「…残された建物は中が真っ赤に染まってて、引き裂かれた人間はあるのに、撃ち殺された動物は一匹もいなかったんだって…。」
秋山家の寺院の本堂の縁側、黒いルーズリーフを開いたまま、彼女は顔を上げてため息をついた。
「やっぱり信じられないなぁ…。眼の前で見ておいて言える言葉じゃないけど。」
開いたページの一番上には「第五八話 始末された野生の命/ノラちゃん」と書かれていた。
「…ああ、主。ここにいたのでありマスね。」
外に出ていたキリが帰って来た。
春美も気がつき、「
おかえり、キリ君。」と笑顔を向けた。
「…それは…。」
「あ、覚えてた?そうだよ。私が『語った』百物語。」
ルーズリーフを一枚ずつめくる。
古今東西の怪談を含み、今まで春美が「百物語」を駆使して語った99の怪談が余すことなく綴られている。
春美一人で全部まとめたのだから何という集中力と努力。
「なんだか、この怪談から皆が生まれたって、実感わかないなぁ。皆、良い人たちなんだもん。」
「…ところで、何故今頃それを?」
「この間、ノラちゃんが襲われたからね。それ以前に『語った』妖怪たちじゃ敵わないかもしれない。」
「まぁ、順当にいけば…と、その前に一度「第九九話」の
ゴクオーがやられてるでは…。」
「あの時はまだ見つけてなくて力の貸しようもなかったからね。その時は数えないことにしたの。」
「ただ、そう考えても単純に
百物語組の大半は敵わないことになるね。困ったなぁ…。」
頭にかぶるようにルーズリーフを持ち上げ、春美は反り返った。
「それならば尚更他の妖怪を訪問することは良い提案だったと思うのでありマス。」
春美は顔を上げた。
「本当はね、人外さん皆訪問したいんだけど、流石に数が多すぎるからね。」
「一重に人外といえど、種類は様々でありマスから。」
「私が知っているだけで、『妖怪』『幽霊』『精神体』『怪盗』『生物兵器』『人無(ひとでなし)』…。」
指折り数える春美。
「それだけの人外が消えれば、とんでもないことになるのでは!」
「当然だよ。だからできるだけ知り合って、繋がりを作っておきたいの。」
「とにかく、今日中にいかせのごれ在住の妖怪さんを調べて、割り当てを作るよ。」
「あまり無理はしないでほしいのでありマス。」
「勿論だよ。」
春美は笑い、別の紙を一枚、ルーズリーフの最後のページに挿んだ。
「! その話は…。」
「これで、私たちの『百物語』は事実上完成だね、キリ君。」
微笑む少女の顔がどこか悲しげにも見えたのは、気のせいだろうか。
キリはそう思いながらも、春美の意図に従い共にアースセイバーに向かうことにした。
混沌としたいかせのごれも
彼から見ればまだ平和なもの
自然に思いかえされる過去の自分と
自分の先を進む少女は
境遇は違うはずなのに
あまりに重なり過ぎていた
最終更新:2011年06月14日 19:15