ウスワイア、隊長室にて。
ミユカ、カナミ、蒼井 聖の3人に、
アキヒロが今回の任務について話していた。
ミユカと聖は答えるが、
カナミは首を傾げた。
その様子を見たアキヒロは、「ああ」と声を上げる。
「そういえば、お前はまだ入ったばかりだったな」
「申し訳ありません…」
「いや、気にするな」
「…何でこのガキがいんだよ」
「やーさん」
うんざりした表情で言う聖を窘める様に、ミユカが言う。
「カナミはまだアースセイバーに入って間もない。早いうちに仕事に慣れてもらう。そこでだ」
と、言葉を打ちきり、アキヒロはミユカを見る。
「ミユカ、お前はカナミと一番仲が良い。仕事をこなせるよう、彼女をサポートして欲しい」
「オッケー」
二つ返事のミユカ。
だが聖は変わらず仏頂面のままだった。
「俺は嫌だぜ、こんなガキみたいな奴」
「やーさん! 言いすぎだよ」
「俺は本当の事を言ってるだけだ」
「だからって」
それを見たアキヒロは溜め息をつく。
「お前をこのチームに選抜したのも理由がある」
「あ? 理由?」
「正直、ミユカとカナミだけでは戦闘力に乏しい。だから遠距離系武器をを使える、戦闘能力の高いお前をチームに入れたんだ」
「…別に俺じゃなくてもいいんじゃねえか?」
そこでカナミの声が上がる。
「アキヒロさん、私からも言わせてもらってよろしいですか?」
「…何だ?」
明らかに不機嫌な様子のカナミは、聖に向かって指をさして、はっきり言った。
「私、この人の事嫌いなので、チームから外して頂きたいんです」
カナミの言葉に、面々はそれぞれの表情を浮かばせる。
隣のミユカは「やってしまった」と言うような表情。
その隣の聖は眉間にシワを寄せ、こめかみの青筋がピクついている。
そしてアキヒロは今にも盛大な溜め息をつきそうな表情をしつつ、カナミに先ほどの言葉を注意する。
「カナミ。協調性を高める事も大事なんだぞ」
「結構です。この人に合わせるつもりは、まーったく、御座いませんから」
「……大層な口をきく様になったな。甘ちゃん野郎」
「あら、そうですか? 冷血ヤクザさん」
火花を散らす二人の間で(おまけにカナミは「嫌悪」の感情で雷を撒き散らしている)、ミユカは唯一人オロオロしていた。
「や、やめなよ二人とも…」
すると二人がミユカの方を見て。
「「ミユカ(さん)は黙ってろ(下さい)!!」」
「…はい」
一旦こうなってしまえば、流石のミユカも簡単には止められない。
二人の口論は激しさはないものの、辛辣な雰囲気が漂っている。
「第一、あなたの考えが気に食わないんです」
「奇遇だな。俺もお前の考えが大嫌いだ」
いつに増して火花を散らす二人。
それをアキヒロが中断させる。
「いい加減にしろ、二人とも。そういう事は任務が終わってからにしてくれ」
「…チッ、わーったよ」
「じゃあ早く任務の内容を申して下さい」
一つ間を置いて、アキヒロは任務の内容を話し始めた。
「まず、先ほど言った、集合型人工亡霊 A-レギオンについて説明しておく。集合型人工亡霊 A-レギオンは、人工と言う通り、物理的な攻撃も効く。唯、一時間に100匹の霊が増殖する為、迅速に対処しないと厄介な事になる」
「なるほど…」
「本当に分かってんのか?」
するとカナミは炎を閉じ込めた様な氷の笑顔で。
「ご心配なさらずに。あなたよりは分かっておりますので」
「……いちいち気に食わねえガキだな」
「あなたも人の事言えないと思いますけどねえ?」
再び火花が散る。
それをミユカが慌て止めた。
「はいはい、喧嘩なら任務の後って言ったじゃん」
「…後で覚えてろよ」
「あなたも」
「…出現ポイントは中央都市部から離れた森。大変な事になる前に始末してくれ」
「了解」
「はいはーい!」
「分かりました」
「…ここか」
アキヒロから任務を言い渡された三人は、都市部から離れた森に来た。
「カナちゃん、大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ハッ、別にこんな奴に気ィ使う事ないだろ」
「…どうやら、あなたは気遣いという物をご存知ないみたいですね」
「お前こそ知らないみてぇだな。身の程知らずって言葉を」
二人の様子を見て、ミユカは冷や汗を流し始めた。
そして、先ほど交わしたアキヒロとの会話を思い出す。
(ミユカ)
(何ー?)
