「……間違いないと思うんだけど」
早朝のいかせのごれを、一人の女性が歩く。山吹色の長い髪に、紫の目。
少し低目の身長と顔立ちが愛らしさを醸し出しているが、なぜか、道行く人々の誰も、彼女に目を留めることはない。
それもそのはず。
彼女は、人ではなかったのだから。
火波 琴音。それが彼女の名前だ。
なぜこうなったのかは省くが、今の彼女は心だけの存在「精神体」としてここに在る。普通の人間からは姿を見ることも、声を聞く事も出来ない。そんな彼女の最近の楽しみは、妖怪の主たる少女、そしてその仲間達と話をすること。中には大木までいて少々驚いたが。
ともかく、彼女が今歩いているのは、その妖怪たちの内の一人が言っていた、とある少女について記憶に引っ掛かったからだ。
元々子供を襲う都市伝説だったその男に曰く、自分の揺らぎを見抜き、以来親しくしていた少女を探しているのだと言う。最後に会ったのは10年程前のことらしいが、記憶に該当する少女は14歳。
彼女が、とある施設を脱走して来た娘とその友人を保護したのは7歳の時らしいが……。
(……長く存在してて、時間感覚がおかしくなってたのかしら)
妖怪変化の類にはありがちなことで、時間の感覚がマヒしてしまうことがある。これは、時計のない所で長く過ごしていると時刻がわからなくなるのと似ている。
ともあれそう考えれば、矛盾には説明がつく。
「この辺に住んでて名前があれなら、1人しかいないわね。ともかく、行ってみましょ」
心当たりは一つだけあった。最近別の妖怪の子が訪問したという、その家にいるはずだ。
確か、調子が戻ったとはいえ身体が弱かったはずなので、簡単に外出することはないはず。ならば、いくら待とうと出会えるはずはない。
「ここね」
辿りついたその家は、まだ扉が閉まっていた。とはいえ、今の彼女には壁も扉もあってなきがごとし。幽霊か何かのようにするりと抜け、寝室へそーっと入る。
足音を立てた所で気付かれるはずもないのだが、そこは人情である。
(ちょっとごめんね……)
ベッドの中で寝息を立てている少女に近づき、額をつけて夢とリンクし、そこから記憶を少しずつ辿る。
が、始めてすぐに男の姿を見た。寝る前に思い出しでもしたのだろうか?
ともかく、これで確定した。この子だ。
「さて……
エトレクさんには、その内教えてあげましょうか」
すぐにではないのが、彼女のちょっと厳しいところである。
一人呟き、琴音はすーっ、とその場から姿を消した。
お節介
(二児の母たる彼女は)
(思ったよりフリーダムだった)
家から遠ざかる琴音を、時の止まった部屋から見送る視線が一つ。
「……今の人は? ブランカに何かあったの? いずれにしても、放ってはおけないわね」
最終更新:2011年07月30日 04:30