「
カイム!なぁ、起きてくれよ!なぁ!」
カイムの枕元に駆け寄ったシキは、前足で肩を叩きながら叫ぶ。
「落ちついて、シキさん!カイムさんは眠ってるだけなの!」
「でも、心配だろうが!元気だった奴が急に眠るだなんて!」
「事情は話すから、とりあえず寝かせておいてあげて!」
寺に連れてこられたシキの眼に真っ先に飛び込んできたのは、静かに横たわるカイムだった。
その顔は酷く疲れているように見えた。
シキは心配だったのだ。こんな表情、今までに見せたことがなかったのだから。
ようやく落ち着きを取り戻したシキだったが、彼が疲れた理由が分からず、少なからず苛立っていた。
春美は暫くキリと話していたが、やがて一つ頷くと、シキに向き直った。
「暫く一緒にいるもんね。シキ君には本当のこと、言っておくよ。」
「!」
「カイムさんが妖怪であることは、知ってるよね?」
「ああ。『奇怪音と無音』なんだろ?」
「そう。そのうち「奇怪音」の能力は見たことあるよね?」
「…あの、やたら人をひきつけるようなしゃべり方か?」
「ええ。それも力の一つ。周波数を操ることで人をひきつけたり、逆にダメージを与えたりできる力なの。」
「…あれ、でも今「奇怪音」の方って…?」
「カイムさんの主力となるその力は、「周波数をゼロにはできない」。つまり、「音を消すことはできない」のよ。」
「つまり、「無音」にあたる力が別にあるってことか?」
「そういうことです。そしてそれが、カイムさんが眠っている原因。」
春美は立ち上がり、庭の草木と空を眺めるように顔を向けた。
「『百物語:禁じ手』。百物語で語られた「人を襲う手法」をそのまま使う力。その分エネルギーの消費はとてつもなく多いの。」
「あいつ、身体能力は人間並みだと言ってた。つまり、エネルギー消費に体が追いつかなかったんだな?」
「そういうこと。そして、彼の『禁じ手』は…。」
「通称『無音空間』。」
「音も、光もない完全な「闇」を作り出し、人間を閉じ込める力。さっきカイムさんはこれをシンさんに使って、倒れた。」
「! じゃあ、も
シン・シーは…。」
「いいえ。カイムさんの意思で、24時間経てば人気の少ない所に解放されるようになっているの。」
「カイムの意思で…?」
「…実は、カイムさんは百物語組の中でも例外的な強さを持っていたの。」
春美はカイムを見ながら言った。
「でも、彼は『無音空間』を封印するため、「奇怪音」以外のすべての力を代償にした。」
「えっ!?」
「完全には封じ切れなかったから、いつも持ち歩いてるトランクに封印したの。解放するためには、「蝶番側からトランクをこじ開ければいい」んだけどね。」
「…何で、自分の力を犠牲にしてまで、『禁じ手』を封印したんだよ…?」
シキは疑問を率直に口にした。
「妖怪としての力を、どうしてあいつは使おうとしなかったんだよ?」
「そうですね…。カイムさんは「人間として」生きる道を選びたかったんだと思います。それに…。」
「カイムさんの『過去』も、関係してくるんですよね…。」
「…え?」
春美は微笑みをシキに向けた。
「『過去』については、カイムさんが目覚めてから聞いてみてはどうでしょう。彼ならきっと、話してくれるから。」
シキは春美が出ていったあと、暫くカイムの寝顔を遠くから眺めていた…。
最終更新:2011年07月08日 20:36