806 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/17(土) 17:23:29.82 ID:NkG5YeMq0 (PC)
割と暇な国王の一日
「ところで、国王の御用事は――」
夜勤はぽけっーと突っ立っているビプ妹に話を戻した。
一瞬きょとんとしていたビプ妹だったがすぐに自分の用を思い出したのか、少し顔を赤らめながらひとつ咳払いをした。
「そうそう、実はな……」
言いかけたビプ妹の背後で、ドアが派手な音を立てて開いた。
「夜勤ッ、入るぞ!」
絵に描いたようなヒーローさながらな風貌をした青年が、一陣の風とともに颯爽と部屋に入ってきた。
青年はビプ妹に気づくと、すぐに敬礼の姿勢をとった。
ハロワ国のエース、べろんちょであった。
ビプ妹の召喚したVIPPERの中でも最強とされ、その力はVIP参謀をも凌駕するとも噂されているエリート中のエリートである。
「どうしたんだ、べろんちょ? らしくも無く慌てて」
ビプ妹が不思議そうにエースを見上げる。
「落し物でもされましたかな?」
夜勤も心配そうに続けた。
「あ、ああ……。落し物といえば落し物なのだけれども……」
いつに無くエースが奥歯にものが挟まったような言い方をする。
「では、こちらの紛失届にご記入を」
「ああ、すまない……」
べろんちょは夜勤から用紙を受け取ると、黙々とペンを走らせている。ビプ妹は興味津々に横合いからエースの手元を覗き込む。
「なるほど。無くしたのはDVD映像ソフトですか」
べろんちょから受け取った紛失届に目を通しながら、夜勤が事務的に確認をしていく。
「そうなんだ。俺としたことが、先日【amazon.co.jp】から取り寄せたばかりだというのに、森で修行しているうちにどこかへ置き忘れてしまってな……。昨日いっぱい探し回ったのだが……いかんせん広い森の中だ。もしや、こちらに届いてはいないかと思って来てみたんだが」
「なるほど……、一応確認のため聞いておきますけど、何の映像ソフトだったんですか」
夜勤があくまで事務的に尋ねる。
「そ、それは、ア○ゾンから取り寄せたアニメーションの映像ソフトだ。二ヶ月も前から予約しておいた初回限定仕様だから、見れば一目で分かるはずなんだ」
「もしかして、これじゃねえか」
ビプ妹が《十六夜魔法少女・セロリちゃん》初回限定豪華仕様DVDボックスを、重そうに両腕で頭上にかかげてみせる。
「こっ……、これはッ……。夜勤!一体どこにあったんだ!!」
べろんちょは驚きと安堵に目を見開きセロリちゃんのイラストを凝視すると、詰問するかのような口調で夜勤に尋ねた。
「童帝ニートが森で拾ったとかで、さっき届けに来てくれたんだ」
夜勤は頷きながら返事をする。
「そうか、あいつが……。あとで是非、礼をしておかないとな」
エースがさわやかにそう言ううしろで、《十六夜魔法少女・セロリちゃん》初回限定豪華仕様DVDボックスを、ビプ妹がしげしげと見つめている。
「べろんちょ、これおもしろいのか?」
国王の問いかけに、エースべろんちょが「げふん」と咳払いをする。
「はっ、殺伐とした日々の修行に、喜びと潤いを与えてくれるすばらしいアニメーション作品だと思っております」
「へぇ、――初回特典映像は『秘湯温泉宿だよ、セロリちゃん』※地上波では放送できなかったオリジナル無修正版……か」
興味津々な様でパッケージを読んでいる国王に、べろんちょが少しうわずったような声をだす。
「こっ、国王。……、その……」
「なんだ?」
「いっ、いえ。ぶしつけな願いなのですが、わ、私がこういう趣向の作品を好んで鑑賞しているということは、他の戦士たちには…できれば、伏せていていただきたい」
ビプ妹が不思議そうな顔で、エースを見上げる。
常に沈着冷静なはずのエースべろんちょが、珍しく額に汗を浮かべている。
「いえっ、これは、け決して後ろめたい気持ちで言っている訳ではなく…、その、セロリちゃんは素晴らしい作品なのですが…、なんといいますか、私のイメージというものもありまして…その……」
言いよどむエースを面白そうに眺めながら、ビプ妹は話を遮った。
「わかったわかった、他の連中には特に何にも言わない様にしておくさ。なあ、夜勤」
夜勤もニコニコと頷いてみせる。
「だから、後で俺にもこれ貸してくれよ」
にいっと八重歯を見せて笑うビプ妹に、エースもようやく安堵の顔を取り戻した。
「もちろんッッ!うぉおおおおおッッ!!!これで雑念無く修行に打ち込めるッッ!夜勤もありがとぉッ!童帝ニートにもよろしくッ!」
エースの名にふさわしいたぎるような炎を纏いながら、べろんちょは手を振り見送る二人を背に、風と共に猛然と駆けだした行った。
ー次回をまてー
最終更新:2009年10月17日 18:18