・・・頭が、痛い。
新造戦艦追撃の任務。あの時に聞いた声を、いまだ毎日聞くせいだろう。
聞く、なのか。
感じる、なのか。
そこらへんはよくわからない。とにかく。
毎日のように
アルク・E・ガッハークの頭の中には、心をえぐるような悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「お前は誰だ」
なぜ、そんなに悲しそうなんだ。
頭の中のアイツは応えを返しては来ない。
訓練報告書に記入するのをあきらめ部屋から出たのは、そういう理由からだった。
向かう先は格納庫。
箱舟に触れていれば何か気が休まるような気がしていた。
「ようアルク、何の用だい!?」
パイロットの部屋からそう遠く離れてはいない格納庫。
着くや、訓練を終えた機体のメンテナンスをしているジリアンの声が迎えてくれた。
「いや。メンテナンスの手伝いをしようかと思って」
・・・
『はあああああああ????』
整備班クルーの声がハモった。
「信じられん!実戦で大破させても修理を手伝うのを渋っていたあのぐーたらが!」
「明日は雨か!?」
「ダメだ!何か企んでいるぞ!気を許すな!」
「聞かせたい!今の台詞を
ハーディ・ロックバーンあの男に聞かせたい!」
なるほど。俺はそういう存在だったのか。
というかハーディと一緒にするな。
メンテナンス作業とはいっても専門的な所は整備班に任せるしかない。
とはいえアークオブノアは、今回の訓練では故障個所無し。なのであまりイジる所もないらしい。
タラップを使い、コックピットに座る。
制御コンピュータのチェックや、C-システムだかなんたらがどーのこーのは俺がやったほうがいいらしい。
まだチェックの仕方なんぞ教えてもらってないんだが・・・
しかし、このCなんたらが作動したのを見たことが無いんだが・・・いや。
何やら1度だけあるらしい。
そして、その機動した時以来、俺はあの叫び声に悩まされているのである。
「記憶を消す装置か!?コイツは」
下に居るジリアンからは『はぁ?何いってんだアンタは!?』などという声が聞こえてくる。
とかくトンデモないシステムだって事は聞いたことがある。
「お前、何か教えてくれよ」
そんなに都合よく何か起こる訳がない。
やれやれ、これも・・・
「え?」
泣いている。
今も、今、この瞬間も。
思わずコックピットのシートに座り、MSに灯を入れかける。
「なにやってんだい!!アルク!」
ジリアンの声を聞いていなかったらそのまま発進していたのか?俺は。
飛び降りた俺は走る。
向かう先はサハラ基地AIC部隊所長室。
「ガル!・・・いや、もとい。なんだ。ガルシア・マックラーレン所長。私、アルク・E・ガッハークに偵察任務を与えてください」
「理由は」
「気になるからです!」
高そうに見える安物の葉巻をぐしゃりと潰したガルは、フー、とため息をつく。
「・・・行って来い。俺がお前に与える最後の任務だ」
「なにー!」
殴ってでも出て行こうとしていた覚悟だったのをあっさり肯定されてしまい思わず叫ぶ。
「じゃあ、行ってきます!」
出て行こうとした俺。
ちょっと待て?
「ガル、じゃなかった。所長。『最後の任務』って?」
「お前らAICは配置換えになるんだよ。この前の失敗のせいでな」
「なにー!?」
「やーーーーっとお前らともオサラバだ。散々手をやかせやがって。最後の偵察任務、生きて帰りゃあ俺の部下じゃないって事だ」
いかん。伸びをするガルを横目に、あきらかに「どうしよう!」とうろたえている自分がいる。
「お前達が行く先は、宇宙だ」
「なにー!?」
「だから、この地球でやる事はやっとけ」
また、高そうに見えるが安物の葉巻に火を着ける。
「ヤー!イエッサー!」
出て行こうとした先。
その瞳は俺をずっと見ていた。
「あぁ、ソード。クロードに戦況把握の任務がこのバカのせいで入ったと言っておけ」
その作り物のハ虫類は、目つきの悪い顔をタテに振って音もなくどこかへ去っていった。
最終更新:2008年02月06日 02:59