(…正直俺も、あの二人が心配だ。また衝突したら仲介してくれないか?)
(えー……さっきは例外として、あの二人を黙らせるのは至難の技だよ? そもそも隊長だって、あの二人の仲の悪さ知ってるんだから、二人を同じチームに入れなきゃいーじゃん)
(そうしたかったんだが、生憎他の奴も忙しくてな)
(何でこんな時に…)
(とにかく、二人の事頼んだぞ)
(…やるだけやってみるよ)
「…二人とも、今は任務中だから後にしなよ」
「でもミユカさん。この人酷すぎません?」
「そういうお前は甘すぎんだよ」
「だーかーら! そんな事してたら日が暮れちゃうって! 後で何時間でも出来るじゃん!!」
「…はー、わーったわーった。ほら行くぞ」
「……」
(ホントに大丈夫かな…こんなんで…)
泣きたくなるミユカだった。
「…!」
「どったの? やーさん」
「レーダーに反応があった」
「!」
「いよいよ、ですか」
「まー、そういう事だ」
三人はそれぞれ戦闘の準備をする。
聖は能力サモンアームズで、ライフルを召還する。
ミユカはダガーナイフを手に持つ。
カナミは感情をいつでもエネルギーに変えられる様、心に少し怒りの感情を持った。
「怖くなったら逃げなガキ。ま、逃げれねえと思うが」
「大丈夫ですよ、あなたみたいな人に遅れは取りたくないので」
「…何か疲れたよ」
それぞれの思い(ミユカは疲労だが)を胸に、三人は敵が動き出すのを待つ。
刹那。
ブォオオッ!!
「! 来たな亡霊ども」
「キシシシッ、かかってきーなよー」
「……ッ!」
三人の前に亡霊もどきの兵器、集合型人工亡霊 A-レギオンが立ちはだかった。
レギオン達は三人に向かってくる。
「喰らいな!」
向かってくるレギオン達にライフルをぶっぱなす聖。
対して、ミユカはダガーナイフを持った方の腕の関節を増やし、それを振り回してレギオン達を凪いでいく。
「キッシシシ! こんなもんなのー?」
ミユカの挑発の様な言葉が頭にきたのか、大量のレギオン達がミユカに攻撃してくる。
だが。
「…シャァアアーーーッ!!!」
蛇の瞳になったミユカが威嚇の声を上げる。
それにレギオン達は怯んだ。
「ナイスだミユカ!」
そこに聖がライフルを撃ちまくる。
一方、カナミは能力による疲労か、やっと倒せているという状態だった。
「おい! ちゃんとやれよ!!」「やってますよ!」
だがカナミの攻撃の勢いを見て聖は溜め息をつく。
「足手まといになってんじゃねーか! これだから俺は、ガキを連れてくのは嫌だったんだよ!!」
「だーから言い過ぎだって、やーさん!」
その時。
カナミから赤いオーラがにじみ始めた。
「……ガキガキガキガキ…黙ってくださーーーいっ!!!!!」
カナミがこれでもかと言うほどの大声で叫んだ途端、赤いオーラが大量の炎弾となって四方八方に飛び散った。
「わあっ!」
「くっ、危ねっ!」
炎弾はレギオン達だけでなく、ミユカと聖にも飛び散った。
「よーっし!」
畳み掛ける様に、ミユカが残りのレギオン達に回転蹴りを放った。
こうして、レギオン達は一匹残らず全滅された。
「ふー…」
「片付いたねー」
「ええ、任務成功ですね」
「…どこがだ」
と、聖がいつにも増して、凄みのある声を上げる。
そして―――。
バシッ
「や、やーさん!?」
カナミの頬をひっぱたいた。
「…何をなさるんですか」
「それはこっちの台詞だガキ。俺達にまで火の玉飛ばすとは、どういう事だ」
「別に当たってないからいいでしょう。一応制御してましたので」
「あれで制御した? ふざけるな!!」
「やーさん、もうやめなよ! カナちゃんだって悪気は―――」
「ミユカ! お前は黙ってろ!!」
「ッ!」
聖の怒声にミユカは押し黙る。
そして再びカナミに向き直った。
「いいか、ガキ。俺にだけ火の玉飛ばしたなら、まだマシな方だ。けどな、今お前はミユカまで巻き添えにしたんだぞ」
「!!」
「さっきの怒りが元凶の俺だけでなく、何も関係のねえミユカにまで向けるのは、身の程知らずの分際のくせして偉そうに暴れる奴のやる事なんだよ!」
「やーさん…」
「もっと上手く制御するようにしろ!」
「……」
その時だった。
