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囚われたオト

ナニモミエナイ

ナニモキコエナイ

ナニモカンジナイ

ミエナイクサリデシバラレ

サケブコトスラユルサレナイ

イヤダ

ヤメテ

ボクハ…!!

シューの足元に浮かんだリリスの魔法陣が光り出す。
彼女から現れた「カギ」は、「閉じられた」カイムの中に入りこむ。
リリスの呪文英賞により、そのカギは解放のため回されようとした。

「…!!」
春美が危険に気がついたのはまさにその時だった。
そうだ。カイムは封印を解かれ、暴走間際にあった。
今この状態で目覚めさせてしまえば…!

しかし、一歩遅かった。
ガチャリと、文字通り扉のカギが開くような音が彼女の耳に届いたのだ。
「いけない!カイムさんっ!!」
春美は思わず走り出した。止められないとわかっていても、今ならまだと根拠のない希望が現れていた。
しかし、その希望は跡形もなく消し飛ばされる。

「…っ、つぁ…あ…。」
声ともならない声が、彼の口から漏れ出す。
そこで初めて、リリスもカイムの異変に気がついた。
焦点の合わない眼が、床から天井へと移り――。


寺の一角が吹き飛ばされた。
渦を巻く空気に春美は吹き飛ばされる。
ずるずると地面から吐き出される黒い何かは、共に天高く巻き上げられる。
「彼」にはもう、何も届かなくなっていた。

「春美ちゃん!?」
リリスと、カギを戻されたシューが駆け寄る。
したたかに頭を打ちつけながらも、春美は起き上がった。
「カイムさんっ…!!」

咄嗟に判断したシューがカイムの周りの空間を隔離する。
風は止んだが、春美は黒い渦の中央で頭を抱えるカイムを茫然と見ていた。
「一体、なにがあったというの?まさか、これもピエロが…。」
「…違います。あれはカイムさん自身の能力です。でも…っ。」

「どうしたのですか、先程の音は!」
最早使い物にならなくなった襖を開けたのは、手が空いていた撫子だった。
変わり果てた光景を見るなり驚愕する。
「撫子さん、寺院の皆は!?」
ヨシエさんが誘導して皆さん避難されました。しかし、なにがあったのです!?」

「さっき、カイムさんが「変化のない世界」に閉じ込められたの。」
「! それって、カイムさんが一番…!」
撫子も事情を察したようだ。春美は頷く。
「過去の経験が相まって、カイムさんは今錯乱状態にある。多分、呼びかけても気付けないよ。」

「それに、そのせいで力が暴走してる。あの『無音空間』に巻き込まれたらもう…!」
「でも、あれだけの力じゃ迂闊に近づくこともできないわよ。」
それに今はピエロのせいで、高い戦闘能力を誇る3人が眠ってしまっている。
リリスは先程の呪文詠唱でかなりの体力を使ってるはずだった。
「…私が、やらないと…。」
春美はそっと懐に手を伸ばした。

「一体何事じゃぁぁぁ!!」
上空から声。空を振り仰ぐと、黒い影が此方に向かってきていた。
彼女は影に気がつき、ぱぁっと笑顔になった。

ゴクオー君!ブレラさん!」
眼の前に降り立った彼は、紫の傘を肩に担いで此方を見た。

「どうして此処に?今学校じゃあ…。」
「いつもは屋上に居るんじゃ。さっきこっちの方角に黒い竜巻が見えたんでの。まさかと思って来てみれば案の定じゃ。」
ゴクオーはカイムを見た。状況は未だ変わっていない。

「どうするんですか、主。このままじゃカイムさんが直に…。」
撫子さんが心配そうに声をかける。春美は彼女の方を向き、一つ頷いた。
「ゴクオー君がきてくれたから、なんとかなるかもしれない。皆、ちょっとこっちに!」


「…つまり、チャンスは一度きりね。」
「はい。リリスさんには負担だと思いますが…。」
「私なら大丈夫よ。」
「わしらも把握した。タイミングを微塵も外せないのは苦しいが、やるしかないの。」
「私もやれるだけの事はやります。」
「…皆、大丈夫?いくよ…!」

シューが能力を解除した。
隔離された空間が繋がり、再び空気が渦巻きだす。
「撫子さん!今だよ!」
「はい!『百花繚乱』!!」

渦巻く黒い空気に白い花弁が浮かび上がる。
瞬間、その中央にいたカイムがびくりと肩を震わせた。
膝が落ち、両腕が下ろされ痙攣しだす。
ほぼ同時に竜巻の威力が弱まりだした。

撫子の能力『百花繚乱』。
花の力を借りることで眠りや幻覚、麻痺を起こす、神経に効果する能力だ。
一時的に動きを止める物がほとんどなので単体ではあまり意味をなさない。
しかし、春美はそれを狙った。

神経麻痺で能力のコントロールを失った。
竜巻は規則性を失い、内側のカイムの姿が見えてくる。
ゴクオーはブレラを、機関銃を構えるように持ち上げた。
「…ゴクオー君。」
「分かっておる。タイミングは外さん。」

横でリリスが呪文を詠唱しだすのをききながら、傘の先に見えるカイムに集中する。
予め教えてもらった呪文は既にゴクオーの頭の中。
あとはタイミングを合わせるだけだった。

「後少し…、今じゃ!!」
琴の弦が切れるような高い音が耳を劈いた。
何かに撃ち抜かれたかのようにカイムは後ろに反りかえる。
同時に竜巻が完全にかき消された。リリスの詠唱も、完了した。

魔法陣が浮かび上がり、光り出す。
光はゆっくりとカイムを包み込む。
身をゆだねるようにカイムはゆっくりと眼を閉じ、深い眠りへと落ちた。


「一先ずひと段落したけど、これからも気が抜けないね…。」
部分壊した寺の片づけをしながら、春美は呟いた。
シン・シーといいピエロといい…。本当に気が抜けなくなってきなぁ…。」
「ピエロはできるだけ私がなんとかするから…。」
リリスの声に、春美は首を振った。

「リリスさんばかりに任せるわけにはいきませんから。それに、私たちだって眼をつけられたんです。」
春美はリリスに向き直った。
「できるだけ私たちにも協力させてください。トビ―さんを通じていつでも交信はできます。」
「…わかったわ。でも、できるだけ気をつけてね。」
「勿論です。」

「主!皆さんが眼を覚ましました!」
撫子が入って来た。春美は振り返る。
「皆大丈夫だった?」
「はい、異常はありません。」
「よかった…。」
「カイムさんも目覚めました。こちらも落ちついてきているようです。今、ゴクオーさんがついています。」

「…すまんの、カイム。気付くのが遅かった。」
「いいえ、こうして助けて下さっただけで十分です。」
体力を使いきったカイムは起き上がるのに精いっぱいだった。
ゴクオーはその体を支える。

「なにはともあれ、これで暴走の可能性はほぼなくなったわけじゃ。暫くは安定じゃな。」
「そうですね。…しかし、ゴクオーさん。」
カイムは疑問に感じていたことをぶつけた。
「どうして『あの幻覚』を僕に…?」
「…きまっとるじゃろ。」

「『あそこ』は、わしらの初めて出会った所じゃろ…?」

灰色の石と水面が広がる世界。
それがある意味、彼を抑えた最大の原因なのかもしれない…。

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最終更新:2011年08月26日 13:56