とあるビルの屋上。
そこに佇むのは黒を纏った青年、
シン・シー。
彼は今日も人外を探していた。
「全く…どれだけいるのやら。あまり『正義の味方(ボク)』の手を煩わせないでほしいな」
やがて、彼の視界に今日の標的が止まる。
その標的は、ホームの上に浮遊している、黒い制服を着た少女。
「もしや、都市伝説の妖怪かな?」
人外の事に関しては情報が早い彼。
早速、少女の元へと向かう。
ホームの近くの電柱の上に降り立つと、シン・シーに気付いた少女がこちらに振り向いた。
『………』
「おや、僕が現れた事に驚いてるのかな? ま、自分の運の無さを嘆くことだね」
ナイフを手に持つシン・シー。
だが少女はそれを見ても臆せず、それどころか笑みを浮かばせて言った。
シン・シーは少女から放たれた、異様に膨れ上がったオーラに怯む。
そして次の瞬間、自分は電車の中にいた。
それも人が全くいない、不気味な電車の中に。
しかもホームはまるで廃墟の雰囲気を漂わせ、床には所々水溜まりがあり、天井や壁には樹木やカビが埋め尽くされている。
「……君、何をしたんだい?」
『あははっ。こっちに来てよ』
同じく電車の中にいた少女が外に出る。
シン・シーは少女を追いかけた。
すると―――。
「…!」
シン・シーは目の前の景色に驚愕する。
樹木やカビに蝕まれた大きなコインロッカーが、壁のように聳え立っていた。
コインロッカーの前に立っている少女が、シン・シーに話しかける。
『ねーねー、黒井さんとゲームしよ!』
「…悪いけど、お断りするよ。僕は『正義の味方』だからね!」
と、ナイフで少女の体を切り裂いた―――筈だった。
「…!?」
自分が今持っているナイフは、確かに少女の体を切り裂いた。
だが手応えがまるで無い。
しかも切られた箇所は繋がって元通りになっている。
シン・シーの行動に特別驚きもせず、少女は笑顔のまま話続ける。
『キミが噂の、人外を襲いまくってる人?』
「おや、知ってるんだ」
『人が集まる駅はね、情念とか思考が流れ込みやすいんだ。だから、駅から出ない黒井さんでもキミの事を知ってるんだよー』
「へえ。まあ僕にとってはどうでもいいけど」
『黒井さんもどうでもいいよー』
「…そんな訳だからさ、消えてくれないかな?」
『ゲームに勝ったらいいよー』
「…素直だね」
『別に生まれたくて存在してる訳じゃないしー。じゃあルールを説明するね!』
少女はふわりと飛び、コインロッカーの上に座る。
『今から1分以内に捨てられた黒井さんを見つければ、キミの勝ち! 黒井さんは消える』
「負けたら?」
『黒井さんの勝ちで、キミはこの世界を4日間さ迷う事になる。ホントは元の場所に戻されるんだけど、人外を襲うキミだから、これでも構わないでしょ?』
「…いいよ。その勝負、受けてたつよ」
『じゃあいくよ。よーいスター…』
「ト」と言い終わった瞬間。
シン・シーの手から放たれた何本かのナイフが、一つのロッカーの蝶番に当たり、ロッカーの扉が外れる。
中には女の赤子が安らかに眠っていた。
『…凄いねえ。今まで一番早いかも』
呆然とする少女の体が、霧の様に霞んで消えていく。
「赤子が見つかった事で、幽霊の存在も無かったことになる…それがキミの弱点だろ?」
『…あはっ。バレちゃった』
「これで僕の勝ちだね。”コインロッカーの少女”」
『そうだね。”正義の味方”さん』
そう言い残し、少女は完全に消え去った。
それと同時に、少女が作り出した世界も消えた。
するとシン・シーの視界には、少女の世界に引き込まれる前の景色が広がっていた。
「これでまた、人外を始末出来たね」
『出来てないよー?』
「!?」
シン・シーの耳に、聞き慣れた声が入る。
その声の主は―――先ほどの少女のもの。
姿は見えないが、確かに少女の声が聞こえる。
「消えた、筈じゃあ…」
『うん、消えたよ。姿はね』
「!」
『黒井さんはね、見つかっても姿をくらますだけで、存在は消えないんだー』
「でも、君はあの赤子の―――」
『違うよ』
「何?」
『黒井さんは、”捨てられた赤子が幽霊になって成長している”っていう、人々の想像から生まれた妖怪なんだよー?』
「…!」
『だから、黒井さんは”都市伝説の妖怪”なんだよ。それと、別に消えても良かったけど、今はそんな気分じゃないから、また今度ね! ばいばーい』
それきり、少女の声は聞こえなくなった。
残されたシン・シーは溜め息をつく。
「正義の味方とあろうものが、人外を無傷のまま取り逃がすなんて……とんだ大失態だよ」
しかし次の瞬間には、彼の表情は笑みと化した。
「まあ、自ら消えたがってたし、また会うまでに確実に始末する方法でも考えておこうか」
そう言って、黒い衣をはためかせながら、シン・シーはその場から去った。
最終更新:2011年08月16日 13:56