本編




 A.D.3738 ソル・シエール
 ホルスの翼のうち、その右翼部分が堕ちることになったミュールの反乱からおよそ300年。ソル・シエールの人々はその長いとも短いとも言えぬ間、平和に過ごしている。ただし、数十年という長い年月の間謳い続ける存在、星詠によって築かれているものだということは、ホルスの翼に住む人間には知る由もない。
 その星詠も、β純血種だから問題ないというわけではない。不慮の事故によって命を落とす、あるいはそうは行かないまでも、クロニクルキーを謳えず、星詠としての役目を果たせなかった者もいる。でなければ、私ーー亜理紗で29代目などということにはなっていない。聞いたところによれば、数十年という長期間を謳い続けられた星詠は20に満たないらしい。要するに、およそ10人、あるいはそれ以上が星詠としての役割を十全に果たせなかったことになる。
 それが多いか少ないかは、私が考えることではないと思った。





 クレセントクロニクルーーここは、ウイルス体となったミュールを封印するために、星詠がヒュムノスエクストラクトのひとつ、クロニクルキーを謳うための場所。任期の間、星詠は一日のうちの半分以上をここで謳い過ごすことになる。
 独りというわけではない。クレセントクロニクルそのものになったテル族、タスティエーラがいる。しかし、その仮初の姿を現すことはほとんどなかった。プラティナからイム・フェーナに来た時には、大本願でたしかにその姿を見たけれど。
 詩に集中する、という意味では星詠も他のことに意識を向けることはない。敵襲であれば話は別だが、そもそもここはイム・フェーナに住むテル族か、現役の星詠以外入ることはないのだから。
 ただ、私の代は終わりが近づいている。タスティエーラの話では、そろそろ次の星詠を迎えに行く頃合いだと言っていた。かつて自分も訪れた追憶の尾翼、プラティナで育てられた次の星詠は、そこでテル族への引き渡しが行われるのだ。
 気が狂いそうになるほどの年月もようやく終わりだと、そう思った。その期間のほとんどをこのクレセントクロニクルで謳うだけで過ごしてきた今までの星詠達には頭が上がらない。結果として、謳い続けられた歴代の星詠に比べて”やや平均より短い期間”になったとはいえ、自分がその仲間入りを果たすことになるとは、今でも信じ難いものがある。
 そんな日から今日までの間、少しの安堵と、解決への道筋が出なかったという諦念が混じりながら、ただひたすらに謳い続けた。結局は問題の先延ばしに他ならないということは、この数十年の間幾度も考えたものだ。
 今日も今日とて幾度も詩を繰り返し謳い続け、その感覚も薄れ始めた頃、突如として人の姿が現れる。タスティエーラの仮初の姿だった。

「今日もお疲れ様、亜里紗。明日からは次の星詠が謳うことになるけど、明日はまだここに来てちょうだい。貴女が謳うわけじゃないから、問題なければすぐに戻ることになるけど、念には念をってことで、ね」
「わかりました」
「それじゃ、また明日」

 要件だけ手短に伝えるとタスティエーラは姿を消した。相変わらず唐突だが、もはやそれも慣れてしまっていた自分に苦笑する。クレセントクロニクルそのものとなっている彼女には、もしかしたらもう人としての感性は残っていないのかもしれない。
 そんなことを考えながらクレセントクロニクルを後にする。




 翌日の早朝、いつものように護衛と共にクレセントクロニクルの入口に来ると、そこにはタスティエーラに別の護衛のテル族の他、見知らぬ顔がある。間違いなく次代の星詠そのものである。視線を合わせると、彼女は目で軽くお辞儀を返した。

「揃ったわね。必要ないかもしれないけど、一応紹介しておくわ。次の星詠を担う、雨華よ。で、こっちが亜里紗、昨日までずっと謳っていた星詠よ」
「雨華と言います。次代の星詠、精一杯務めさせていただきます」
「そんな固くならないでいいのよ……ってのも酷な話かもしれないわね。なんでもないわ」

