ウスワイヤの中にあるトレーニングルームの一室
そこでひたすら鉄製のメイスを振る青年がいる
高身長で眼鏡をかけている青年、シュウトだ
かなりの時間を費やしたのだろう、額には汗がにじんでいて、頬を伝い落ちた
「お、頑張ってるじゃん」
不意に声が聞こえたので、素振りをやめてその方へ向く
そこには、よく見知った中性的な少年の姿があった
「
ハヤト、どうした?」
「最近体動かしてないから鈍っちゃってな、ほぐそうと思って」
「なるほどね」
シュウトに近付くと、興味津々と言った様子でメイスに目を向けた
「ところでさ、その棒なんなの?」
「これ?新しい武器だよ。この前作ったんだ」
「作った?何、工場にでも行ってきたのか?」
「違うよ、ほら見てて」
よくぞ聞いてくれましたとでも言いたげにメイスを握り直すと
彼の瞳が能力者特有の光を帯びた
それに呼応するかのように、メイスがばらばらと崩れ落ち
元の姿である長い銅線へと形を変えた
「すっげえ!流石フォレスト・マジシャンだな」
「ありがとう。これには種も仕掛けもないんだけどね」
「まさかお前の能力がこんな使い道あったとはなあ」
「この能力は接近戦に向かないと思ってたからね、僕もびっくりしたよ」
面白い玩具をみるように目を輝かせる少年に、彼も笑顔を浮かべた
「でもさ、シュウトって今まで後衛だったしいきなり近距離って辛くないか?」
「そうだね。訓練はいくらかこなしたけど、まだ能力者同士の戦いには厳しいよ」
「だよなあ」
「でもこのままじゃ力不足だから、最低限の事は出来るようにしなきゃ」
そう言って彼はまた銅線をメイスに変える
魔法のようなその光景を見て、少年はふと口角を上げた
「そうだ、一緒に模擬戦やらね?」
「おや、いいのかい?」
「ああ、もしなんならこっちも手加減するし、お互い能力使えなさそうだもんな」
確かに、接近戦となれば縄を使って拘束する余裕もないかもしれない
そろそろ素振りにも限界を感じて来たころだし、ちょうどよかった
「じゃあお願いするよ」
「おし、ちょっと待ってろよ」
満面の笑みを見せると、せわしなく走り去って行った
その背中を見送り、彼はやれやれと言った様子で微笑した
それと共に、初めて会った時の彼の目を思い出す、恐怖や怒りに染まった空虚な目
「あの日から随分と変わったよなあ」
誰もいない部屋にぽつり、ひとりごとを落とした
戻ってきたハヤトは、いつも使っている物とは違う短剣を持ってきた
「使い慣れた武器じゃなくていいのか?」
「へーきへーき。それに模擬戦なのに本物の獲物だったら危ないだろ」
持ってきたそれは、鉄製ながらも切れる事が無い模擬刀のようなものらしい
彼なりの配慮なのだろう、それに甘んじることにした
彼はそれで空を切らせて感覚を確かめていた
シュウトもメイスを持ち直す
「よし、そっちの準備は?」
「大丈夫、いつでもおいで」
「それじゃ遠慮なく」
ギラリ、と目の色を変えて、彼は地を蹴り間合いを詰めた
(速い!)
