「……姉様、一つお聞きしてよろしいでしょうか?」
「ん?」
レストランで目が覚めて少し後、アオイがそう訊いて来た。
「この間、庭の隅で何かを埋めたような跡を見たのですけれど……あれは何ですの?」
「あれか……」
それは……。
「……ん?」
学校からの帰り道。昼前から降り出した雨に、傘を差して歩いていた僕は、道端に見慣れない何かを見つけて足を止めた。
それは、どこかから墜落したらしい鳥のヒナ。
「巣から落ちたのか……」
こういう場合、可哀そうだが放っておくのが正しい。下手に人が手を出すと、野生に還れなくなることがあるからだ。ただ、
「……巣が見当たらないな」
顔を上げて上を見回したけど、巣が見当たらない。一体どこに行ってしまったのだろうか。
いくら探しても見つからなかったので、ヒナに視線を戻す。結構大きく育ってる。翼の大きさからすると、恐らく飛ぶ練習をしていてここまで来てしまったのだろう。
「……あれ」
よく見ると、明らかに様子がおかしい。ぐったりしているし、喉が妙に膨らんでいる。
指先で触って見ると、何だかゴロゴロしている。
「…………」
どうも嫌な予感がした僕は、とりあえず近くの動物病院に連れて行って見ることにした。とりあえず、飼っている鳥ということにして。
「……石が詰まってるわ、こりゃ」
「石ぃ!?」
獣医の診断を聞いて、僕は思わず叫んでいた。い、石って……。
「何かと間違えたか、餓えに耐えかねたか……どっちにしても困ったねえ」
「な、何とかなりませんか?」
「んー……気力と体力が持てば簡単な手術で取り除けるが……」
さすがに心配だった。思わず手を出すと、
「痛ッ!」
「……気力はある、か」
つつかれた。痛い……。
「まあ、このままじゃどっちみち死ぬだけか……幸い気力はあるようだし、すぐに始める。外で待っていなさい」
「はい……」
それからしばらくの時間をおいて、獣医が出て来た。ヒナは麻酔の影響でぼーっとしていたけど、石は問題なく取り除けたそうだ。
「後は、とりあえず家で様子を見るように。喉を切ったばかりだから、食事は気をつけて」
「はい」
家に戻るとアオイは出掛けていた。連絡してみると、ランカの所に遊びに行ったらしい。親睦を深めるために、今日は泊まるとか。
「僕も行きたいなぁ……」
とはいえ、ヒナを抱えてはいけない。とりあえず、留守番をしている旨をメールして携帯を閉じ、リビングへ向かう。
「小鳥の食事って何をすればいいのかなぁ……」
僕は、あまり動物には詳しくない。図鑑と睨めっこしながら、とりあえず食べられそうなものを用意する。
「……どうだ?」
小さな皿にのせて出してみると、ぼーっとしながらも食べ始めた。よしよし、この調子なら大丈夫だろう。
「痛っ! ……はぁ」
とりあえず、気力もあるようだし。
一夜明けた翌日は晴れだった。様子を見て見ると、ヒナは眠っていた。疲れが出たのかな。
「食事……は昨日のが残ったか」
思えば昨日は水を用意するのを忘れていた。……こんなんだからドジッ娘呼ばわりされるのかな。
バササッ、
「え?」
羽撃きの音がして振り返ると、テーブルの上に落下するように着地しているヒナの姿が見えた。
「今、飛んだ……のか?」
飛べてもおかしくはない。あの翼の大きさなら。
と、様子を見ている内に気付いた。―――動かない?
「まさか……」
ヒナを庭の隅に埋めた後、僕はしばらくその前に座っていた。
「……鳥が死ぬことを『墜ちる』って言うらしいけど……ホントに……」
ふと、立ち上がって空を見る。屋根の上に、ヒナを大きくしたような鳥が二羽、とまっているのが見えた。
もしかして、この子の親なのかな。
「……ごめん。……助けてやれなくて……ごめんな」
呟くと、片方が俯くようにして翼をつついた。そして一拍のち、二羽の鳥は羽ばたく音を残して飛び去ってしまった。目でその軌跡を追うと、鳥の飛び去った空に、淡く虹がかかっているのが見えた。
「…………」
「……何でもないよ」
「何でもないって……」
訝しげな顔をするアオイに、僕は曖昧な笑みで返す。あの事は、僕だけが知っていればいい。
あの、命の消える瞬間は……。
朱雀と小鳥
(消えるべくして命が消えた)
(
ただ、それだけのこと)
(―――ただ、それだけの、こと)
最終更新:2011年10月05日 21:25