 短いやりとりを済ませた後、タスティエーラは護衛達にこの場で待っているよう告げ、私と雨華をクレセントクロニクルの中へ招き入れた。私にとってはもう感情の揺れも出ないその場所は、初めて入る雨華にとっては違うように感じていることだろう。

「ここがクレセントクロニクル。ミュールの封印のため、これから貴女が謳い続ける場所よ。
 まあ、説明はもう要らないわね。準備はいい?」
「はい」

 天井から突き出ているような、クレセントクロニクルの真下に雨華が歩いていく。彼女が謳い始めるまでの間、私も僅かながら緊張していた。
 幾許か経って、ついにそれは始まる。30代目星詠の誕生の瞬間であり、29代目星詠の終焉でもあった。

(こうしてまた1人、犠牲になるのね……)

 時代の犠牲、このソル・シエールに住むすべての人がウイルスの脅威に晒されることなく生きるためのもの。ここで謳う星詠だけは、そのために謳い続ける必要があった。はたしてそれは真に『生きている』と呼べるのだろうか。

「封印が正常に機能し始めた。あとは、この子のクロニクルキーが完全な詩であれば」
「……」

 そう。この詩が完全なものでなければ、30代目の星詠は継承されず、29代目の私が再び謳い続けることになる。そんなことは、もちろん御免蒙るところだ。
 緊張の時間は、実際に経過した時間よりもずっとずっと長く感じられた。呼吸の感覚も、いつの間にかかなり空いている。ちら、とタスティエーラの方を向くが、その表情から読み取れるものは何もなかった。
 結果的に懸念は杞憂に終わった。何事もなく詩は終わり、また繰り返される。その様子を見届けた私は、ようやく緊張が解けた。少しだけ息が上がっているのを感じる。

「大丈夫そうね。それじゃ、一旦大本願で今後の話をしましょうか」
「はい」

 返答を聞いたタスティエーラはその姿を消した。
 もう一度雨華の様子を見た後、私はクレセントクロニクルを出て、外で待っていた護衛とともにイム・フェーナへと戻ることにした。





「ーーということでな、何事も起こらなければいいのだが、最悪の事態は想定しておかなければならぬ。そのための措置だと思ってくれ」
「こればっかりは、あの子を信じるしかないってことね」
「楽観ができないのは、これまでの歴史が物語っているからな。」

 イム・フェーナに戻り、大本願へ赴いた時には既にテル族の族長とタスティエーラがいた。
 族長から伝えられた内容は、数日はイム・フェーナに留まってもらうことと、何事もなければここに来た時と同様、追憶の尾翼にてプラティナへ私を引き渡すということだった。

「ちゃんと見届けるまでは星詠の役割は終わりませんし、その辺は弁えているつもりよ」
「すまない、よろしく頼む」
「それじゃあね、亜里紗。また会うことがないといいけれど」

 その言葉を最後に、タスティエーラは仮初の姿を消した。

「追憶の尾翼へ発つまでの間は、イム・フェーナの中であれば自由に過ごしてもらって構わない。必要であれば、人を付けよう」
「ありがとう。その時は連絡するわね」

 族長に礼をして、私は大本願を後にした。
 結局、雨華は何の問題もなくこの数日謳い続け、私はプラティナへ帰還することとなった。この数日どのように過ごしたかは、全く覚えていないーー。





「おかえりなさいませ、亜里紗様!」

 イム・フェーナから追憶の尾翼に飛び、そこからプラティナーー飛空挺を停めるギャザーに降り立った私を真っ先に出迎えたのは、開口一番とともに抱きついてきた零祢だった。”同じ設定で造られた”はずの彼女がやや幼げに見えるのは、こういうところにあるのかもしれない。
 星詠としてイム・フェーナに行くまでの間、彼女に世話してもらっていたけれど、その時はまだその片鱗は見なかったと記憶している。
 そんな彼女の頭を撫でつつ、引き剥がすように肩を抑える。

