命の魔王


二つ名:命の魔王


詳細:

とても好戦的で口より拳で語り合うのと酒を飲むのが好きな魔王。
命の魔王が作り出す魔界は、荒廃し切り立った岩肌がむき出しになっている、一見何も無いような魔界である。
魔界のそこかしこにクレーターのようなくぼ地や地割れがあり、来訪者達との戦いの痕が見受けられる。
魔王は普段、自身の魔界の最奥にあるひっそりとした森に庵を構えて暮らしている。
そこは魔界で唯一泉の湧く場所であり、木々や動植物が存在できる安寧の地となっている。
泉の水を飲んだものは死者ですら生き返る、不老長寿の泉であるといわれ、勇者の来訪があとを経たない。
そして、その泉を沸かせているのが命の魔王の魔法によるものである。
しかし、魔王はこの泉の力を安易に使うべきではないとして、かたくなにその存在を隠している。
鬼族としておおっぴらに魔法を使うのはもちろん、魔王自身が命の重さを知っているからである。
そしてそれは人間との悲恋が原因だったのでは、と噂されるが当の魔王は酒の席ですらその話題を口にすることはない。
ちなみに、泉の水を飲んだだけでは不老不死にはならず、自然治癒力の向上程度にとどまる。
不老長寿の妙薬となるには、泉の水を使い魔王が魔力を込めつつ酒にしなければならない。
ということもあり、普段の魔王は酒作りに没頭している。
「こうやって自分の手で苦労して作ったものだからこそ価値があるんだろ」とは命の魔王の酒宴での自慢話である。

 

命の酒造り

鬼族のため単純な肉体能力による物理攻撃
巨大な杯を差し出して「まぁ飲めよ」「俺の酒が飲めねぇってか?ああ゛!?」


弱点

あまり頭は良くない
ひとたび酒宴を開けばとことん飲み明かし、周りのものを酔い潰していく
酔ったときは妙に口数が増える


【命の魔王物語】

命の魔王の基本設定ともなる物語。

始まりはなんてことのない、小さな命の種火だ。
おぎゃあと生まれて、すくすくと育って、至って普通の鬼だった。
お前は村一番、いや鬼族きっての怪力だなんて言われていた。
少し違ったのは、ほかの鬼族とは違い、強い魔法の力をもっていたことだ。
鬼族の間には、魔法は弱いものが使うもの、なんて掟があった。
そして持って生まれた強い魔法の力は、その掟に触れるとあって、幼くして集落から追放された。
その力の使い方も知らないのに、まったく勝手な話だと今でも思う。

まぁ、だからと言って、食うに困るってことはなかったわけだが。
自由気ままに山野を駆け回り、草木の夜露を酒に、食えるものはなんでも食った。
数々の山の実りはもちろん、慣れてきたら動物を獲ってその肉を食った。
強いものが弱いものを食う。そして生き残る。
魔法がなんだ、掟がどうだと言われても、これだけはどうやっても変わらないのだと思った。

そんな自由気ままな暮らしも、しばらくすると横やりが入るようになった。
人間の討伐隊や、鬼の縄張り争いってやつだ。
こちとら勝手に放り出された身なのだ。他に遠慮する義理もねぇ。
そんな奴らが来るたびに追い返すなり、食い殺すなりしてきた。
当然、生傷は絶えなかったが、不思議と治りは早いし、傷跡が残るようなこともなかった。

そんなことが何十年と続く内に、人間も鬼族も恐れをなして、誰も寄り付かなくなった。
それはそれで張り合いがねぇなとふと思い、近くにあった人間の集落を一つ潰してみた。
人間からみりゃ、何十年と前から居座る恐ろしい鬼だと思われていたらしい。
姿を見たとたんに恐怖し、逃げ出した。
それを端から八つ裂きにして、食い殺していくのはなかなかに楽しかった。
鬼族の集落もおんなじだ。
人間と違い、自分の力を過信して歯向かってくる奴のほうが多かったが、なんてことはない。
少し歯ごたえがあるくらいで、噛み砕くのにはそれほど苦労しなかった。
集落を襲った時のごちそうといえば、酒や手間の込んだ塩漬け肉の類だったな。
ああいうのは、山を駆け回っていた頃には口にできなかったから、そりゃもううまかった。
生の肉を食い、酒をあおる。塩漬け肉を食い、また酒をあおる。
なんてのを、燃え盛る集落のそばでやっていた。
その火であぶったのもまたうまかったな。

