「ねえあのお店行った?」
「行った行った! チョーいいよねあそこ!」
「えーっ!? 寝坊したあ!?」
「おっと、電車に遅れてしまう」
「昨日のテレビ何見た?」
「ほら、電車来たわよ」
「待ってよお母さん!」
『いやいや~今日も賑やかで何よりだねえ~』
駅の片隅から、人混みを眺める『
黒井さん』。
黒井さんはこういうの見るのも好きなんだよね~。
何か楽しいもん。
『さあて、今日も途中下車の旅に行こうかな? それか「アレ」しようかなあ?』
「アレ」、最近やってないからねー。
久々にやっちゃおっかな。
『まだ昼間だから、あの方法にしよぉ~』
黒井さんは人混みの中へと走り出す。
適当なとこに立って、見える人が気付いてくれる様に、存在感を目立たせた。
いるかな? 見える人。
『…ん?』
中学生ぐらいの男の子だ。
こっち見てるみたい。
試しに笑いかけてみた。
…男の子が目をぱちぱちしてる。
やっぱり見えてるんだ。
黒井さんは走り出した。
すると男の子も黒井さんを追いかけ始めた。
『こっちだよー』
もうすぐ、もうすぐ黒井さんの世界。
そして―――ようやく着く。
後ろをチラリと見ると、男の子がびっくりしている。
そりゃそだよねー。
飛び上がった黒井さんは、大きなコインロッカーに座った。
『やあこんにちは』
「こ、ここどこだよ…」
『ここは黒井さんの世界だよ』
「黒井さん?」
『黒井さんは黒井さんだよ。黒井さんは可哀想な赤子の幽霊なんだ』
「…まさ、か、都市伝説の…?」
『せいかーい』
男の子の顔が少し青ざめている。
そうだよね、都市伝説の幽霊を追いかけてこんな場所に辿り着いた最後は、死んでしまうかもしれないもんね。
でも―――。
『別に殺したりしないよ。ただ遊びたいだけ』
「ほ、ホント、だろうな?」
『ホントだよー。だから黒井さんとゲームしよう!』
「ゲーム?」
『捨てられた黒井さんを1分以内に見つけること! 見つけられたらご褒美あげる!』
「…もし見つけ、られなかったら?」
『ご褒美なし! ここから退場!』
「…はあー…何だ、ホントに殺すんじゃないのか…」
『だから言ってるじゃんかー』
全く、人間てのは皆疑い深くて困るよ。
でも気持ちは分かるよ。
黒井さんと違って、人間は意味があって、誰の為に存在してるもんね。
だから皆死ぬことを好かない。
だから黒井さんは人間を殺さない。
『じゃあいくよ。よーいスタート!』
「ちょ、待てよ!」
合図をした瞬間、辺りに赤子の泣き声が響き始めた。
「これをヒントに探せって事か…」
『そうだよー』
「よし、どこだー…?」
走り回って赤子の黒井さんを探す男の子。
今回はどうかなあ?
『10秒経過ー』
「マジかよ! チクショーどこだ!」
『あーあ、全く違うよー』
「うっせえわ!」
そうこうしているうちに、時間はどんどん過ぎていく。
あ、残り10秒切った。
『もう時間無いよー』
「……! ここかあ!?」
『……あ』
「……」
『……』
「よっしゃ見つけたあー!」
『あーあ。見つかっちゃった』
残り6秒で見つけるなんて。
悪運が強いのかもねー、この子。
『じゃあご褒美あげるよ。今喉渇いてる?』
「あー…まあ。そういや今日お茶持ってくんの忘れてたなあ…」
『じゃあコレあげる』
「わっ。…ジュース?」
『お茶がいいかな?』
「いや、ジュースの方がいい」
『分かった。またねー』
黒井さんと黒井さんの世界の姿が消えていく。
男の子はさっきの場所に戻っていた。
そして黒井さんはコインロッカーがある場所に。
『あー、楽しかった』
今回で7回目。
次はどんな子かなあ。
見つけられるかなあ。
何をあげようかなあ。
楽しみでしょうがないよ。
『黒井さんは今日も、人間にささやかな幸せを運びますっ。なんちゃって~』
人間の想像から生まれた黒井さん。
黒井さんは人間の事大好きではないけど、嫌いじゃないよ。
だって、黒井さんと違ってこんなに意味がある存在で、凄く賑やかで楽しいもん。
そんな人間を殺すなんて、勿体ないよ。
黒井さんとは、違うから。
誰の為に生まれたわけでもない、意味のない黒井さんと違って。
その黒井さんが、人間を殺してはならないんだよ。
黒井さんだからね。
さてさて、次は途中下車の旅でも行こうか……。
最終更新:2011年08月08日 16:31