「ハッ、仲間割れか? 所詮はクズの集まり、という事だな」
「ッ! てめぇは…」
「
チネン、だっけ? 中級幹部の」
「ああ」
三人は突如現れた
ホウオウグループ幹部、チネンに目を向ける。
「で、何でここに中級幹部さんがいるのー?」
「愚鈍な質問だな。まだ気づいてないのか? 自分らに置かれた状況を」
「…まさか」
「ああ、罠だ」
ニヤリと、不敵な笑みを浮かべるチネン。
「レギオンはただの囮だ。お前らは単に兵器の始末をするだけだと、思っていたようだが…とんだ誤算だったな」
「…どうするんですか?」
「やるしかねえだろ」
「クッククク…その通り、やるしかない。お前らをここから逃がさないように、電磁網を張っているからな」
「ったく、めんどくせえ事をする奴だな…」
「でもさー、君の能力は直接攻撃出来ないんじゃなかったっけ?」
「いらぬ心配だな。射撃も得意でな、これでお前らを殺す」
「ほお、俺もなんだよな」
三人は再び構える。
チネンはリボルバー式の拳銃を二丁持った。
「クッククク…さあ、血を撒き散らせ! 壊れろ! そして苦痛の声をッ!!!」
チネンが銃弾を撃ち出す。
それを避ける三人。
「とりゃあぁっ!」
銃弾の雨を躱しながら、ミユカはチネンに向かって走りながら、ダガーナイフで凪ごうとした。
しかしチネンはそれをあっさり避ける。
「甘い」
チネンが再び銃弾を放つ。
今度はミユカの肩に当たってしまう。
「く…ッ!」
「ミユカさん!」
ミユカに駆け寄ったカナミはチネンを睨み付ける。
「何だ、やる気か?」
「…よくもミユカさんを……消えてくださいっ!!」
激昂したカナミが炎弾を飛ばす。
だがチネンはそれも避け、カナミの首を掴んだ。
「うぐ…ッ!」
「カナちゃん!」
「…対したことのない能力だな」
そこへミユカがチネンに突進する。
「カナちゃんを離せぇっ!」
「カスは引っ込んでろ」
と、チネンがミユカの足元に向かって銃を撃つ。
それにミユカは怯んでしまう。
「チッ…」
「フン、足手まといが仇となったな」
「ちょ、お前にまでカナちゃんを足手まといって、言う資格ないよ!」
「俺にまで、という事はそいつからも言われたのか?」
「ッ!」
歯ぎしりするミユカ。
チネンは嘲笑うかの様に言う。
「にしても、我々も嘗められたものだな。こんな弱虫をアースセイバーに加入させるとは」
「カナちゃんは弱虫なんかじゃない! その手を離して!」
「弱虫じゃなければ何だ? クズか? それともウジ虫か?」
「……もう一度言う。その手離せ」
「!」
聖はミユカの様子に危機感を覚えた。
ミユカは仲間に対する暴言や冷酷な仕打ちに敏感だ。
それ故にすぐ激昂しやすい。
そうなれば危うい状況になりかねないだろう。
聖はミユカを宥めようとする。
「ミユカ、落ち着け。すぐに激昂するな」
だがミユカは聞く耳を持たず、チネンだけを見ている。
目を蛇のそれに変化させながら。
「こんな平凡の塊の様なカスゴミは消えればいい!」
「くうッ!」
カナミの首を掴むチネンの手に、力が入った瞬間。
「ぐおっ!?」
「きゃっ」
ミユカが異常なスピードでチネンの顔を殴り付けた。
その拍子で、カナミの首からチネンの手が離れる。
「けほっ、けほっ…」
「…貴様……」
口から出る血を拭いながら、チネンがミユカを睨み付ける。
「ミユカさん、ありがとうございま―――」
「あぁああぁぁぁああぁあ!!!」
カナミが言い終わる前に、ミユカが吠えながらチネンにかかと落としを放つ。
それをチネンは辛うじて避ける。
だがミユカの猛攻撃は止まらない。
「この…ッ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇえええーーーーッ!!!!」
「ミユカ! 怒りに身を任せるな!」
「五月蝿い黙れぇぇえッ!!」
聖を蛇の目で睨み付けながら、ミユカは威嚇の声を上げる。
「シャァァアアアアーーーーッ!!!!!」
「やめろミユカ!」
聖の必死の制止も空しく、ミユカの暴走はヒートアップしていく。
「うぁああぁあぁあぉぉおぉおおーーーッ!!!!」
ダガーナイフを構え、チネンに 飛びかかろうとしたその時。
ガシィッ!
