきたのか。シラサギは咄嗟に腰の銃を取ろうとしたが、案の定そんなものは無かった。
「悪いな。一応武装はこちらで預かっている。まぁ、心配するな。命を取ろうなんて思っていないさ」
男はどこか人を安心させるような笑顔を見せる。
「ここは・・・?僕は一体・・」
思うように声が出ないことに驚く。自分は一体どれくらい眠っていたのか。
「とりあえず水を飲め。一日中寝てたんだしな」
男が差し出す水に一抹の不安を覚えなくはなかったが、それよりも喉の渇きが限界を迎えていた。コップを奪い取るように受け取ると、一気に流し込む。漸く頭が働き始めたようだ。
「先ずは自己紹介をしよう。俺はミュレー。傭兵だ。お前の乗っていた試作RBはこちらで回収した。それがクライアントの要望だったんでな。お前の処分はこちらに一存されている。まぁ、別に無駄な殺しをするつもりはないんだ。元のいた場所へ帰りたいならすぐに便宜を図るつもりだ」
傭兵・・。火星や木星では結構な数がいると聞いたことがあった。確か、ギルドがあった筈だが。しかし、総軍の支配力が圧倒的な地球では珍しい存在だ。シラサギも、聞いたことがある程度の認識だった。
「帰れるのか・・僕は」
「お前が望めばな」
ミュレーはどこか含んだ言い方をした。確かに、所属不明機に一方的にやられ、更に総軍の新型試作機を奪われた軍人に帰る場所を用意する程に総軍は甘い組織ではない。帰った所でどんな処分が下されるのか分かったものではない。
「戻った所で、もう以前のようには戻れないだろうな。特に、今の総軍は余計にな」
こちらの考えていることを読んだように、ミュレーは言う。
「僕は・・・どうすれば」
「自分で考えろ、お前の人生だろ?とはいえ、そこまで突き放すのも酷か。こういう状況に追い込んだのはこちらだしな」
ミュレーは視線を宙に漂わせながら、何か思案している顔になる。
「ふむ。決めるのはお前だが、こちらとしても選択肢を用意することは出来る。一つは総軍の軍人としての立場を捨て、一般人として過ごす。こちらで新たなIDを用意してやることが出来るしな。今までのお前に戻れないが、平穏に過ごすことができるだろうさ。もう一つは、俺たちと一緒に来ること。ギルドにも属さない独立傭兵の仲間入りさ」
「僕が・・傭兵・・」
ミュレーと話しているうちに、あのアンノウンもといミュレーの戦いの軌跡が思い出された。自分との圧倒的な差。まるで踊るように戦うミュレーに対し、恐怖とはまた別な感情がシラサギに生まれつつあった。
「あなたについて行けば、僕もあのように動けるのか・・」
そう呟くシラサギをみてミュレーは嗤う。
「さぁな、それはお前次第だろ?」
「わかった。傭兵にでもなんでもなってやるさ。そして、あなたを超えて、僕は帰る」
思えば、これが分岐点だったのかもしれない。あのとき、大人しくIDを受け取っていれば僕は平穏な日々を過ごせただろう。しかし、あの決断を後悔したことは無い。
「行こうか」
「大丈夫か?こんな形で戻ることになるわけだが」
「あなたが心配してくれるなんて珍しいですね」
「・・任務に支障が無ければいい」
「大丈夫。このときのために強くなったんだから」
シラサギが帰還するとき。それは同時にアサヤケにとって最大の危機を意味するのだが、それはまだ先のことである。
最終更新:2011年08月20日 00:19