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解析その二・新たな問題

服についたホコリを払いつつ、由衣の問いにアルマは答える。

「さっきゲンブさんと話していた通り、能力者ではない。それは確定した」

言われて由衣はわずかに瞠目した。あの戦いの中、こちらにまで意識を向けていたのか。
その驚きを見て取ったのか、ゲンブが苦笑しながら説明する。

「能力ではなく、特技の一つだ。必要に迫られて体得した、というべきか」
「ですね」

頷き、話を戻す。

「その場にあるものを武器とする、喧嘩のセンスと腕力、思考と記憶力、応用力……それらが優れているのは確かだ。しかし、それだけではない」
「何かあるってのか? アルマさんよ」

背後からそう言った幹久朗に振り返りもせず、アルマはただ答える。

「栞の件や、さっきのビルの倒壊、そして残骸の弾丸化。これらは理論上、力学的計算に基づけば再現が可能だ。しかし数寄屋 闊歩は、これを単身でやってのけている」
「つまり、どういうことだ?」
「たとえば、さっき突きつけた栞。紙を勢いよく引くと手を切ることがあるが、それと同じ理論だ。瓦礫の弾丸は投げる速度、倒壊は崩壊点を把握していれば出来る。しかし、これらは常人に出来ることではない」

よくわからない、と言った様子の一同に、アルマはさらに説明を重ねる。

「知識があるというだけなら、俺もそうだ。しかし、俺にはこんな真似は通常出来ない。ならば、俺と数寄屋 闊歩、両者を分けるのは何か?」

それは、

「瞬間の応用力と実行力だ。俺はまず頭に知識を情報として詰め込み、それらを解析して理解し、考えてから行動するが、数寄屋 闊歩は頭に刻んだ知識を組み合わせた上で、即座に実戦に応用する能力を持っている」
「へ? さっき違うって……」
「スキルではなく、アビリティの方だ。知識を実践している自分を頭の中でイメージし、それを実際にやってのけることが出来る。言うなれば喧嘩の天才、というべきか。ここからは私見だが、数寄屋 闊歩の戦術はより実戦的なものだと見えた」
「ほう?」
「その場にある何かを即座に使用して戦える、という技術は、実際の戦いではかなり有効になる。いちいち対策が立てられず、対応手段も即応性のあるものに限られて来る。ただ、特殊能力者相手には無力に近いがな」

なるほど、と幹久朗が頷く。

「啓介や龍斗相手だったら、確かに分が悪いわな、こいつだと」

かたや本物の超能力者、かたや本物の魔術師である。

「総論としては、数寄屋 闊歩は能力者ではない。戦闘能力は、知識の広さと組み合わせ、その実践を本当に行う事の出来る技能によるもの、ということだ。精神面がやや不安定になっているのが問題といえば問題か」

アルマの結論はこのようなものであった。概ね由衣の見解を裏付ける形だったが、続きがあった。しかも、かなりシャレにならないものが。

「ただ、ヴァイス=シュヴァルツにターゲットされる危険性が高まった」
「え?」

それ誰? と言わんばかりの闊歩をよそに、ゲンブと幹久朗がにわかに慌て出す。

「何だと!? 奴が……」
「アルマさんよ、そいつはどういうことだ?」
「ゲンブさんを通じてアースセイバーや探偵事務所から送られて来たデータを検証した結果、ヴァイスの行動パターンがある程度判明した。もっとも今朝の話だが」

つまり、ほんの数時間前と言う事だ。

「奴は、誰かと固い結束で結ばれている者、あるいはこの数寄屋 闊歩のような心にどこか隙のあるものを狙う。少し前だが、カナミという少女が被害を受けた」

アルマが言っているのは、少し前に起きた大木の出現事件である。カナミの能力である「ハートブースター」が暴走させられた結果によるもので、居合わせたミユカとスザクによってヴァイスは撃退され(正確には途中で逃亡した)、駆け付けた野原 コノカを含めた3人によって何とか事態は収拾されたが、この事件はかの狂人のパターンを探る重要な案件としてアルマにも伝えられていた。
その結果が、今日出たのである。

「彼女のように、心に隙のある者の方が危険だ。未確認だが、それ以前にも何人か『人間関係を壊す』方向で動いたようだが、どれも失敗したというな。ならば、次に動く場合、打って来る手は読める」
「なるほど……誰かの心の隙に付け込んで来るってわけか」
「そうなる。対応策としては、とにかく二人以下で行動しないことだ。外で、三人いれば何とかなる。それが今のところのセオリーだ」

一通りの報告を終えたところで、アルマはゲンブに向き直る。

「以上です」
「わかった。由衣、とりあえず闊歩に関してはお前に一任する。今の所、言い方は悪いが手綱を引き絞れるのがお前しかいない」
「はあ……まあ、元よりそうでしたけど」

曖昧に頷く由衣と、彼女に抱えられる闊歩。その二人を最後に一瞥した後、アルマが言う。

「それでゲンブさん、俺の次の任務とは?」
「とある女性の『解析』を頼みたい。何分事情が複雑でな」
「……穏やかではないですね。わかりました」

傍から聞いていた幹久朗には、それが主・春美が言っていた女性のことではないか、と当たりがついた。
再びバイクに跨り、姿を消すアルマ。

「幹久朗、俺も戻る。お前はその二人を跡地の外まで送った後、合流してくれ」
「了解っ」

答えを受け取り、ゲンブも足早にその場を後にした。
残った幹久朗は、

「さ、て……どうするよ?」

とりあえず、闊歩に手を貸した。


解析その二・新たな問題

(とりあえずの懸念は消えた)
(新しい懸念を残して)

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最終更新:2011年09月27日 10:37