The Manager

「アナハイム・エレクトロニクス監査部から参りました、カタリーナ・クレパルディです。」
軽く会釈をするその胸元に視線がいってしまうのは男のさがか。
ブリーフィングルームに集められたAICのパイロット達の前にはスポンサーのアナハイムの視察官。
アナハイムの現地視察はこれまで何度かあったが冴えない親父連中ばかりで印象にも残っていないのが正直な所だが、今回はどうも様子が違う。
何が違うかというとそこにいるのは脂ぎったオッサンではなく金髪美女、この違いはかなり大きい。
「ひゅぅ~~♪何だ何だアナハイムもようやく分かってきたみたいだなっ!」
場違いな口笛に迎えられたカタリーナがそれを気にも留めない態度で言葉を続ける。
「所長さん、テストパイロットの皆さんと一人づつ面談をしたいのですが宜しいでしょうか?」
「えぇ、そりゃもう!ただ今部屋を用意させますのでご自由にお使い下さい。」
「ガルの野郎、腰低ぃ・・・」
汗をぬぐいながら慌てて出ていく所長を他所に普段女っ気の無い砂漠の基地に押し込められている男連中は明らかに色めき立っていた。
大の大人が真剣な顔で順番決めのジャンケンの結果に一喜一憂している有様だ。
「へへっお先、僕は日頃の行いが良いからね。あ、靴紐切れた。」

明るい表情で面談室に入っていったメトロ・シングが頭を抱え足を引きずるように出てきたのは15分後。
「ど、どうしたっ!?」
「・・・生まれ変わったら自由なカラスになりたい・・・。」
どうせならもうちょっと縁起の良い鳥にすれば良さそうなものだが、問題はそこではない。
うわ言のように呟く彼の話を要約すると過去の戦績や前回の出撃の際の損害等について細かな数字付きで延々と嫌味を並べられたらしい。

『あのミサイル一発幾らするかご存知ですか?』

『1ヶ月で3度修理ドッグ行き?話になりませんね。』

『駆動系、動力系がメチャメチャでオーバーホールですよ。Z系がどれだけデリケートな機体かまさか知らないハズないですよね?』

「・・・。」
小1時間後の待合室は酷い惨状となっていた、大の男達が雁首を揃えも揃えて垂れ誰一人言葉を発する事の無いまま濁った空気が充満している。
クロードとエルカに関してはあまり前線に出る機会の無い為直接の被害を免れたが、暗に不要ではというニュアンスを匂わされたらしい。
そしてついに大本命のハーディ・ロックバーンの順番がやってきた。
「・・・ったく、揃いも揃ってダラしねぇな。」
「特攻隊長っ、毎度大破させてるクセに自信満々だっ!?」
「バ~カ、二枚目は違うって所を見せてやるよ。」
見送る彼らにその男の背中が無駄に大きく見えた事は言うまでも無い。

「コンコン。あ~、AIC-01テストパイロット、ハーディ・ロックバーン入ります。」
ノックの音を口で真似、ハーディが軽やかなステップで部屋に入ってくる。
「どうぞ、お掛けになって下さい。」
「はいはい、どっこいしょっと。」
ハーディはどっかりと椅子に腰掛け何処からでも来いと言わんばかりに内心身構えていたが
カタリーナはハーディをじっと見つめたまま何も言ってくる様子が無い。
痺れをきらしたハーディが逆に会話を切り出す。
「おいおい、幾ら俺がハンサムだからってそんなに見・・・」
「クスクス。変わらないわね、ハーディ。」
唐突に鉄面皮のような顔を崩して微笑むカタリーナ、滝の様に汗が流れ落ちるハーディ。
「あ、あぁ・・・だろ、変わらないだろ?(やべぇ、思い出せねぇ)」
「この基地に来る事になってリストにあなたの名前を見つけた時は驚いたわ」
「ほ、ホントだな。もうこれってば運命的だよな。(汗)」
「本当ね・・・」
さっきまで微笑んでいたカタリーナの表情が再び唐突に元に戻る、いや無表情をさらに通り越して怒りの形相が浮かぶ。
「私はあなたを絶対に許さない・・・絶対に・・・。」
「え?」
「言い忘れてましたわ。私、本社の辞令によりしばらくここの財務人事一切を監督させて頂く事になってますので…どうぞよろしく。」

「・・・ひでぇ冗談だ。」
間もなく部屋を出てきたハーディの表情は待合室で待つ仲間達より一層暗いものだった。

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最終更新:2007年09月25日 10:13
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