「……あ、琴音さん」
「はい?」
春美から事情を聞いていつもの場所に戻ろうとした琴音は、その春美から声をかけられて振り向いた。
「何かしら?」
「すみません、うっかりしてました。あの、ブランカさんのお宅に向かっていただけますか?」
「……向こうで待ち合わせってこと? あらっ、じゃあ急がないと」
ようやく事の次第を把握した琴音は、急ぎ足で寺を後にして白波邸へ向かった。
その背を見送る春美に、一部始終を見ていたらしい「
黒井さん」が声をかける。
「やっぱりあれだね。あの人、似てるわ」
「似てる?」
「うん、娘さんに。しっかりしてるようでどこか抜けてるところ、そっくり」
「……ふぅ」
「姉様、落ちつきまして?」
「ああ、何とかな」
火波邸。少し前、帰り際に誰かにぶつかられたスザクは、久しく出て来なかった「闇」―――生体兵器としての「殺戮衝動」に悩まされていた。帰ってからしばらくの間不安定な状態が続いたが、アオイが片時も離れず傍にいたおかげか、今日になってやっと元に戻った。
「今の僕は『強さ』のスザクと『弱さ』の綾音、二つの人格が統合された人格だからな。それで引っ込んでた衝動が、この間のあれで出て来たんだと思う」
ちなみに、「統合」の時にどんなことをしたのかは、スザクにとっては黒歴史扱いである。相手が自分自身とはいえ、思い出すと顔から火が出そうになる。
「……心配ですわね」
「大丈夫だよ、アオイ。昔は人格自体を衝動に依存してたけど、今はそんなことないから」
長い目で付き合っていかねばならない、腐れ縁である。
「もしまた出て来ても、一人じゃなかったら大丈夫だ。みんながいてくれれば、僕は自分を見失ったりしない」
「その言葉、信じておりますわ」
「ありがとう、アオイ」
笑いあう姉妹は、亡き母が家の前を走りぬけて行ったことを知らない。
母と娘、それぞれの事情
(昔からそうだったという)
(綾斗も琴音も綾音も綾歌も)
(しっかりしているようで、どこか抜けている)
最終更新:2011年09月07日 19:08