アットウィキロゴ

火波姉妹と作家の騒がしい一日

「さて、まずはどこに行こうか?」
「……そんなことだろうとは思いましたけれど。決めておりませんのね」

家を出てすぐ、開口一番ツバメ叔母さんが言った一言に、逆隣を歩くアオイがはぁ、と息をついた。

「アオイ……叔母さん、前からこうか?」
「前からこうですわ。時間には正確なのに、予定というものが苦手な方で……」

仮にも作家がそれでいいのか?

「まあ、いいですわ。そう、ですわね……」

考え込むアオイだけど、どうもいい案が出て来ないらしい。僕らが知ってる場所っていえば、戦闘か能力者絡みが大半だし。

「……………」

いよいよ本気で悩み始めたアオイに、僕が見かねて声をかけようとした時、

「はーいはい、そんなに考え込まないの。目的地がなくたって、歩いていけばきっと何か見つかるわよ」

叔母さんが手を叩いてそう言った。顔をあげたアオイは、一瞬呆気に取られた後、力の抜けたような笑みを浮かべて言った。

「……そうですわね。ただの散歩だと思えば、悩む必要はありませんわね」
「そうそう。じゃ、改めて出発、ってことで!」




「……じゃ、結構売れてるんですね」
「こらこらスザク、私を誰だと思ってるの。売れっ子作家の『三鷹 かもめ』よ?」
「確かに、叔母様の作品は素晴らしいですわね。この間も……」
「この間?」
「……いえ、やっぱり内緒にしておきますわ。その内、ということで」
「えー、気になるなぁ」

ぶー、と膨れる叔母さん。まるで子供みたいだ。元々見た目が若々しいのもあって、この年でも(何歳かよくわからないけど)かなり絵になるのは恐れ入った。

「ま、いいや。……それにしても」
「「?」」

急に叔母さんが、まじまじと僕ら二人を見比べる。

「ホントそっくりね、あなた達。髪の長さまでほとんど一緒じゃない」
「確かに……」

僕とアオイ……顔かたちや背格好は、確かによく似てる。肩甲骨の当たりまで伸ばした髪も、色こそ違えど長さや揃え方はほぼ同じ。アオイはどうか知らないけど、僕は少し前まで結構短くしていたけどね。

「わたくし、昔は結構短くしてましたのよ?」
「あれ、そうなのか?」

アオイも前は短かったらしい。……ショートでこの喋り方っていうのは、ちょっと想像にしくい。

「髪は女の命! ちゃんと手入れしなきゃダメよ? 長いんだからなおの事、ね」
「ええ、もちろんですわ」
「僕はあんまり気にしたことないなぁ……毎日洗ってはいるけど」

ぼそっと呟くと、途端に右から二人分の非難が飛んで来た。

「何言ってんの、その年でのケアが大事なのよ!? 後で悔いても取り返し効かないんだから!」
「髪というものは思った以上にデリケートなものですのよ? 手入れを怠ると将来泣きますわよ」
「わ、わかった、次から気をつけるから」
「「わかればよろしい(ですわ)」」

……そんなに気にするものなのかなぁ、これ?

髪を一房つまみながら、そんなことを思った。





「? あっち、何? やけにさびれてるけど」
「あ、あそこは……」

叔母さんが目を向けたのは、廃ビルが並ぶ一角。結構遠くに見えるそれは、僕にとっても因縁浅からぬ場所。

(ストラウル……跡地)
「叔母様、あれはやめておきましょう。危険ですわ」
「むぅ……」

行きたそうな顔をしていた叔母さんだったけど、結局は諦めたらしかった。



「む……」
「あっ」

道中、道の真ん中で男に出くわした。髪こそ黒くなっていたけど、眼鏡を通る光が一瞬映した特徴的なマークは間違いない。

クロウ……」
「……お前たちか。よくよく今日の俺はツキがないと見える」

そういうクロウは、どこか疲れた様子だった。

「……どうした?」
「何……少しばかり、損をして来た」

―――競馬か何かでもやったんだろうか。

「今モメる気はない。ではな……」

心なしか肩を落としつつ、ホウオウグループきっての暇人はその場を去って行った。
僕らもその場から歩き去ったけど、少しして叔母さんが言った。

「……今の、誰?」
「ん……ちょっとした知り合い」
「良い方の知り合いではありませんけれど。まあ、ものの数ではありませんわ」

……アオイは、一体あいつの何が気に入らないんだろう?





次に通りかかったのは、とある家の前だった。僕らにとっては、もう見慣れた場所。
そして僕にとっては、かつての居場所。

「っと、せっかくだから挨拶していこうか」
「そうですわね」
「? ここは?」
「友達の家だよ」

いつの間にかタメ口になっているけど、それはおいといて、インターホンを鳴らす。
少しと言うほどの時間もおかず、返答が返る。

『はい、どちらさんですか?』

聞き覚えがあるような、ないような、そんな声で。

「……今のは、誰だ?」
「わたくしは存じませんわ」
「私は当然」

……泥棒でも入ったか? 不意に走った嫌な予感は、インターホンの向こうの声が吹き払ってくれた。

アズール、お客さん?』
『あ、マスター』

「……アズール? ってもしかして、あのアズールか!?」

思わず声に出し、返事を聞く前にドアを開いた。そこにいたのは、凪に似た一人の少女と、無二の親友の姿。

「あ、スザクさんでしたか。御無沙汰しとります」
「綾ちゃん、アオイさん、どうしたの急に」
「いや、近くまで来たから……っていうか、この子は?」
「? ……あ、そっか、綾ちゃんはこの姿見たことないんだね。アズールだよ」
「あ、やっぱりそうだったのか。久しぶり、アズール」

