後日談1『ざわめき〜レドルの憂鬱』


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 ーーメタファルス 首都インフェリアーレーー
 天覇が展開したサービスの一つ『トライボックス』を終えてから数日。その記憶は僅かながら断片的になっている部分が見え始めている。
 そのサービス中、オレはどうやら天覇側でも意図していなかった挙動に遭遇し、後日話をすることになっているのだが、あまり日が経ってしまうと、いくらかは忘却の彼方へと消えてしまいそうだった。
 その意図していなかった挙動が何に当たるのか、オレにはなんとなく見当がついている。

「もしあの人を見つけられたのなら、とっ捕まえてちゃんと話をしたいところなんだけどな」

 インフェリアーレの一等地にある公園ーー中心部にはこじんまりとしたお店のようなものがあるーーのベンチに腰をかけ、今日は少しだけどんよりとしている空を見上げながら、数日前の記憶に焦点を当てた。
 遠隔で同じようにして参加してきた、最初はおとなしい印象を持っていた、雑貨屋をやっているというソル・シエールのレーヴァテイル、リッカ。それと、不思議な雰囲気を醸し出していたクラスタニアのレーヴァテイル、ヤグシャ。
 最初はどちらも普通の参加者だと思っていた、それは間違いない。いや、ソル・クラスタからの参加はほんの少し疑問に思ったところだが、否定できる根拠がその時にはなかったというのが正しい。ゲームが始まる前に読んでいたパンフレットにも『トライボックス』は三人用のゲームであることが明記されていたからだ。
 そして、ゲームを終えるまでその疑念は終ぞ晴れることはなく、むしろ深まる結果に終わった。リッカは疑う余地もなかったが、ヤグシャに関しては持ち合わせている技術や経歴含めて謎が多分に含まれていた。

「結局何者なのか、分からなかったしな。いくつか収穫はあるけどさ」

 その収穫の一つは、メタ・ファルスで発生している失踪事件についてだ。
 どうやら彼女はとある体制に対して改革を起こそうとしているらしい。その思想に賛同する者を集めるため、ソル・シエールやメタ・ファルスで人を募っているとのことだが、伝手がメタ・ファルスに集中していることと、その伝手の性質上の問題で届出が不行き届きになる可能性があるらしい。
 噂程度にしか耳にしていなかったとはいえ、ここで原因がはっきりした分多少は不安が落ち着くというものだ。
 そしてもう一つ、近年起こっているソル・シエール〜メタ・ファルス間での流通の停滞についてだ。
 これについては彼女の推測止まりというところではあるが、要因はソル・シエールの空賊にある可能性が高いということだった。メタ・ファルスであればアルフマン元総帥の目が効いていること、ソル・シエールでは近年飛空艇の価格減少により空賊の参入障壁が低くなっていること、この二点からの推測だった。

「このあたりの情勢を押さえているのも、主にソル・クラスタからいるなら不思議な話だよなぁ。協力者がいるとはいえ」 

 一人ごちて、嘆息する。
 もやもやが晴れないのは、何かしら厄介ごとを抱えてそうな彼女を心配しているからなのか、面倒ごとに自分を巻き込んだことへの苛立ちからなのか、いまいち自分の感情についていけていない部分がある。

「あれ、レドルじゃん。ねぇねぇ、アレどうだった? アレ?」

 そんなところへ、思考を流し去るような通る声をかけてきたのは、学校でいつもオレが連んでいるグループにいる女学生の1人、メルフィール・ストランドだった。
 考え事を一旦やめ、立ちあがろうとしたところをメルフィールは制し、隣に座った。