「ほらほら離れなさい。待ち遠しかったのは分かるけれど、政務の方々もいらっしゃるのだから」
「うぅ……では、後ほどまたお願いしますね」

 そうしてすごすごと引き下がった彼女には苦笑を漏らさざるを得ない。
 咳払いをしつつ、集まっている政務官やエレミアの使徒に顔を向けて、会釈をする。

「29代目星詠、亜里紗・フェルリア・リューン、無事30代目星詠『雨華』に引き継ぎ、帰還いたしましたわ」
「は、長きにわたる星詠の任務、お疲れ様でした。総帥からは、本日はお休みになられていただき、次第については明日ご報告いただければとのことです」
「そう。ならお言葉に甘えて、今日は休ませてもらうわね」
「お住まいについては、そちらの……その、零祢殿にご案内いただければ間違いないかと。総帥もそのように仰っていましたので」

 先ほどの零祢とのやりとりが快く思わなかったのだろうか、少しだけ言葉に詰まる様子があった。当の彼女は手を振りながらあっけらかんとしている。

「ありがと。それじゃ零祢、行くわよ。案内よろしくね」
「お任せください」
「みなさんもお迎えご苦労様」

 迎えに集まった皆に手を振って、零祢と共にギャザーを後にする。




 零祢に案内された住居に着いてすぐに寝台に座り込んだ私は、ようやく張り詰めていた緊張を解いた。

「はぁ……本当に疲れたわ。雨華に引き継いでからはずっと休んでいたというのに。それに、どうしてちゃんとご挨拶しないといけないのかしら」
「本当にお疲れ様でした。本当はもうぎゅーってしたいんですけど、それは荷物とか色々整理してからにします」

 その場にほったらかしにされた私の荷物をせっせか片付け始める。そんな彼女の様子を見ても分かるように、根はとことん真面目なのである。いや、もしかしたら自分の欲求には素直なだけ、ということはあるかもしれない。以前は隠していただけで。

「零祢、ああいうのは公衆の面前でやるものではないのよ?」
「本当に寂しかったもので、つい」
「つい、でやらないでって言ってるの。こういう人目のない場所だったら別にいいけれど」

 ぺろっと舌を出して謝る様子を見て、肩を竦める。
 彼女が私に好意を示していることが気になるわけではない。星詠候補として造られ、正式に私が29代目の星詠として修行をし、イム・フェーナに行くまでの間、ほとんどの時間を一緒に過ごしていた仲だ。このような反応は至極真っ当なもの。それを言えば、私も零祢に対して好意を抱いているし、同じ穴の筵である。
 とはいえ、星詠として私がイム・フェーナにいた期間は決して短くない。その間に彼女の振る舞いは歳相応に穏やかになっていくものだと思っていたのだが……。これで変わらないのなら、ずっとこのままなのだろう。

「ところで、プラティナはどう? 何か変わったかしら?」
「んー、お年で総帥が変わって体制に若干変化があったりはしましたけど、それ以外は特に目立った変化はないです。街並みは建物の改装のたびにちょっとずつ変わってるので、亜里紗様が謳われる前に比べたら多少なりとも違いがあるかと思いますが」
「そう」
「基本的に外の世界との接触を絶ってますし、変わらないのも無理はありません。劇的に変わる時は、何か異変があった時くらいのものです」
「まぁ、変わらないってことはそれだけ平和だったってことなんでしょうね」
「はい。それはもう、亜里紗様がご立派にお役目を果たされたおかげですから」
「……この役割も、ずっと誰かがやらなきゃいけないというのは皮肉よね」

 誰かが謳わなければ、ミュールがウイルスとして活性化し、ソル・シエールが危機に陥ることは理解している。そして、その役目がβ純血種……リューンの系譜である星詠が担わなければならないことも理解している。ただ、理解できたとて全てが納得できているわけではない。