「「!?」」
二人の間に入ったカナミが、ミユカのダガーナイフを持った方の腕を掴んでいた。
そして穏やかに言う。
「ミユカさん。そんな風にこの人を殺しても、私は全然嬉しく御座いません」
「………」
「だから、いつものミユカさんに、お戻りになって下さい」
「…!?」
聖は二人の変化に驚く。
カナミから薄紅色のオーラが現れ、ミユカも全身からのダガーナイフを持った方の腕にかけて、赤いオーラが消えていく。
蛇の目も人間のものに戻り始めていた。
(感情を抑えているのか…?)
「…カナ…ちゃん」
「ミユカさん! 良かった…」
「…随分と余裕だな」
「「!!」」
カナミは思わず背後を振り向く。
チネンが銃の引き金に指を添えていたところだった。
「死ね!」
「…!」
その時。
ダァンダァンッ!
「ぐあッ!」
「え?」
チネンの両手から二つの銃が飛ばされる。
ミユカが振り向いた先には、ハンドガンを持った聖がいた。
「やーさん!」
「ったく、ちゃんと周りを見ろ」
「………」
「さて…チネン。どうするんだ?」
「ハッ! たかが銃を落とさせただけで…」
チネンが銃を拾おうとした時、ミユカがそれを蹴飛ばし、ダガーナイフで切り裂いた。
「な…」
「これで武器ないよ。もう逃げれば?」
「くそ…ッ!」
チネンは何処からか棒の様な物を出すと、それについているボタンを押した。
その瞬間、三人の周りから電力が落ちるような音がする。
「…今回は任務失敗か…くそっ」
次の瞬間にはチネンの姿はどこにも無かった。
「なるほど、ホウオウグループの罠だったのか…」
「まあ追い払ったから結果オーライだよねー」
「楽天家め…いつも暴走するなっつってるだろうが」
「あはは、ごめん」
ミユカのマイペース振りに、聖は溜め息をついた。
「………」
「…何だガキ」
カナミの視線に気付いた聖。
ミユカとアキヒロは再び冷や汗をかきはじめる、が。
「…助けてくれて、ありがとうございました」
「「……」」
カナミの口から出た意外な言葉に、ミユカとアキヒロは目を見開いた。
「それと、私がなりふり構わず炎弾飛ばした時、注意した事も一応感謝しております」
「…そうか」
「制御の練習、もっと努力致します」
カナミは頭を下げる。
それに聖は微笑して言った。
「ま、せいぜい頑張れよ。甘ちゃん」
カチン
「…感謝とそれは別ですからね、冷血ヤクザさん」
「俺もされるのとは別だぜ」
「あなたはどこまで冷血でいらっしゃるんですか?」
「お前はどこまで甘ちゃんなんだ?」
再び火花が散る。
「お二人さん、まだ話終わってないって」
「「…フン!」」
「…まあ、怪我が少なくてなりよりだ。ミユカ、後で報告書かいてくれ」
「はーい」
「話は以上だ」
「カナちゃん、行こうか」
「あ、はい」
ミユカはカナミを連れて、隊長室を出て行く。
その後ろ姿を見て聖が言った。
「…隊長さんよ」
「何だ?」
「あのガキをチームに入れたのは、本当は仕事に慣れさせる為だけじゃねえんだろ?」
「…バレたか」
「確かにミユカは仲間の事となると暴走しやすいからな……いつから気付いたんだ? あのガキが『感情を抑えられる』事に』
一つ間を置いて、アキヒロはいきさつを話す。
「たまたま、スザクとゲンブが揉めていてな、そこへ通りかかったカナミが止めようと二人の腕を掴んだら、あいつらから赤いオーラが消えていったのを見た」
「なーるほど…だからミユカのブレーキ係として選抜した訳か」
「そういう事だ」
「…ガキは気付いてんのか?」
「無意識にやってるみたいだから、それはないと思う」
アキヒロの言葉に嘲笑う聖。
「そうか…やっぱり、抜け目だらけの甘ちゃんだな、あいつは」
「認める気はないのか?」
「認める? 無理だな、あんな能力者にすら優しすぎるガキ…あいつも俺の事認める気は無いだろうよ」
聖の言葉に、アキヒロは深い溜め息をつくしか無かった。
最終更新:2011年06月14日 19:43