「メルか。アレは順当に楽しかったよ。魔法を使えるってのもそうだったが、考えてあれこれやるのも性に合ったってのはある。体を動かすのが好きなメルにとっては、もしかしたら窮屈かもしれないけどな」
「やっぱそうだよねぇ。体を動かすんだったらやっぱり『ホワイトアウト』とか『ウォーフレーム』とかになりそう。魔法も気になるんだけどな〜」
「こう、自分の手足の延長線上じゃない場所で炎だったり水だったり、いろんな現象をおこせるのが人によっては楽しく思えるんだよな。まぁ、一緒に参加してたレーヴァテイルは、普段使ってる詩魔法とは勝手が違うから違和感があったみたいだけどな」
「ふ〜ん。今度ネリスとか誘って遊んでみようかなぁ。あ、でもネリスってあまりゲームとか好まないか」
「あいつはまぁ難しいだろうな」

 クラスメイトのことを頭に思い浮かべてはぶんぶんと顔を横に振るメルフィール。実際のところ、オレ達がいつも遊んでいるグループで、レーヴァテイルでかつ『トライボックス』のようなゲームを好みそうな人はいないはずだった。

「ところでさ、さっきまで何考え事してたの?」

 唐突に話題を変えられて目を点にしかけた。遮ったのはそっちだろうに、という言葉は飲み込まざるを得なかった。

「ん? ああ、アレの件で、オレがやった時にどうも不具合があったみたいでさ。それについて聴取されることになったんだが、どうも一筋縄じゃいかなさそうでな」
「不具合か〜。初日だし、ありそうな話よねぇ」
「それもそうなんだけどな……」

 初期不具合は別に天覇に限った話でもなければ、こういったサービスに限った話でもない。初めて行うものに関しては得てして何かしら問題が起こるものではある。

「これがサービスそのものに起因するものだったら話は単純で済むんだが、どうもそうはいかなさそうでな。結構大事になりそうな雰囲気はある」
「レドルも大変ねぇ」
「まぁ、天覇の人と話ができるチャンスと思えば苦じゃないさ」
「あっ、そっか。レドルのお父さんっていろんな企業と繋がってるところに勤めてるんだもんね」
「そういうこと」

 オレの父親、ガレットが勤めている企業は元々メタ・ファルス内の交易を管理・推進する事業を展開していたが、雲海が晴れて以降、メタ・ファルス以外の地域からも交易を行うようになり、かなり大規模な事業になりつつある。その交易をしているところの一つが天覇というわけだ。

「まぁ、あまり自由に話せるような状況じゃなさそうだから、旨味は半減、いやそれ以下かもしれないけどな」
「それはもうしかたないよねぇ」
「ま、なるべく早めにしてもらわないと記憶なんてすぐ飛んじまうから、聴取にせよできるだけ早めにしてもらいたいところだな」
「あたしもすぐ忘れちゃうかも」

 けたけたと笑うメルフィールだが、勉強についてそこそこ自信のあるオレより成績が良く、かと言って運動ができないといえばそうでもなく、こちらも学年で上位をキープしている。苦手なものも多少あるようだが、文武両道を地で行く彼女にちょっとだけ嫉妬を覚えているのは否定できなかった。

「また冗談なのか分からないことを。
 そういえば何か予定があるんじゃないか? オレにかまけけていいのか?」
「予定はないことはないけど」

 そう言って時計を見たメルフィールは目を見開いて仰天した。

「えっ、もうこんな時間じゃん。急がないと間に合わなくなりそう。んじゃ、レドル、また学校でね」

 と言うや否や、こちらの返事も待たずにどこかへすっ飛んでいってしまった。

(相変わらず元気いっぱいだなぁ)

 あの元気の良さはグループ随一でもあり、彼女のおかげでかなり良い空気感が保たれていると言っても過言ではないのだが、果たしてその源は一体どこにあるのだろうか。
 考えても答えが見つからなさそうなどうでもいい疑問は捨て置き、あらためてトライボックス中の出来事をおさらいしようと思ったが、空に少しずつ雲が出てきている。どうやらこの後の天気はあまり良くないようだ。
 いまだに元気いっぱいに遊んでいる子供の姿を横目に、公園を出て家へ戻ることにした。





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最終更新:2023年09月04日 22:41