「ま、もう私がどうこう言うことでもないわね。役目は雨華に引き継がれたのだから」
「そうですね……」

 自分の手を離れたことまで気にするほどの余裕はないと、私は自覚していた。
 諸手を上げ、体を一旦伸ばしてから寝台に横になる。

「それじゃ、私はしばらく寝るわね。夜になって起きなくても、起こさなくていいから」
「あっ、待ってください。せめて着替えてからーー」

 零祢の提案は聞き流して、そのまま入眠した。





 翌日の早朝……というには早すぎる時間に目が覚めた私は、ゆっくりと体を起こして寝台から足を垂らすように降ろし、そのまま立ちあがろうとして……そのまま寝台に仰向けに倒れた。もうここはイム・フェーナではなく、プラティナだ。星詠の役目はとうになくなっている。
 結局途中で起きた記憶はない。壁にかけられた時計を見るに、半日近く眠っていたことになる。

「亜里紗様、目を覚まされたのですね」

 その様子を見ていたのか、既に身支度を終えている零祢が寝台へ駆け寄った。私の背中を支えるようにして体を起こすと、支えた状態のまま隣に座る。

「何年も続けた習慣みたいなものだもの。数ヶ月くらいはきっと抜けないわ」
「……でも、やはりまだ起きるには早い時間ではないでしょうか」
「零祢、貴女がそれを言うの? もう身支度も済ませているじゃない。いくら零祢もβ純血種だからって、ちゃんと眠らないと倒れちゃうわ」
「亜里紗様のお世話をするのが私の役目ですから、亜里紗様が起きられる前に自分の準備を済ませておくのは当然のことです」

 胸を張って言い切る零祢。たしかに、眠そうな表情には見えないけれど、それにしても準備が良すぎると思う。
 お互いに笑いながら窓の外を見るとまだまだ薄暗い。ソルもまだ昇っていない時間なので、それもそのはずだった。

「この暗さだと、まだ外に出るのも難しそうですね」
「別にいいのよ。どうせ総帥もシュレリア様も起きていないでしょうから。せめてソルが昇るまでは、ここにいましょう」
「亜里紗様がよろしければ、そのように」

 結局、この早朝の時間はささやかなティータイムになった。
 最低限の身支度を済ませた私は、椅子に体を沈み込ませて零祢の準備が終わるのを待ちながら、まだソルは出なくとも徐々に明るくなりつつある外の様子を見ていた。窓から見えるプラティナは、星詠としてイム・フェーナに行く前と比べても、大した変化はないというのが正直な感想だ。

「どれだけ年月も経っても、変わらないものは変わらないのね」
「プラティナは閉鎖的ですから。ホルスの翼の文化が入ってくることもなければ、よほどの大事にならない限り、変化が乏しくなるのは無理もありません」

 2つのカップに茶を注ぎながら返答する零祢の声音は、わずかに諦念が含まれているように感じた。

「はい、どうぞ。少し熱いので気をつけてくださいね」
「ありがと」

 カップの半分程度に注がれた茶を、火傷しないようにおそるおそる口に含む。中に広がる味わいは久しいもので、無機質だった生活に変化を加えてくれる。一口目を十分に味わった後、カップに残った分をゆっくりと飲み干す。

「……でも、これは変わってなくてもいい。とてもおいしいわ」
「うふふ、ありがとうございます。おかわり、淹れておきますね」

 空っぽになったカップにまた茶を注ぐ零祢は、後ろ姿でも上機嫌な様子が窺える。二人分のカップをテーブルに置いて、零祢も椅子に腰を下ろした。ニコニコと顔をこちらに向けているのを見て、そっと視線を外す。

「起きてからこんなにゆっくりできるのはとても久しぶりね。謳ってるときは、いつもバタバタしてたから」
「当分の間はこうなりますよ。今はもう復帰してますけど、先代の星詠の方もかなり長い間休まれてましたから」
「ふーん……」

