拷問的尋問
夜。ノラにとっては自由行動の時間。
アースセイバーで軽装に着替え、裸足で外に飛び出しても寒くはない。
念のため帽子はかぶり、向かう先はいつもの平原だった。
「今日も
アカノミに会うんだもんね。やっぱり他人とお話ししてる時が一番だなぁw」
「へぇ、やっぱり君にも友達がいるんだね。」
「!?」
ストラウルに踏み言った時、後ろから突然声をかけられ、反射的に飛びのいた。
全身黒尽くめの、夜の闇に紛れそうな男。
黒い眼隠しのせいで表情どころか視線さえも分からない。
マントから垣間見える笑った口が、余計に彼女の警戒心を際立たせた。
「…あの、誰ですか?」
「あ、僕?僕は
シン・シー。『正義の味方』だよ。」
「正義の…?」
「うん。人間を救ってるんだ。」
「…それで、あたしに何の用?」
「君…、人間じゃないでしょ?」
「!」
頭を探る。いつも通り帽子は被ったままで、耳は見えていない。それなのに何故…。
「何で、分かったの?」
「僕はね、能力をオーラとして見ることができるんだ。だから一目見て、君が人間じゃないと、もっと言うなら妖怪だと分かった。」
「…。」
なんてことはない。ただ能力を教えてもらっただけだ。
なのに、何なんだ、この寒気は…?
「…僕ね、人間が好きだから、その生活に害を与えようとする人外を、皆排除しようと思ってるんだ。」
「!!??」
「だから、その達成のために、協力してほしいんだ。」
シンは変わらぬ微笑みをたたえたまま、迫って来た。
「君のお友達の場所まで、連れて行ってくれないかな?」
「い、嫌だよ!そんな話聞いて、案内できるわけないじゃん!」
「そうか…。なら、仕方ないね。」
シンが懐から取り出したのは、白銀に光るナイフだった。
「実力行使するね。もし死んじゃっても、自分の責任だからね?」
そういい、突然眼の前にせまって来たのだ。
「わっ!!」
反射的に飛びのき、後ろに下がる。
周りに人がいないのを確認し、ノラは両手を前に突き出した。
黒い眼が血の色に染まりだす。
両手が指先から黒く染まって変化していく。
切り離すように両手を振うと、3匹の犬が現れた。
鋭い爪と牙をむき出しにし、唸りを上げる。
「いけっ!あいつを足止めしちゃって!」
ノラが叫ぶと、3匹の黒妖犬が一斉に襲い掛かった。
咆哮しながら口を開き、一直線にシンに向かった。
対するシンは焦らずに、取り出したナイフを飛ばした。
ナイフが黒妖犬に刺さった瞬間、霧のようにかき消されたのだ。
「っ!!」
同時にノラが膝をつく。消えた黒妖犬3匹分のダメージの一部が来たのだ。
シンはまたナイフを取り出す。
「な、何であんなにあっさり…!?」
「言ったよね、僕は能力をオーラとして見ることができるって。だから、能力の欠点も探れるんだ。」
両手を広げ、シンが近づく。
「物体を形成する時には必ず骨組みがいる。今の能力も、核となる個所を突くだけでバランスが崩れて消え去ったんだ。」
「嘘…。でもあの一瞬でそんなこと分かるわけ…。」
「あ、そうそう、思い出した。」
シンは懐から小さな白い封筒を取り出した。
「この手紙、書いたの君でしょ?」
「それっ…!!」
「昼間に撃ち落とした鴉が持っていたんだ。」
そう言われ、ノラは全てを把握した。
昼間鴉が消えた原因。そして、自分は嵌められたかのようにここにむかっていたことに。
「…さて、君が知りたいのはこれで全部だろうからね。」
シンが放った幾本ものナイフは、ノラの体ごと壁に突き刺さった。
「っあああああああ!!」
いたる所に走る痛みに、悲鳴を上げる。
それさえも耳に届かないというように、シンは続けた。
「今度は僕の質問に答えてもらおうか。」
傷口から漏れだす血が、アスファルトを赤く染めていく。
「君の友達は、何処にいるの?」
「…っ、誰が教えるもんかっ…!」
「そっか…。なら、仕方ないね。」
一本のナイフを逆手に持ち、振りあげた。
「僕ね、動けない相手を甚振るのは得意なんだよね…。」
「!!」
衰弱していく体に、抵抗する体力は残されていない。
シンは不気味にほくそ笑みながら、ナイフを振り下ろそうとした。
――直前。
「!」
視界の端に赤いオーラを捕えた。
此方に迫ってくるのを反射的にかわす。
オーラは避けられるのも計算していたかのように、ノラの腕を捕えていたナイフをはたき落とした。
「ノラちゃんっ!」
後ろから声が聞こえ、振り返る。
その姿をみとめたノラが、その名前を叫んでいた。
「主っ!キリもっ!」
素早くノラに駆け寄った主…春美はノラの体に刺さるナイフを抜きだした。
キリは先程飛ばした鋏を拾い上げ、シンを見た。
「…どういうことでありマスか。貴方は一体…。」
「あらら、人外が増えちゃった…。」
「人数が多いのは嫌いだからね、おしいけど今回はひかせてもらおうっと。」
独り言を呟き、シンは踵を返した。
「待て!小生の質問に…。」
「…そうだね、何れまた会えるだろうから先に名乗っておくよ。」
「シン・シー。『正義の味方』だよ。」
彼はそう言うと、闇夜に溶けるように立ち去った。
「ノラちゃん、大丈夫!?しっかりして!」
全てのナイフを抜き取られ崩れ落ちたノラに、春美は声をかける。
既に傷は驚異的な回復力で消え去っていたが、力が抜けているらしいノラは一言も発さない。
「ノラちゃん…。」
「…うっ。」
小さな声が耳に届いた。春美がそちらを見る。
ノラが小さく嗚咽を漏らしていたのだ。
そして。
「うわあああ!!」
大声で突然泣き出し、春美に抱きついた。
「怖かったよ!怖かったよ!でも…でも頑張ったよ!うわぁぁ!」
幼い子供のように泣き叫ぶノラを春美は引き寄せ、そっと頭をなでた。
数分後。
とあるビルの屋上に彼はいた。
「…たく、とんでもない邪魔が入っちゃったなぁ。向こうが正義の味方気どりかな?」
取り逃した妖怪を思い返し、彼は呟いていた。
「…でも収穫はあったね。そして謎も発見したね。」
収穫。
それは妖怪の組織ぐるみの可能性。
何らかの能力で繋がりを持っていれば、探っていけば見つかるかもしれない。
そして、謎。
今までに見たことのないオーラの色を見た。
「紫」のオーラが、先程の妖怪に駆け寄った女の子の中にあったのだ。
「未知の人外、なのかもしれないね。これは調べる必要がありそうだ。…さて。」
彼は後ろを見た。
気配を消して常に死角にいるつもりだったのだろうが、強力なオーラは彼の視界の端にちらちらと入っていたのだ。
誰もいない筈の陰に、彼は呼びかけた。
「そこにいる人間は、人外の味方なのかな…?」
最終更新:2011年06月07日 00:30