バーニア・挙動・バランス。
機体の調子は順調。
訓練終了からそんなに間も無いというのに、この調子の良さは整備班に感謝する。
そんな事を考えながら、黒と白の機体、アーク・オブ・ノアを砂の上に着地させる。
「B-37k地点。箱舟、偵察機動に入る」
新造戦艦との対峙場所より数十キロ。本部に通信を入れる。
本部というよりは、恐らく暗いコックピットにて自分の様子を眺めているであろうクロードに対して。
アテなど全くないと言えばそのとおりなのだが、それはそれでしょうがない。
低空飛行でバーニアを吹かし、レーダーのモニタを大きくする。
当然のごとく柳の下のドジョウ。あんな戦闘があったにもかかわらず同じ場所に新型戦艦はいやしない。
「まぁ・・・そうだよな」
クロードがせっせと回収したのだろう。砂の上にはガレキの一つも残っていなかった。
だが。
「こっちだ」
『叫び』の方向に目を向ける。
宇宙では、下手なレーダーよりも何となくの直感のほうが役に立つという言葉を聞いたことがある。
サイド6で生活していた時は、全くそんな気配は感じなかったのだが・・・
「聞こえるんだから、しょうがないよな」
偵察機動をしたのはほんの数分。
推進力全開・・・フルバーニアで箱舟は『その場所』へ飛び出した。
そしてその時。
確かに彼女は泣いていた。
『C-SYSTEM機動状態確認、レベルC+』
アークオブノアのように名前を与えられる事は無い、箱舟の兄弟機が地面を蹴っていた。
黒く塗られたティターンズカラー。設計図は同じであれど与えられたファンネルは2。
その板状のファンネルは、通常ではありえないような動きで地上の目標を貫く。
機体そのもののスムーズで敏捷的な動きは、MSを動かしているというより人が動いていと言ったほうがいいのだろうか。
だが、コックピットの中の『彼女』の様子は凄惨なものだった。
苦しい。頭をそのままつつかれるような痛み。
いつまでたってもこの痛みからは逃れられない。
いっそ、麻痺してしまえばいいのに。
このシステムが。
そしてそれ以外の何かが。
それを許してはくれない。
「あああああぁぁぁ!」
早く・・・早く終わらせよう。
「目標。早く全滅して!もう私を楽にして!!」
ファンネルの速度が上がる。
『レベルB・・・B+まで上昇』
電子音が聞こえる。もう、そんな事はどうでもいい。
目の前は段々と視界が無くなってくる。
そして。
「もう泣くのはやめろ!」
カルサの耳に誰かが声をかけてくる。
敵?
そうではない。
「そんなにしてまで苦しむ必要は無いだろう!」
「貴方に何が解ると言うの!!」
無責任な言葉に反論する。
そうだ。この男はいったい何を解っていると言うのか。
「私にはここに居るしか無いのよ!敵を倒せばここに居られる!」
「自分の居場所は、自分で作れ!」
「貴方は昔からそう!いつも勝手な事ばかり言って!私の苦しみなんて解ってなかった!」
「そうやってまた自分に壁を作るのか!一度くらい弱音を吐いたってよかった!」
「貴方にそんな事言えるわけないじゃない!!」
「あの時だってお前は・・・」
『カルサ!!何があった!!!』
無線越しの
エイヴァール・オラクスの声で視界が戻る。
横を見れば、彼の愛機ヘイズルがMk-Ⅱの肩に手を当てていた。
「・・・私は、何を?」
『突然何かを叫びだした。試験終了だ。帰還しろ』
「了解」
何を叫んだと言うのだろうか。
いつものごとく記憶は無いが、戦艦ブラッディホースに帰ってきてからブラックボックスを開ければ解る事だ。
『アルク、時間。帰って来いって。あと、さっきは何って叫んでたの?』
「・・・は?俺、何か叫んでた?」
アルク・E・ガッハークも同じだった。
フルバーニアを吹かした先に新造戦艦はおらず。
また、その間の記憶が一切無い。
「やっぱりあのシステムは記憶を消す装置だって。まぁ、基地に戻ってブラックボックスを開ければ解る事だ」
2機のレコーダーには叫んだ形跡は無く。
その様子を『感じた』2人のニュータイプの頭の中にのみ、その軌跡は刻まれる。
最終更新:2008年02月06日 03:02