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「初めまして。私、こういうものです」
男はそういうと、にこやかに笑みを浮かべながら名刺を渡した。しかしこの場合、にこやかな、というのは好意的な解釈であって、実際に彼が笑みを浮かべていたかどうかは表情からは伺い知れなかった。男はスリーピースに中折れハット、更にトレンチコートまで羽織っており、一見するとどこか映画に出てくる探偵のようである。とはいえ、彼は魚であった。
「アニマル管理局世界の風・・・パッションフィッシュ?」
シラナミはまじまじと名刺を見つめる。基本、何かに驚くことが少ない男であるが目前の非現実的な存在に戸惑いを隠せない。
「やっぱり魚なんだな・・・」
後ろから名刺を覗き込んでいたクリサリスが呟いた。
「Yes.Mrs.我々の目的は、世界観に異常を来す程深く介入しているアニマルたちを取り締まることです。ご覧の通り私は魚ですが、我々のようなアニマルの存在は世界観を著しく損ねる危険性があるのです」
彼女はMrs.ではなくMissだとシラナミは付け加える。律儀な男だとクリサリスは思う。
「いや、まぁ、そうだな。俺もあまり直に会ったことは無いが。確かにお前達の存在は、その、なんだ・・」
ここまで正統派ロボットSFを気取ってきたアサヤケメンバーからすると異質な存在であることは言うまでもない。クリサリスはここにきて猛烈に釣りがしたいと思った。いや、昼寝でもいいが。やはり釣りだ。そうだ、釣りに行こう。
彼女はそそくさとシラナミのクロゼットから釣り道具を取り出すと、そのまま退室しようとした。
「いや、ちょっと待て。色々と言いたいことがあるが、とりあえずここにいろ。こいつと二人きりになることはまかりならん。上官命令だ」
「職権乱用だろ・・」
さり気ない風を装うとしたが、彼女の考えは読まれていたらしい。
「つまり、暫く我が艦にいると?」
「Yes,captain.この世界においてアニマルの介入が強く感じられるのは、貴方方のenemy,つまり夕暮れの船なのですよ」
夕暮れの船というワードを耳にした以上、シラナミも真剣に話を聴かざるを得なかった。怨敵であるミハマを思い浮かべながら目の前のパッションフィッシュを見ると、アニマルが夕暮れの船にいることに特に違和感も感じないシラナミであった。
「我々の調査では、夕暮れの船には現在3匹程のアニマルが確認されています。私としてもすぐさま夕暮れに乗り込み、彼らを確保したい所なのですが、これが難儀でしてね。ただ闇雲に夕暮れの船を探すよりもこちらにいた方が手間が省けるというものです」
勿論、ただで居させろとは申しませんよとパッションフィッシュは付け加えた。
「私、副業で探偵といいますか、トラブルシューターのようなものを営んでおりましてね。この艦での揉め事、迷子のペット捜索、エラ付きRBの開発、なんでも万事解決してごらんにいれますよ」
そう言いながらパッションフィッシュはクリサリスのルアーを凝視している。
本来であればお帰り頂きたいと思うシラナミであったが、夕暮れの船のクルーにアニマルがいるのならば何かの役に立つかもしれないと考え直した。渋々、といった表情を浮かべながら、シラナミはパッションフィッシュの滞在を認めることにしたのである。
「ありがとうございます。これで仕事も捗りますよ。ああ、こうなることを予測して既に居住区の一画を私の事務所へ改装してあります。何事も迅速に対応するのがモットーなものですから。お二方も何かあればご相談ください。では、失礼」
そう言い残すとパッションフィッシュは部屋を後にする。呆然と佇むシラナミとクリサリス。
「というか、彼が介入することの方が余程世界観の崩壊なのでは?」
「・・もう何も言うな」
TO BE CONTINUED
最終更新:2011年09月03日 19:56