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思い出した役割

「そんな、なんで、エトレクさんが…。」
呟く春美は小刻みに震えている。
その背をなでるキリも、眼の前で光る手術中のランプを信じることができなかった。

エトレクからのテレパシーが途絶えたことに春美が気付きキリと共に駆けつけたところ、彼は無数の刺し傷や切り傷を負って道端に伏していた。
春美は応急処置を施しクランケを呼ぶと、アースセイバーの治療室を借りだした。
エトレクの怪我の具合を見たクランケは一言呟いた。
「これは、難しいかもしれない」と…。

赤いランプが消えた。
扉が開き、「千郷」がゴム手袋を外しながら出てきた。
春美は直ぐに駆け寄る。彼女の口から言葉が発される前に、千郷は先に結論付けた。
「命は助かった。でも、暫くは目覚めないだろう。」

呼吸しているのかも分からないほどに静かに、赤い男は眠り続けていた。
「生まれが都市伝説だったからね。血液は流れてなかったから、ショック死か内蔵の機能停止の確率が高かった。」
千郷はシルクハットを取り上げながら言った。
「前回よりも呪術を多用しているから確かとはいえないけど、下手をすればずっと眠ったままかもしれない。」
「そんなっ…!」

「…シン・シーか…。」
千郷は独り言のようにその名を呟いた。
彼も「怪盗」という人外。何時狙われてもおかしくない立場である。
それ故、音もなく眠るこの男を見るたびに、万感が込み上げてくるのだった。

「…なんで、こんなこと、するの…?」
春美は泣きだしていた。
「なんでこんなに人外を忌み嫌うの!?仲良くなれないの!?どうして!何で!」
耳をふさぎたくなるような悲痛な声。それでも辛抱強く、二人は少女の声を聞いていた。

「嫌だよ、エトレクさん!ずっと眠ったまんまなんて嫌だよ!」
いつもの冷静さを失くし、春美は叫んでいた。
しかし、暫くしてふと、千郷が口をはさんだ。

「…春美ちゃん、僕だって悲しいよ。」
「千郷さん…?」
「でも、今こうして泣くことはエトレクさんは望んでいるのかな?」
「!」

「彼が何を望んでいるかは僕にも分からない。でも、今君にできることは、これ以上犠牲が出ないよう計らうことだ。」
8歳の少女には重すぎる責任と分かっていても、彼は言った。
「君が、人外も人間も笑顔にして見せるんだ。」
「私、が…?」

「思い出して。君はどうして、アースセイバーに入った?」
「あ…。」
顔を上げる春美に、千郷は微笑んで見せた。
「人間と人外の日常を守るのが、君の役目だ。だから、泣いている暇はない。」

「…ありがとう、千郷さん。」
「僕は当然のことを言ったまでさ。」
千郷は春美をなでた。

「必ず、君たちがシンを食い止めるんだ。」

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最終更新:2011年08月08日 16:24