 とはいえ、今後何がどうなるかは今日総帥やシュレリアと話す予定ではある。プラティナに留まっていた零祢が言うのだから、予見が大きく外れるということもないだろうが。
 ゆっくりと飲んでいたカップの中身を飲み干す。そのままテーブルにカップを置いて、ぐっと腕を上に伸ばす。今度はテーブルから少し離れてカーペットに座り込み、手を後ろに突きながら足をゆっくりと伸ばす。

「それにしても、タスティエーラはともかくとして、シュレリア様は1人の星詠が謳い続けるこの状態がずっと続くとお思いなのでしょうね? あ、ちょっと背中支えてもらえる?」
「少々お待ちを」

 言うや否や、零祢はカップを片付けてから私の後ろに座り、背中に両手を当てる。

「こんな感じでよろしいでしょうか」
「ええ、少しずつ押してもらえると助かるわ。えーと、何を話そうとしてたんだっけ?」
「星詠が謳い続ける状況が今後も続くか、という話ですね」
「そうそれ。もちろん、シュレリア様としては続けなければならないというお考えだとは思うけれど、それが可能かどうかは違う話。謳える星詠がいて成り立つ状態なのだから、当然謳う星詠がいなくなったら破綻するでしょう」
「ですが、そのために星詠となるβ純血種を定期的に製造していますよね。」
「ええ。でも、製造されたβ純血種全員が星詠になれたわけじゃない。もし造られたβ純血種の全員が星詠になれるという前提なら、私か貴女のどちらかは造られていなかったはずでしょ?」

 零祢に支えてもらいつつ体のストレッチを続ける。β純血種といえど、体の機能は基本的に人間と変わらない。何年も同じことを続けていれば、どこかにガタが出てくるものだ。

「たしかに……言われてみればそうですね」
「ミュールの封印が始まってからおよそ300年、それに対して星詠は私で29人目……シュレリア様によれば、不慮の事故があった時とか特殊な状況を除いて、長くても1代で30年って話だから。私みたいに20年ちょっとだったり、10年にも満たなかった代もあるけれど、それでも多すぎると思わない?」
「そもそも謳えなかったりしたケースもあるそうですね」
「それに、星詠の重荷に耐えきれなかったりして逃げ出した可能性も、十分にあり得る。でも、そうなっても仕方ない体制だというのも理解できるわ」
「亜里紗様……」

 鈍りきった体はすぐには元に戻らない。無理に動かそうとすればするほど体は壊れていくことをよく知っている。リハビリと称して体を十全に動かせるようになるのがいつになるのか、到底分かりそうもない。

「結果的には、こんな私でも封印が始まってからの年月の十数分の一を担ったことになる。これがあとどれくらい続くかなんて到底分かりっこないけれど、こんな重圧に耐えながらたった一人で謳い続ける役目なんて、長く続かないほうが良いに決まってる」
「私もそう思います。ですが……」
「ミュールという世界の脅威がなくならない限り続けなければならない、でしょ。よわったものよね、ほんと。せめて、私たちの稼働が止まるまでになくなれば少しは気が楽になるのに……。あ、今日はもうこれくらいで大丈夫よ」

 今日はまだ任務から帰ってきた翌日。単に体をほぐすと言っても、そううまくはいかない。零祢の手を支えに姿勢を戻し、ゆっくりと立ち上がる。

「少し早いですが、朝食にしましょうか」
「そうね。そろそろ良い頃合いかも」
「では、すぐにご用意しますね」

 手近なところの遮光カーテンを開けるとソルの光が差し込んできて、その眩しさに目を細めた。ちょうどソルが顔を出す時間らしい。手で光を少し遮りつつ、外の様子を眺める。

「イム・フェーナにいた時はちょっと陽当たりが悪かったから、こうやってソルが昇るところを見たのがずいぶんと昔のよう」
「これからはきっと毎日見られますよ。飽きられるくらいには」
「そうだと良いわね」

 ーーそれから約30年後、ソル・シエールは紆余曲折を経てミュールとの和解に成功し、誰の犠牲もない真の平和が訪れることとなる。そのことを知るのは、まだ先のお話ーー。




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最終更新:2024年07月24日 00:35