『本当に無茶な人だ、あなたは』
コクピットに備えられた通信装置からアキラの呆れたような、それでいて嬉しそうな声が漏れる。
『言われた通りカトラスの改修はやらせたけど、本当にそれ以外はいじってない。いいんだね?』
「それより私欲号の整備は充分なのかな?」
彼のパイロットとしての技量は帰ってきた時に見せてもらった。充分すぎるほど優秀だけど、機動に粗が目立つ。あれだけ機体を振り回していれば毎度、少なからず推進系に不調をきたしているに違いない。
『言い辛いけど、その為に絶望号からパーツを頂いている。だから大丈夫』
「気にしなくていいよ」
元よりこの装備に標準の装甲なんて必要ない。一息ついてからパネルを操作。最終ロック解除。
「絶望号、ミハマ、出撃する」
機体がハンガーから艦外まで続く射出路を一気に押し出されていく。
ようやく帰ってきた古巣だ。ここで墜とすわけにはいかない。
セッション01 リプレイ・ダイジェスト(1)
相克
『うっほほ~い』
無線から軽妙な声が漏れる。クリサリスはそれを無視して艦長席に腰掛ける。前面のモニターには既に出撃した展望号、暗転号、反星号の三機が映し出されていた。
――見捨てはしない。既に手は打ってある。心配するな
上官の言葉を反芻して溜息をついた。あの男は信頼に足るのか? 改めて疑念が頭をもたげるが一瞬でそれを振り払う。
「予測通り敵艦載機が急速接近。先頭の一機がジョナサン機と交戦。他二機も戦闘に移りました」
「そうか。我々は微速前進しつつ状況の把握に専念しろ」
水測長と航海長が同時に「了解」と告げ、艦の速度は一気に減退した。
「所詮、力がモノを言う稼業……」
クリサリスがモニターの中の展望号へ視線を投げかける。
「あんたがどれ程のものか、見せてもらうとしよう」
彼女は何とも言えない表情で小さく溜息をついた。
「おっと。動きがいいな、楽しめるかも」
そつなく私欲号の攻撃をかわしていたロゼだったが、思わぬ被弾を受けていた。ちょっと油断していたのかもしれない。
ロゼの暗転号は遠距離狙撃型であり、必然的に相手と距離を保った間合いで戦う事になる。それに対しスバル駆る私欲号は中距離での撃ち合いを想定したインファイタータイプ。必然的にスバルがロゼを追う形で戦闘は展開していた。
だがそれは常にロゼの精緻な射撃に対し身を晒すうえ、前方への高速機動と同時に回避を行わなければならないという半ば馬鹿げた状況でもあった。
「やりぃ!」
また一発、私欲号の装甲に弾丸がめり込む。だが衝撃に一瞬、機動が鈍ったのも束の間、私欲号は急上昇。逆光を背負う形で暗転号に臨む。
「くそ! この位置からなら!!」
私欲号の背負ったミサイルポッドから続々と白煙を従わせた誘導弾が吐き出され、吸い込まれるように暗転号へ襲いかかった。
「ふぅん、でもこれならどうかな?」
ミサイルを避けきれなかったロゼだが、全く平常心は崩していない。『チェスで相手が面白い手を指してきた』といった調子である。そんなロゼの放った弾丸を私欲号は無理な体勢に身をよじり回避する。だが、彼の狙いは常にスバルだけに向けられたものではなかった。戦闘の口火を切ってからというもの、ロゼは射撃時には常に私欲号と同射線上に絶望号を捉えている。仮にスバルが避ければ丁度ミハマに着弾するよう、非常識なまでに複雑な調節を行っていたわけだが、今の射撃も含めただの一発も当たっていない。面白かったのでシラナミにも同様に『流れ弾』を演出してみたが、こちらにも掠ることさえなかった。
「させねぇ!」
スバルがここぞとばかりにライフルを連射する。
ついでに当てれるほど甘くはないか。そんな事を考えつつロゼは苦も無くその弾丸をかわした。
レーザーの直線的な光と銃弾が飛び交う中、ジョナサンとMPKも例外に漏れず互いに全力(?)を以ってぶつかりあっていた。
「ちょこまかとよぉ!」
ジョナサンは焦っていた。とりあえず自分の技量が足りない、という可能性はかなぐり捨てるとして、それにしても上手く戦局が転ばない。まるで予め用意されていたプランに乗せられているかのような錯覚すら覚えていた。
『損傷軽微』
極めつけがこのどうやってか相手側から流れてくる機械音声である。
『キキッ』
形容しがたい不愉快な機械音。次の瞬間、一筋の光が反星号の太股を貫く。
被弾の衝撃で振動するコクピットの中でジョナサンは両手を広げ、ひとしきりわなわなと身を奮わせた後、ぴたりと動きを止める。
「速くて、みえねぇんだよぉぉぉぉ!!!」
ジョナサンの咆哮が空に鋭く響き渡った。
夕暮れの船艦橋。モニターを見つめるクルーは呆気にとられていた。先ほどから展開される戦闘の中で一際、異彩を放つ二機のRBに注視していたのである。モニターの中の二つの影は近づき、離れ、片方が一条の光を放ち、また近づく。その応酬が繰り返されているのが『何となく』分かる程度で、目を凝らしていないと黒と赤紫の何かが激しくぶつかりあっているようにしか見えない。
「あのような動きが出来るものなのか、RBとは」
径麒はぽかんと口を開け、ただただ二つの機影を追うので精一杯と言った様子である。
「あれはシラナミだね」
「シラナミ?」
ぽつりと呟くアキラに落俊が訊ねる。
「あの人の熱烈なファンさ」
さも面白そうに答えるアキラ。艦橋には「お前がそれ言うの?」という無言のつっこみが充満していた。
アキラは気にした風もなく脚を組み直した。
最終更新:2011年09月07日 00:16