アットウィキロゴ

『天河探偵所の新参者』

平日、ウスワイアにて。
新しい事務所が贈られてから2日、星と月光は新しく派遣されるその「2人」に会いに来ていた。
2人はしばらくロビーで待っていると、アキヒロが2人の少女を引き連れてやって来た。

「アキヒロさん、その子達が…」
「ああ、新しく探偵所に派遣される2人だ。右が『モエギ』、左が『ヤマブキ』だ」

右側の少女―――モエギはその名の通り、萌葱色の結った、長い髪を持っていた。
表情はどこかひねくれている様に感じる。
一方で左側の少女―――ヤマブキもまた、その名の通り、山吹色の小さいポニーテールにした髪を持っていた。
モエギによく似た顔をしているが、表情はとても明るかった。

「私は天河 星。んでこっちは…」
「助手の秋山 月光ぜよ」
「星…お星様?」
「ま、まあ…どう呼んでもいいよ」
「じゃあ、お兄ちゃんはお月様ね!」
「え、あ、あしまで…?」

巻き込まれて少し動揺する月光。
そんな彼の姿を見た星は、見えないようにこっそりと笑っていた。

「……」
「モエギ、何か喋らないのか?」
「フン、別にこんな奴らと馴れ合う気は無いよ」
「えー、ヤマブキはお星様とお月様と仲良くなりたーい」
「したいならしとけば。あたいは知らん」
「モエギ」
「お前の命令じゃなきゃあ、こんな事引き受けてないし。つーか」

と、モエギが星と月光の方を向き直る。

「お前、探偵だっけ」
「そうだけど…」
「そんな事して何になるのさ」
「え?」
「そんな正義感気取りみたいな事したって、誰も認めたり誉めたりしねーよ。余計な事で逆恨みされたり悪い様に言われて、挙げ句の果てに自分が傷ついたり死んだりするんだよ」

この言葉が頭にきたのか、星は声を荒げて言った。

「あんたね、探偵の事知ってて言ってんの?」
「知らないし知りたくもない。廃業しちゃえば」

カチン

「こ、このやろぉお~っ!」
「ほ、星殿! 落ち着くぜよ!」
「こんな事言われて落ち着けるかあ!」
「ご、ごめんなさいっ! チカ姉ちゃん、謝りなよぉ」
「無理。後、本名で呼ぶな」
「え? 本名?」

暴れる星を取り押さえる月光は、素っ頓狂な声を上げた。

「ああ、モエギって言うのはニックネームみたいなもので、本名は『チカ』なんだ。何故嫌がるのかは分からんが」
「…ヤマブキ。あたいを呼ぶときは『モエギ』か『モエギ姉ちゃん』って呼んでと言ってるだろ」
「えぇ~。モエギなんて変な名前似合わないよぉ。『チカ』の方が可愛い~」
「ったく…あたいのドリーマーの癖に妙に女の子らしいな…」
「「ドリーマー?」」

今度は星も動きを止めた。

「いや、何でもない」
「?」
(説明すんのめんどくさいしな…事態がややこしくなりそうだし)
「ところで、この子達の能力は何ですか?」
「モエギはネットワークサーチと斬刀の悪夢、ヤマブキはメモリーフレームだ。モエギのネットワークサーチは、記憶にあるキーワードを元に、特定の人物などを特殊な念波で捜索出来る能力、斬刀の悪夢は髪を刃に変えられる能力だ」
「悪夢って事は…」
「ああ、臨死体験をしている」
「………」

『死んだ』時の事を思い出したくないのか、モエギは眉間に皺をよせてそっぽ向いた。

「…ヤマブキのメモリーフレームは、触れた人物の記憶や道具に込められた想いを映像の様に映し出せれる。こちらも捜索に役立つだろう」
「ありがとうございます」
「モエギ、ヤマブキ。これからはこの2人を手助けしてやるんだ、いいな?」
「…チッ」
「はーい!」





「…と、ここが『天河探偵所』だ」
「わあ! きれーい!」
「新築じゃしな」
「……ふーん」
「あ、モエギ。ちょっと気になってたんだけど…」
「…何?」
「そのリュック、異様に膨らんでるけど…何入ってんの?」
「………」

だがモエギは星を無視してずかずかと探偵所に入って行った。

「あっ、チカ姉ちゃん待って!」
「…チカ言うな」
「ちょっとー! 答えなさいって!」
「…何か騒がしくなりそうじゃの…」
「あ、おかえり星、月光」
「ただいま、クランケ」
「……こいつ誰?」
「私の親友のクランケだ。元怪盗」
「怪盗さん?」
「そう」
「星、この子達が新しい人員かい?」
「ああ。右がモエギ、左がヤマブキだ」
「よろしくお願いしまーす!」
「うん、よろしくね」
「………」
「それにしても君達そっくりだね。双子?」
「あ…ああ」
「…?」

