エースの憂鬱

チュンチュン
「ハッ!セイッ!」
陽も登りはじめる前からべろんちょの声がハロワ国へと響き渡る。
「ふぅ、早朝訓練はやっぱり気持ちいいな」
汗をぬぐいながら、草の上へと腰を下ろし、明るみ始めた空を見上げる。
「…ん?」
その時、背後に気配を感じ、とっさに振り向く。
「私ですよ、べろんちょ、わ・た・し」
木陰から髭をたくしながら男が現れた。
「ははははは、エース、今日も朝早くから精が出ますな」
「ぞぬ、オマエか」
ぞぬはべろんちょの隣へ立ち、一緒に空を見上げた。
「いやぁ、気持ちいいものですな、精を出し汗を流す…」
「ああ…」
しかし、べろんちょは遠い空を見つめていた。
「どうした? 何か悩みか?」
「いや、最近ちょっとな… 本当にこんな事でいいのか、本当に強くなれてるのか…」
そう言うとべろんちょは剣を手に取り、剣に映った自分の姿をじっと見つめた。
「仕方ない、それでは私についてきなさい」
「何かいい修行があるのか?!」
ぞぬは笑みを浮かべて、歩き始めた。
べろんちょもぞぬの後ろへとついていく。

「さぁ、ここですよ」
「ここ…?」
そこは林のはずれにある小さな滝のある湖だった。
「そうか、滝に打たれて、精神をたかめろ・・・」
「シッ!そろそろですよ」
ぞぬが口を静止し、慌てて草陰へと隠れる。
「…な、何を…」
「いいから、黙って、黙って…」
すると、高い声を上げいくつかの人影が湖へと近づいてきた。
(あれは、セロリに蒼星V、しるびあ・・・?)
キャッキャと声を上げながら、3人は服を脱ぎ、湖へと入っていく。
「どうです。べろんちょ、最高のポイントでしょう、べろんちょにだけですよ、フフフ…」
(もしかしてこれって…)
「夜にはまた月明かりに白肌が照らされ、一晩中精を出しっぱなしですよ、ハッハッハ」
「……ただの覗きじゃないか!」
勢いあまって立ち上がったべろんちょに一同の視線が向かう。

「きゃー覗き!」
「あれって、エースじゃない?」
「えーしんじられなーい、幻滅ですぅ」
「ちがう、私は、そうじゃない、ぞ、ぞぬ…?」
必死に弁解をするも3人の耳へは届かず、ぞぬへと助け船を求めた。
しかし、そこにぞぬの姿はすでになく、べろんちょはそのまま氷ついてしまった。

*	*	*

「まったく散々な目にあった…」
昼間が過ぎた頃、ようやく3人を説得できたべろんちょは街を歩いていた。
「だいたい、最近の兵士たちの士気は下がりっぱなしだ、国王からもガツンッと言ってもらわなくては…」
『キャー!』
「なんだ!?」
べろんちょはすぐさま、叫び声の聞こえた元へと急いだ。
川岸にはすでに人だかりができており、皆、同じものを見ていた。
「どうした?」
「あ、エースさん、メタル幼女さんが川で溺れて」
川には必死に枝にしがみつく、メタル幼女の姿があった。
川の流れは速く、川に飛び込むにもいかず、皆その姿を見守るしかなかった。
「私が行く、みんなはロープ準備してくれ」
「は、はい」
そう言うと、べろんちょは鎧を脱ぎ捨て、川へと飛び込んだ。
(予想以上に川の流れが早い…)
川の流れは容赦なくべろんちょへと押し寄せてくる。
(早くしなければメタル幼女の体力も持たない…)
なんとかメタル幼女の元へとたどりついた時には意識はなく気力だけで枝にしがみついた。
「だ、大丈夫か!?もうすぐ岸へと引き上げてやるからな」
返答はなく、小さな体を震わせていた。
「みんなはまだか?…!!」
その時、つかんでいた枝は折れ、濁流に流されてしまう。
(…ちくしょう…、どうにかして、メタル幼女だけでも…)
べろんちょの意識は消え、二人の体は川の中へと吸い込まれて行った。

(…ここは…あの世か…)
「お目覚めですか?」
「…ここは…」
べろんちょが痛む体を起こし、かすむ目を凝らし、声の主を探した。
そこにはぞぬの姿があった。
「メタル幼女なら大丈夫ですよ、あそこでゆっくり眠っていますから」
「ぞぬ、オマエが助けてくれたのか」
ぞぬは黙ってマントを翻し背を向けた。
「いえ、ちょっと水遊びをする幼女たちを眺めていましたら、メタル幼女を抱えたあなたが見えましてね
うらやましくてちょっと仲間に入れてもらおうと思っただけですよ、フフフフフ…」
そう言って、ぞぬは歩き去って言った。
「ぞぬ、すまん、ありがとう…」

*	*	*

次の日、早朝特訓を終えたべろんちょは、街を歩いていた。
「たいへんだ!!」
突然の声にべろんちょも慌てて、声のする方へと駆け出す。
「みたらしさんが街に入り込んできたモモザルの大群に襲われてる!!」
「大変だ!しかし、あの数では迂闊に手を出せない…どうすれば…」
その時、屋根の上にいたぞぬの姿が目に入る
「いい所に来た、ぞぬ、一緒にやるぞ!!」
べろんちょは剣を抜き、モモザルの群れへと突進する。
「…なんだ…幼女じゃないのか…」
べろんちょはモモザルのフラッシュレインを受け遠のく意識の中、ぞぬが走り去っていく姿を見ていた。

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最終更新:2009年10月12日 19:22