で、とある集落を襲っていたさなかのことだった。
人間が、供物を差し出すから、どうか殺さないでくれと言い出した。
供物がなんだかよくわからなかったが、なんだかおもしろそうなので話を聞いてやることにした。
そうすると、集落を襲っていたところが噂で聞いていたらしく、俺が酒好きなのを知っていやがった。
酒と、その肴をささげるので、どうか我々の集落は襲わないでくれと言われた。
時に甘く、時に喉を焼くような熱さを持った、あの酒が手に入るときたもんだ。
面白い話だと、思いその口車に乗ってやることにした。
そうすると、襲う先の集落がこぞって供物を出すと言い始め出した。
どうかお願いしますと必死になって乞う姿は滑稽で面白かった。
寝ていても酒や食うものに困らないというのはなかなかいい条件だと思い、それらをすべて呑んでやった。
かくして、人間や鬼の集落からの供物で、腹を満たす日々が続いた。
その頃か、俺が鬼神様だのと呼ばれ始めたのは。

そいでまた月日は何十年と流れた。
その間に、社が建てられ、そこに供物が年中運び込まれ、住むにも食うにも困ることはなくなった。
そして、ようやく自分が歳をとっていないことに気が付いた。
なんてったって、他の供物を捧げに来る鬼族はみるみる年を取っていくのだ。
それに比べて俺はまったく歳をとっていない、力も衰えないときたもんだ。
これが魔法の力ってやつなのかとなんとなく察したが、このときはなんの感慨もなかった。

供物を捧げられるようになってからそう経たないうちに、大飢饉が集落を襲った。
社のある山は相変わらず食うに事欠かない実り具合だったが、今にして思えばこれも俺の魔法の力のせいだろうな。
しかし、人間や鬼たちは食うに困り、酒も出せず、肴もないときた。
だけど、慣習として供物は捧げないと自分たちが危ないってのは気付いたんだろうな。
で、しょうがねぇからと、自分たちの中から生贄をよこしやがった。
そのころには、集落を襲うのも飽きていたし、生贄を寄越すというのが、俺の出自と重なっちまって、鼻もちならなかった。
だが、奴らも苦肉の策なんだろうと、その場は収めた。

生贄としてやってきたのは、やせっぽちの女だった。
さすがに食いでがないなと思い、八つ裂きにするのも飽いていたので、そこらに野放しにしておいた。
そうすると、贄として出された意味がないなどと言い出し始めた。
これまた面倒だが、仕方がないので酒の肴に話でも聞かせてみろと言ってみた。
そうすると、女は次々と面白い話を聞かせた。
中でも面白かったのは酒の作り方だったな。
そのまま食えばいいものを、よくもまぁそんな手間をかけるもんだなと言ってやった。
女は「そうやって苦労して作ったものだからこそ、おいしいものが飲めるのよ」と返してきた。
そんな言葉にほうとうなずきつつ、だからこそ、酒ってのは格別美味いのかと思った。

さて、その女だが、やせっぽちなのが災いしたのか、元からそうであったのか、病に伏した。
自然とあふれ出る俺の魔法の力の影響でも治らない、不治の病ってやつだったんだろうな。
床に伏してからも、女は毎日のように話を聞かせた。
やめろと言っても聞かず、それならば食らうぞと言えば本望だと言い、頑として譲らなかった。
仕方なしと、話を続けさせると、時折こんこんと咳をし、それに血が混じる。
だが、贄としての責務を果たそうと、何食わぬ顔で俺を喜ばせようと話を続ける。
正直に言って、見るに堪えなかった。
そのときだろうか、初めて哀れみというのを感じたように思う。
強者が弱者を食らう、当然の摂理。
その中に、弱者とて必死に生きあがいているという事実を目の当たりにした。
それがひどく愛おしくも思えた。
生きるということが、これほどまで輝いているものかとまぶしくも感じた。
そして、女を美しいと思った。

ふと、女に問いてみた。
もっと生きてみたくはないかと。
俺は、いつの間にか、女のことが惜しくなっていた。
このまま失うには惜しい命だと。
だから、俺の魔法の力を使えば、女の命くらい何とかなるのではないかと言ってみた。
この山々の恵みは、力を使わずとも影響があるくらいだ。
使えばきっと、その病も治るだろうと。

