「幹久郎はん、おおきになあ」
「同じ妖怪の血を引く仲間ですから、守るのは当然ですよ」
風月堂の娘、咲埜子が
シン・シーに襲われかけてから1日経っていた。
そのお礼にと、咲埜子と母の九十九、そして九十九の夫一郎太が幹久郎の店に来ていた。
「しかしそのシン・シーって奴、とんだイカレ野郎だな。人間の血も引いている咲埜子を狙うとは…」
「…あの人、凄い…怖かった」
「咲埜子…」
あの時の恐怖を思い出し震える咲埜子の肩を、九十九はそっと抱いた。
「幹久郎さん。うちの娘を助けてくれて、本当にありがとう」
「いや、そんな」
「この子は、私らの宝なんです。それにきっとこの子なら、人間と妖怪の間を取り持てるんじゃないかって、信じとるんですよ」
「勿論俺も信じてます」
「幹久郎はん…」
幹久郎もまた、咲埜子が半妖である事を知っている。
知っているからこそ、彼女の友人である幹久郎も、咲埜子が人間と妖怪の世界を結びつけられる存在になれるだろうと信じていた。
「でも、今回はたまたま近くにおったから助かったけど、また襲われたら間に合うんか分からんし…」
「確かにな…」
いくら
カイムの力が宿ったメモを持っているとはいえ、必ず助けられる訳ではない。
ウスワイアから警備係を任されている彼女は、護身術を心得ているものの、シン・シー相手に太刀打ち出来るとは思えない。
「…とりあえず、主のところに行ってみては?」
「春美はんの所に?」
「ええ、何か手を施してくれると思いますから」
「そうだな…じゃあそうしよう」
秋山家の寺院に着いた御影一家を出迎えたのは、世話係をしている百物語組の一員、撫子だった。
「あ、御影さん。お待ちしておりました」
「撫子はん!」
「お久し振りですね、咲埜子さん」
駆け寄った咲埜子を見て微笑む撫子。
「いつ以来やったかなあ」
「確か、こちらに和菓子をお届けに参られた時からは、お会いしてませんでしたね」
「あ、紹介するわ。うちの両親や」
「風月堂を経営しています、御影 一郎太です」
「妻の九十九どす」
「初めまして、百物語第一〇話の撫子と申します。主が中でお待ちしています」
「ではおじゃまします」
「初めまして。一郎太さん、九十九さん、そして咲埜子さん。私が秋山 春美です」
「どうも」
「幹久郎さんから話は聞きました。咲埜子さんも、シン・シーに襲われたんですね」
「はい…」
伏し目がちに頷く咲埜子。
「幹久郎はんが来てくれなかったら…うちは…」
「…春美はん。こんな事をお願いするのも何や思いますが、娘に護衛をつけてくれはりませんか?」
「そうですね…後で検討してみます」
「いや、待ってください」
一郎太が割って入る。
「もし万が一、その人の命を失われてしまったら、わしらに立つ瀬がありません。ですから、他の方法をお願いします」
「一郎太さん」
「確かに娘は大事ですが、他の人を巻き込みたくありません」
「…分かりました」
「でも、それ以外にあるんですか?」
「無いこともなかね」
突如部屋に響いた別の声。
春美らが声の方を見ると、秋山家の門下生である澤野江 廻が立っていた。
「廻ちゃん」
「初めまっさ。わては秋山家門下生の、澤野江 廻言いますー」
「あ、はい…」
独特の言葉遣いに戸惑いながらも、言葉を返す咲埜子。
「春美、『アレ』があろうな」
「『アレ』?」
「ほら、『妖怪の力を覚醒させる』術があるけね」
「あっ、そうか!」
「何ですか、それは?」
「秋山家には、妖怪の力…『陰』の力を身に付ける術があるんです」
「『陰』、ですか」
「はい。半分ではありますが、咲埜子さんには妖怪の血が流れています。それに、”半妖”という特殊な立場にありますので、もしかしたら新しい力を得るかもしれません」
「なるほど…」
「せやけん、わてがそれをおしゅーたんから、護衛も任したんね!」
「ええんですか? 廻はん」
「わてもそのぐさらっこは好かにゃー、次会うたらかっぱしてーね」
「あ…ありがとうございます!」
深々と頭を下げる咲埜子。
だが春美が不安そうに言った。
「廻ちゃん強いけど、私やっぱり心配だなあ…」
「……あなた」
「ん?」
「『あの人ら』を、呼びまへんか?」
「『あの人ら』って…京都の妖怪達を?」
「京都の妖怪?」
「ええ、いかせのごれに来る前、わしらは京都に住んでおりまして…」
「私が妖怪だった事もあり、他の妖怪はんとも縁があったんどす。それでよく店の手伝いをしたり、咲埜子の遊び相手になってくれたりもしました」
「そうだったんですか」
「ですから、他の護衛は私らで何とかしますので、春美はんは百物語組の皆はんを守ってあげてくださいな」
「すいません、九十九さん」
「いえ、廻はんが護衛についてくれるだけでも、私らは嬉しゅうございますから」
場所変わって京都。
とある小川で、皿を頭に乗せ、青い甚平を来た少年が悠々と浮かんでいた。
そこへ、黒髪の幼い少女と鈴の首輪をつけた青年が現れた。
「おーいっ、川里ー」
「んー? …何だ胡桃に鈴彦か。どうした?」
「たった今、九十九さんからいかせのごれに来るようにと」
「九十九の姉さんから?」
ざばっと川から起き上がる少年、川里。
「何でも、いかせのごれで人外ばかり狙う人間がいるらしい」
「咲埜子お姉ちゃんが、そいつに襲われかけたの」
「何だって!?」
「だから咲埜子の身を案じた九十九さんが、私達に護衛を頼んできたんだ」
「そうか…なら断れねえな、咲埜子は俺らの友達だし」
「そのとーりっ。他の皆にも声かけてあるよ」
「はえーなオイ」
「さあ、早くいかせのごれに行きましょう」
京の魑魅魍魎たち、一人の少女を守るため、いかせのごれへ向かう―――。
最終更新:2011年08月21日 13:47