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日を消した言霊

ゴクオーさん、いらっしゃいますか?」
屋上のドアを開けながらカイムは言った。
ゴクオーは驚いたような顔を見せながら起きあがる。
「なんじゃ?珍しいのう、お前がここに来るなんて…。」
「特別な意味はありませんよ。少し、息抜きがしたかったのです。隣、よろしいですか?」

丁度空は真っ赤に染まり、日は強い光を放って彼方へ沈もうとしている。
「逢魔ヶ刻は恐ろしいものですが、その前のこの夕日は美しいですね。」
「ストラウルの方がもっと良く見えるらしいのう。リスクとリターンが伴うわけじゃ。」
「…いや、寧ろ逢魔ヶ刻のことを考えてみれば、ストラウルの方がいいのじゃないのでしょうか?」
「…まぁの。でも行くのが面倒じゃ。」
「ははは、相変わらずですね。」

ある意味、必然なのかもしれない。
付き合いが一番長い者が共にいて一番安らぎ、一番胸襟を開いて話し合えるということは。
とはいえこの二人は例外中の例外だろう。
春美に呼び出される前から…、死後の世界に界夢が渡ってからの付き合いなのだから。

「まさか、別れ際のあの言葉が現実になるなんての。」
「正直、僕も驚いているのです。でも、そういったことは昔から時たまありました。」
「そうなのか?」
「ええ。「言霊」とでも言うべきでしょうか。口に出した言葉が少なからず何処かに影響を与え、場合に寄れば実現してしまう現状です。御存じですか?」
「聞いたことはある。だが、そんなことが本当にあるもんかの…?」

「どうなんでしょうねぇ…。」
そう呟くカイムは何故か微笑んでいた。
「言葉を大切にしたい僕は、そう言う伝承も信じようと思っています。能力なんかじゃない、説明できない現象ですけどね。」
「その力が、もう一度わしらを引き合わせたと…。」
「説明しようとは思ってませんよ。思い込みでいいのです。」
「それでも教師かの、お前;」
「互いに「恐怖の具現」ではないですか。」
カイムは小さく笑った。

「…のう、カイム。気付いておるか?」
「…シンのことですか?」
「ああ。奴の仲間が、動きだした。」
「この学校で、ですね。違和感は感じ取っています。」
「ん?お前の割に気付くのが早いの。どうしたんじゃ?」
「いえ、少し…。」

カイムが言葉を続けようとしたその時。
「…っ!?」
不意に彼は頭を抱え、膝をついた。
「!? どうした、カイム!」
「…っあ…、ああっ!」
ゴクオーはカイムに素早くよりそった。

先程まで黒かったカイムの目が血の色に変っている。
そして、彼は気がついた。
日が沈んだ。逢魔ヶ刻だ。妖怪の血が暴れ出す時間帯。
「…じゃけど、人間同然だったカイムが、何で…。」
考察よりも先に、ゴクオーはカイムを背負ってブレラを空に向けた。

空に立つ黒い人影。
若草色の男を背負ったまま地の無き空間を蹴りだす。
「耐えろ…、必ず耐えるんじゃ、カイム…!」

背負われた男が握るトランクは、独りでにカタカタと音を立てていた。

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最終更新:2011年08月08日 16:30