「や~、まいったまいった」
その日、
霧波 流也は相も変わらず迷っていた。早朝に出たはいいが、霧が深かったため、晴れた時にはどこにいるのかもわからなくなっていた。
こうなると彼にとっては眼隠しで迷宮に放りこまれたようなものであり、もはや自分がどこに向かっているのかもわからなくなっていた。
「街の中で遭難死なんてシャレになってねぇぞ……おっ」
しばらく彷徨う内に、視界の端に見慣れた部分を見つけた。「友人」がいる、東の平原の端。
取っ掛かりが見つかれば辿りつくまでは早かった。既に「友人」の所につくまでの時間は身体が覚えている。
慣れた調子でその場所に向かい、
「よぉう、アカ」
硬直した。
大木が…………ない。
「…………………………は?」
たっぷり10秒。流也が事態を受け入れるのに、それだけの時間が必要だった。
そして理解するや否や、
「え、ちょ、待っ、はぁぁッ!? ど、どういうこった!? 何でいねぇんだよ!? いや、どこ行ったとかそういことじゃ、おい、あの、えぉうをっ……!?」
傍から見て面白いほどに狼狽する流也であった。
「た、大木――――っ!?」
ある意味失礼極まりない呼び声に、
『喚かないの。あの子だったらちょっと出かけてるだけよ』
「何……へ?」
聞きなれた、しかし懐かしい声が答え、響いた。
思わず振り向いたそこに、
『ハイ、坊や。久しぶりね』
懐かしい顔があった。整った顔立ち、桜色の長い髪と瞳、真っ白なワンピースと帽子に靴、そして長身。
そして、流也を「坊や」呼ばわりするこの女性は……。
「……
サクヤ姉さんじゃねぇか!? 何でいかせのごれに!?」
『そりゃ、この辺りに植え替えられたからよ』
「いや植え替えられたって、いつ!?」
『かれこれ15年くらい前ね。こうやってまた出て来られるようになったのはつい最近だけど』
半分混乱する流也に応える彼女―――サクヤは、表情こそ微妙に変えつつも口を動かしていない。にも拘わらず、意志の疎通は滞りなく行われている。
もっとも、幼少期から彼女と接している流也にとっては、慣れたものなのだが。
『それより坊や、あの子に用事があったんじゃないの?』
「あ、あぁ、アカノミか? いや、近くまで来たんで挨拶でもしていこうかと」
『……どうせまた迷ったんでしょ?』
図星である。
『まぁ、心配ないわ。ここには坊や以外の人間はほとんど来ないし、多分お昼過ぎには帰って来るんじゃないかしら』
「またそんな適当なことを……」
『ふふん、何とでも言いなさい』
得意げな顔で胸を張るサクヤ。自慢する所ではないと思うが。
「ま、いないならいいや。俺は一度帰る」
『待ちなさい。どうせ一人じゃ迷うに決まってるわ、送ったげる』
「えぇ? いいよ、ガキじゃあるまいし」
『私から見れば子供よ。ほら、行くわよ坊や』
「サクヤ姉さん、坊やはやめろって……」
ぶつぶつ不平を言う流也を引きずり、サクヤは何処かへと歩いていった。
東、二つの驚愕
(友人の意外な事実を知り)
(昔馴染みにも再会した)
(周りは不穏、東は平穏)
(………なのか?)
最終更新:2011年08月16日 13:58