女は首を横に振った。
限りある命だからこそ、価値があるのだと。
そして、人は死ぬまでに何を成したかで価値が決まる。
死ぬまであがき続けて、そして最後には生まれた意味を知って、死ぬのだと。
だから、死ぬことは怖くない。
生き続けて、その価値が、意味がわからなくなることに比べれば、と。

生きることの価値など、考えても見なかった。
俺は死なない。そして強い。ただそれだけのように思えてしまった。
生きるために、生かすために死に物狂いで命の炎を燃やす女と比べて、俺はどれほど傲慢なのかと思った。
生きることの価値を知らず、俺は生と死を冒涜する、理を外れた存在であることに気付かされた。

そんな俺をみて、女が言った。
いつか、いつかきっと、あなたにも生まれた意味が分かるときがくる。
それがいつになるかわからないくらい、長いだけだと。

そう言い残して、女は目を閉じた。

女の墓を目の前に俺は、女に対して何かしてやれただろうかと思った。
惜しかった命、いや守りたかった命に、俺はいかほどのことがしてやれただろうかと。
無理やりにでも力を使えばよかったのだろうか。
しかしそれは、女が望まなかった。
俺は何もできなかった。

そう、何もできなかった。

自分ではない誰かが、つぶやいたような気がした。
お前は何もできなかったのだ。
そうだ、何もできやしない。
命をもって、命を知らず、命を弄ぶお前には何もできない。

そんなことはないと、思いたかった。
俺も死ねば命を知ることができるのだ。
死ぬ。
そうだ、俺も死に場所さえ見つければよいのだ。
なんだ簡単ではないか。

そう思い、ふらりと立ち上がった。

その後のことは、あまりよく覚えていない。
ただ、死に場所を求めて、力を振りかざしたのは覚えている。
幾度とない戦いで、命尽き果てるまで戦った。
だが、俺の命は尽きることなく、次の戦いを求めた。
そのさなかで、誰かが俺を魔王だと呼んだのを覚えている。

戦って、戦って、戦って。
殺せと何かがつぶやくのだ。
自分ではない何かが、目の前の敵を殺せとつぶやくのだ。
殺せとつぶやくのだ。
俺を殺せと、俺自身がつぶやくのだ。

そうして、何もかもを破壊した後、世界には何も残らなかった。
岩と砂とがれきと燃え滓だけが残る世界に、俺は一人残ってしまった。

気が付けば、俺は女の墓があったであろう場所に立ち尽くしていた。
そばには、一筋の湧き水が流れていた。
ぽたりと落ちるしずくは、俺が流せない涙の代わりのように思えた。
眠ろう。もうこの命が朽ちることはない。
ならば、せめて眠ることで、この絶望を忘れようと。

岩肌に背を預け、瞳を閉じ、眠る。
どれだけ戦っていたのかわからないが、どっと疲れが押し寄せてくるような気がした。
そして、そのまま意識を手放した。

どれほどの時間が経っただろうか。
何十、何百とたったのではないかという長い眠りの果て。
ぼやっとした思考のまま、ゆっくりと目を開ける。
しずくがぽたりと、水面を打つ音が聞こえる。
それに呼応するかのように、少しずつ意識が回復する。
木々のざわめきが聞こえる。
鳥の鳴き声が聞こえる。
視界には、緑色の苔や草が生えている。
見上げた空は、青く澄んでいた。

荒れ果てた岩だらけの世界で眠っていたはずだった。
それがいったいどういうことだ。
重たい体を引き起こして、ずるずると立ち上がる。
ここはいったいどこだと辺りを見渡し、ゆっくりと歩いてゆく。
そうすると、次第に木々が開け、草原になり、更にその向こうは荒れた岩肌が見えた。
あぁ、ここはやはり元居た場所なのかと分った。

そうするとこの草木はと、ふと思ったが、原因はすぐに思い当たった。
俺の魔法の力か、と。
そうか、俺の力は命を生み出すこともできるのかと、ふと思った。

一度は失ったはずの命たちが、かえってきた。
ゆっくりとだが、芽生えた命の種火たち。
これからまた幾星霜の時が流れることだろう。
だが、その先にまた巡り合うことができるかもしれない。
そして、その時には、大好きな酒を呑み交わそう。

 


関連のお話など

 



 

タグ:

魔王
最終更新:2024年01月04日 19:14