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白き闇、動く

「むぅ……」

その日、ヴァイスは新たなシナリオに頭を悩ませていた。ここ最近悉く失敗が続き、しかもここに来てスランプに突入してしまった。次のアイデアがさっぱり浮かんで来ない。

「困りましたねぇ……ワタシも所詮は人間ということですか」

左目だけを閉じたり開けたりしつつ、以前も来た大木の枝の上に寝転んで頭を回転―――出来なかった。
機械の右眼は今の所本人の制御を外れ、ギョロギョロとあらぬ方向を見まわしている。

「…………………………出ませんねぇ」

さっぱり案が出て来ない。どころかキャストの構想すら浮かばない。いつもの調子が完全にどこかに消えてしまっていた。

(意地になり過ぎましたかねぇ)

失敗が同じような原因で続き、何が何でも成功させる、とやや焦ったのは確かだ。
いや、思えばそれこそが原因だったのかも知れない。

「どうしますかねぇ……ん?」

右眼の義眼が、視線の先におかしな人影を捉えた。ヴァイス自身、自分の格好がかなりおかしなものであることはわかっているが、右眼が遠くに捉えたものはそれに負けず劣らずおかしかった。
キュィィ、と右目が駆動し、脳裏にその映像が詳細に写しだされる。

黒マントに黒い髪、とどめに黒い眼隠し。自分も変だが、これも大概だ。

(何ですか、確かコイツは……)

確か、ここに来たばかりの頃に2、3度見かけた覚えがある。接触した事はないが、妙な奴だと思ったのは記憶に新しい。

「……おや、この方向は」

歩いている方向からすると、ストラウル跡地から来たようだ。そして、このまま真っ直ぐ行くと、行きつく先は……。

「……行って見ますか」

気配を消すことなら右に出る者はいないし、死角からついて行けば気取られまい。
それに、スランプのこともある。あの男が何をする気かは知らないが、もしかしたら何かの刺激になるかも知れない。
事と次第によっては手を貸す……あるいは邪魔をするとしよう。

(面白いか、否か。ワタシの判断基準はそれだけですからね)

決断から行動までは一瞬。素早く立ち上がって帽子をかぶり直し、足に力を込める。
そして一跳び、枝葉を震わせてその場から消える。
後には、葉の触れあう音の余韻だけが残った。



白き闇、動く

(壊れた脚本家は)
(その男の後を追った)
(「正義の味方」の後を)

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最終更新:2011年06月07日 00:28