昔馴染みとの思いがけない再会に、知らず気分が踊る。と、

「あの、姉様、お知り合いですの?」
「私のことは紹介してくれないのー?」

後ろからそんな声がした。しまった、今日は叔母さんとアオイが一緒だった。

「そっか、二人は知らないんだよな。この子はアズールって言って、その……ランカの家族なんだ」

叔母さんがいるので、さすがに妖怪だということは伏せた。

「それで……アズール、ランカ、この人は僕とアオイの叔母さんなんだ」
一之瀬 ツバメよ。よろしくね」

「初めまして、アズールさん。火波 アオイと申しますわ」
「? ああ、アンタがマs」

言いかけたアズールを、ランカが後ろから引っ張った。

(な、何ですかマスター)
(一般の人がいるんだから、マスターとか呼んじゃダメ~ (o><)o)

そんなことを言い交わしているのが、微かに聞こえた。

「こほん。……ランカさんの言うとったアオイさんって、アンタのことでしたか。アオイさん、ツバメさん、うちはアズールと言います。よろしゅう頼みますわ」
ブランカ・白波と言います。あらためて、よろしくお願いします」
「ええ、よろしく」
「よろしくねー」

そうして、しばらく玄関先で話しこんでいたけど、ふとアオイが時計を見て「あら」と呟いた。

「姉様、叔母様、もうこんな時間ですわ」
「え?」
「へ?」

時計が指していたのは、PM4:21。

「うわっ、もう夕方か!?」
「すっかり話しこんじゃったねぇ……」

いかせのごれを散歩するつもりが、予想外のゲストのおかげで大幅にずれ込んでしまった。

「私のせいかな? ごめんね」
「いや、僕達もちょっと長居しすぎた。今日はこの辺にしとくよ」
「うん、またね」(o'ヮ')o
「ほな、またー」

ランカとアズールに別れを告げ、最後にどこかに寄ってから帰ることにした。
さてどこにしよう、としばらく話しあった結果、「風月堂」によってお菓子を買って行くことにした。

「でも、ここからだと結構かかるな」
「ご心配なく、近道を見つけておきましたわ」





「おおきにー!」

看板娘・咲埜子の明るい声を背に、僕達は風月堂を後にした。
はしゃく叔母さんと隣のアオイの手には、それぞれ和菓子を包んだ袋。

「か、買い過ぎだろ……どんだけ食べるんだ」(--;
「ほとんど叔母様のですけれど、ね」(’’;

言い交わす僕達をよそに、ツバメ叔母さんはスキップせんばかりに舞い上がっている。甘いものがとにかく好きらしく、中でも和菓子がストライクゾーンなんだとか。

「~♪ ~~~♪^^」
「叔母様、あまりはしゃぐと車にぶつかりますわよ」
「大丈夫大丈ぶるぅおわぁっ!?」

横断歩道に飛び出しかけた叔母さんの目の前を、1tトラックが通過して行った。

「…………」
「………だから、言いましたでしょう」
「………ごめん、その通りでした」



「今日はありがとうね、二人とも」
「ちょっと騒がしかったけど、な」
「こちらこそ、今日はどうも。……って、あら? 叔母様、ここでお別れですの?」

家路についてすぐ、ツバメ叔母さんがお礼を言って来た。苦笑しつつ応じていると、アオイがふと気付いてそう言った。

「ええ。私の新しい家、この近くにあるのよ。最低限の荷物はもう運んであるから、今日から早速住もうと思って」
「学校の近くなのか……今度、遊びに行ってもいい?」
「いつでもいらっしゃいな。時間があったら、琴音姉さんや綾斗さんの話をしてあげる」
「……うん」

それだけ言い交わして、叔母さんとはそこで別れた。見えなくなるまで手を振ってから、

「さ、僕達もそろそろ帰ろうか」
「ですわね。もうお腹がすいて仕方がありませんわ」

笑い合いながら、僕達も夕空の下、家へと帰って行った。





「ん、ここが私の新しい城ね。さー、明日からも頑張らなきゃ……あれ?」

新居にやって来たツバメは、マナーモードに設定していた携帯に着信があったことに気付いた。
履歴を確認してみると、そこにあったのはアシスタントの名前。録音メッセージを確認すると、

『三鷹先生、コラムの締め切りが諸事情で2日延びたそうです。また連絡します』

とあった。

「締め切りが? へー、どうしてだろ……聞いて見ようか」

呟きながら、履歴を選択して短縮でかける。ほどなくして、相手に繋がった。

『はい』
「あ、もしもし、雨里ちゃん? 締め切りの件なんだけど」



火波姉妹と作家の騒がしい一日

(予定より短かったけれど)
(その日はとても、楽しかった)














「? またお客さんですか?」
「インターホンが鳴ってないのが気になるけど……行って見るよ」



「…………」
「ま、マナちゃん!? どうしたの、何があったの!?」
「……ラ、ンカ……?」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年07月08日 20:43