「主っ!ただいま戻りました!」
威勢のいい声が、裏にある玄関から響いてきた。
「御帰りなさい。今日も沢山買ったねぇ。」
「勿論よ。規模は小さいとはいえ、人数はそこそこいるんだから。」
額の汗をぬぐいながら話すこの女性。
黒髪のおさげ、白ブラウスと緑のセーター、茶色のスカートという風貌。
その眼は勿論血の色をしていた。
「
百物語組第七〇話」の肩書を持つ妖怪、
ヨシエである。
「撫子ちゃん!ちょっと手伝ってくれないかしら!」
「はい、直ぐに参ります!」
いそいそとやって来た撫子にヨシエは小さい方の袋を預け、共に台所へと向かった。
「これ、今回もセール品なんですね。」
「そうよー。直ぐに消費しちゃうから、安いうちにたくさん買っておいた方がいいでしょ?」
「成程。」
「どう?撫子ちゃんも今度一緒に買い物にいかない?」
「いえ、私はここで御勤めすることだけが生きがいですので。」
撫子は丁寧に断った。
「お仕事に一生懸命になることはいいけど、撫子さんもヨシエさんも体には気をつけてね。」
心配した春美が一言声をかけた。
「ありがとう、主。勿論体を壊す気なんてさらさらないから大丈夫よ。」
元気いっぱいにヨシエは笑って見せた。
「…まぁ、ヨシエさんは体はこわさないだろうけど…。」
春美が言うと、ヨシエは察したかのように頷いた。
「
シン・シーのことよね。勿論心配よ。でも、私が心配なのは、私自身じゃないわ。」
ヨシエは春美の肩を引き寄せた。
「
カイムさんから聞いたわよ。主も襲われたんだってね。」
「…うん。」
「私ね、主も含めて、誰かが傷つく事が自分が傷つくことより嫌いなのよ。」
「うん。よくしってるよ。」
「私は、一度大切な命を失った。」
ヨシエは真剣な顔つきになり、言った。
「だからもう二度と、大切な命を失くさないように、私自身が守らないといけないんだって、そう思ってるの。」
春美はその真剣な目を、しばらく黙って見つめていた。
「…ありがとう、ヨシエさん。でもね、私はヨシエさんがいなくなるのも、嫌だからね?」
「…優しいわね、主は。勿論、私も消える気はさらさらないわよ。」
ヨシエは春美の頭をなでた。
「でも、ありがとうね。」
「ヨシエさん…。」
「さーて!そろそろ夕飯の準備をしますか!撫子ちゃん、手伝ってくれる?」
「勿論です!」
ヨシエの威勢のいい声が響く廊下で、春美は暫くその背を見つめていた。
最終更新:2011年07月29日 19:40