星はモエギの挙動不審な返事に疑問を感じたが、それ以上気にとめなかった。

「確か、空き部屋があったはず。月光、案内してやって」
「分かった。モエギ殿とヤマブキ殿、ついて来てくれ」
「はーい!」
「………」

月光の後をついていく2人の後ろ姿を見送りながら、星は一息をつく。
それを見たクランケは笑みを浮かべた。

「賑やかになりそうだね」
「まあそうなるだろうね。でも…」
「でも?」
「あのモエギって子、打ち解けるには時間がかかりそうみたい」
「確かに、頑なな雰囲気してるし…」
「どうすればいいのやら…お、月光。案内した?」
「勿論ぜよ。ただ…」
「ただ?」
「これからはいいって言うまで部屋に入るなと、モエギ殿に言われてな」
「何だそりゃ」

その時、何処からかガチャガチャと音が聞こえてきた。
在り処は―――モエギとヤマブキの部屋からだ。

「…何してんだろ?」

気になった星は部屋の方へと足を運ぶ。
月光はそれを慌て追いかける。

「ほ、星殿! 勝手に部屋に入っては…」
「そう言われたら余計に気になるわよ。お二人さーん、何やってんのー?」

勢いよくドアを開ける星。
部屋には固まっているモエギときょとんとするヤマブキ、そして―――リュックから溢れている大量の玩具。

「………あ」

突然の事に固まっていたモエギだったが、次第に顔に赤みがさしはじめた。

「か、かか、か、か……勝手に入ってくんなぁあああーーーーっっ!!!!」

髪を刃に変え、峰にあたる部分で星と月光を吹っ飛ばそうとするが、当たったのは月光だけで、星はそれをあっさり躱したと同時に部屋の中に入った。





「へえ、リュックに入ってたの玩具だったんだ」
「おま…見るな見るな見るなーっ!」

狼狽えながら玩具をリュックに戻し始めるモエギ。

「別にいいじゃん。何でそんなに恥ずかしがんの」
「そうだよチカ姉ちゃん。ヤマブキ、平気なのに」
「だ、だって…あたい15歳の癖にこんなガキみたいな…」
「好きなら恥ずかしがることないじゃん」
「……そうか?」
「そうだよ。私だってこんな子供っぽい、星型の髪留めつけてんのよ」
「そう思ってんなら…何でつけてんだ?」
「…昔ね、じっちゃんがいたんだ」
「じっちゃん?」
「私のお祖父ちゃん。そんである日、仕事の関係で遠くに行かなきゃならなくなった時、この髪留めを渡して言ったんだ。これがあればいつか必ず会える、絶対戻ってくるって…」
「…!」

『チカ、お父さん必ず戻ってくるからな。だからこの剣玉…お父さんの代わりに大切に持ってろよ』

「…どうしたの?」
「あ、いや…何でもない」
「…それから私は、この髪留めをずっとつけてきたんだ。じっちゃんがくれた、大事なものだから…」
「…お前もか」
「え?」
「…あたいも、お父ちゃんからこの剣玉もらったんだ。戻ってくるまで大切にしてろって」

と言って、モエギはリュックから今まで丁寧に扱われたであろう、新品同様の剣玉を取り出した。

「あたいのお父ちゃんレスキュー隊の人でさ、よく人を助けてた」
「そうだったんだ」
「そんでいつの日か、遠い被災地へ赴く事になって、必ず戻ってくるからっつって―――それっきりだった」
「……亡くなったの?」
「ああ。子供を助けた直後、建物の崩壊に…巻き込まれた」
「……そっか…」
「…そうだあたい…お父ちゃんと約束した事があったんだ…」
「どんな?」
「…正義感の強い人になるって」

するとモエギは苦笑いした。

「あたいバカだ。『あの時』の事気にして、お父ちゃんの約束すっぽかすなんて…」
「そんな事無いよ」

星がモエギの肩に手をおいて、諭す様に優しく言う。

「私だって、じっちゃんの約束を忘れていたんだ。思い出せたんなら、また守ればいい」
「そうだよチカ姉ちゃん!」

ヤマブキが強く言った。

「ヤマブキ知ってるよ。チカ姉ちゃんは優しくて、弱い人を守ろうとする人だって」
「ヤマブキ…」
「ほら、あんたの妹もこう言ってるじゃん。これからは私らと一緒に、人を守っていこうよ」
「……ああ」

微笑するモエギに、星もまた笑みを返した。


天河探偵所、2人の人員が派遣される。


追記

「あしの事を忘れんでくれ…」
「…すまん月光」
「……」
「チカ姉ちゃん…謝らないの?」
「……(そっぽ向く)」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年07月19日 22:09