次に襲い来る攻撃を、メイスで受け止め、流した
ガキッ、と金属同士がぶつかる音が響く
二刀の短剣は息を吐く間もなく彼を攻め立て、反撃の隙を与えない
(へえ?これは予想以上)
斬撃を与えながら、ハヤトは思った
少年は手加減するとは言ったが、今は殆ど本気と同じだけの速さで攻撃している
しかし彼はその攻撃を全て受け止め、守備を崩さない
アースセイバーでの研修時代、様々な武器を一通り訓練した記憶がある
彼もその時、
同じように訓練したのだろうか
「思ったより出来んじゃん」
「そっちこそ」
「でも、甘い!」
言い終わると同時に、彼のその手に持つ武器を思いっきり蹴りあげた
メイスは彼の手を離れ、宙を舞う
「わ…!」
ハヤトは蹴りのモーションから戻ると、彼が見上げる間もなく腕を振り上げる
それをすれすれで避けると、バックステップで距離をとった
そして彼は懐から新たに銅線をとりだすと、再度メイスを生成する
少年は一連の行動に感嘆の声を漏らした
「便利だなそれ、持ち運びすっげえ楽じゃん」
「そうでもないさ、銅線って思ったより重いんだ」
「なるほど、じゃあさっきより体軽くなったんじゃねえの?」
「そうかもね」
少年はとても、とても楽しげに笑って獲物を構えて駆けると
再び金属のぶつかり合う音が響いた
(このままじゃまずいな)
攻撃をいなしながら、彼は考えた
シュウトは格闘技もある程度出来て、武器の扱いも心得ている身ではある
しかし、相手は短刀のみで能力者と渡り合ってきた実力者
そんなハヤトだから、接近戦においては純粋な強さで劣る所も多い
しかも、先ほどまで訓練を続けいた彼は体力においても優勢を許している
対する少年は戦いたがりな性分もあってか、その顔には笑みを浮かべている
このままではいつ決定打を打たれてもおかしくない
「ぼーっとしてる暇は無いぜ?」
思案する彼に構わず、少年は武器を振り上げた
それに追撃する暇もなく、二つの刃をメイスで受け止めた
ギリギリと音を立てて、そのまま力比べになる
様々な観点で不利な状況にあるシュウトは、内心焦っていた
(能力を使いこなす事なら負けないのに…)
そこでふと、ある発想が頭をよぎる
ここで能力を使えるなら…?
「そろそろ降参した方がいいんじゃねえの?」
「…せっかくだけど、お断りするよ!」
シュウトがにいっ、と笑うと、メイスが突然縄のように姿を変えた
「!?」
それはハヤトの腕に、武器に絡みつき身動きが取れなくなる
「なんだよこれ!」
「こいつの正体と僕の能力、忘れた訳じゃないだろう?」
「まさか、能力の応用で…?」
シュウトの持つ能力
――縛縄の悪夢は、もともと縄を操り対象の動きを拘束するのに特化している
そして彼の武器は銅線で出来ていて、彼の意思によって自由に形状を変える
そのふたつの応用なのだろう、強い締め付けのそれは少年がいくらもがいても逃れる事ができない
そうしている間にも彼は袖口からまた新たな銅線を取り出し、生成を始めていた
「やっべ…」
一旦距離を取って態勢を整えようとした、しかしその行動は叶わない
足元を見れば、そこには腕と同様に絡みつく銅線があった
恐らく、さきほど蹴り飛ばしたメイスなのだろう
「マジかよ!?」
「残念、タイムオーバーさ!」
彼の方に向き直れば、生成も殆ど完了したメイスを振る姿が見え
少年は思わずギュッとまぶたを閉じた
先ほどまで鳴り響いていた金属音はぴたりと止み、乱れた呼吸の音だけが残る
ハヤトは来るはずの衝撃が来ない事に疑問を感じ、目をそーっと開く
シュウトのメイスは、頭に当たる寸での所で止められていた
しばし硬直状態だったが、少年はそれを確認すると一気に脱力した
その様子を見て、彼も獲物を下ろし、本来の姿に戻した
「そこで能力使うとか反則だろー」
「お互い使えなさそうとは聞いたけど、使っちゃだめとは聞いてないよ」
「そうかもしれないけどさあ、ずるくね?」
「ごめんごめん、でもこの使い方は今思いついたものなんだ」
「そうなの?」
「ああ、勉強になったよ」
「…しょうがねえなあ、今回は見逃してやるよ」
「ありがとう」
拗ねた様子のハヤトだったが、彼の嬉しそうな振る舞いに毒気を抜かれたようだ
久々の模擬戦で疲れ、怒る気力も無くなったというのもあるだろうが
そしてお互いの顔を見合わせると、どちらともなく微笑んだ
「「お疲れ」」
棒術と手品
「それでさ、頼みがあるんだけど」
「ん?」
「これ、ほどいてくんね?」
「…あ、ごめん忘れるとこだった」
「勘弁してくれよ」
最終更新:2011年06月10日 22:27