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過ちより先を

授業終了のチャイムの数分後。
ガン!と珍しく大きい音を立てて、カイムが屋上に飛び込んできた。
それを待っていたかのようにゴクオーが振り返る。
ああ、この人は何でもお見通しなのだ。そうカイムは改めて思った。

「…ゴクオー、さん。」
「いい。なんも言わんでも分かる。」
こっちにこい、とゴクオーはカイムの腕を引いた。

「授業に集中できなかったんじゃろ。今のお前には、全て「聞こえていた」はずじゃ。」
「…はい。」
チャイムの後、カイムが教室についた時、階下から声が聞こえてきた。
無論、他の生徒には聞こえない。音を掌握するカイムの特権だ。

聞こえてきた音はただ事ではなかった。
聞き覚えのある声はアズマ先生と…確か、一年生の張間さんだったか。
かすれたような鳴き声、そのあとに響く駆け足の音は保健室に向かって言った。
うすうす感じていた「悪い予感」が的中したのである。

「この学校に来た時から嫌な予感はしていたのです。でも、「予感」だけにとどめて、調べようとはしませんでした。」
俯きながらカイムが言う。
「理由はありません。ただ、行き成り戻って来た講師が下手に動くのは許されない。その『暗黙のルール』に縛られていたのです。」
ゴクオーはただ、彼を見つめる。

「『いじめは許してはならない』。そういいながら僕は、行動に移せなかった。気がつけばもう、手遅れだったのです。僕は…。」
「『僕は偽善者です。』そういいたいんか?」
言葉を続けようとしたカイムをゴクオーは遮った。
「今からでは遅すぎる。そういいたいんかの?ならまちがっとる。お前にはまだできる事があるんじゃ。」
「え…?」

「いじめが大人にばれ、こっぴどく叱られる。それをいじめられる者のせいにし、より陰険に、より心理的にいじめは酷くなる。…そうはきかんかの?」
「あ…。」
「それを止めることはできるんじゃないかの?」
ゴクオーは微笑み、軽くカイムの背をたたいた。

「過ぎたことを悔やんでも仕方あるまい。現に、知っていながら見ぬふりをした者は皆罪を負うじゃろう。お前も同罪じゃ。しかし、それ以上見過ごすことが、お前にはできまい。」
「…そう、ですよね。」
カイムは頷いた。
「少なくとも他の人より接点のあるお前なら、関わることができるはずじゃ。やれることをやる。それが最善じゃろう?」


カイムが立ち去った後、ゴクオーは空を仰いでいた。
「『人の性は悪なり、その善なるものは偽なり』。だからいつの時代も人を見下し、蹴落とし、いじめる。」
先程の授業時間、啓介が珍しく屋上に来たことを思いだしていた。
「偽善者気取りから偽善者になることが、はたして何人できるんかの…。」
それができてこそ、はじめて浄土にいけるんじゃ、なんての。そう呟いてゴクオーは階下を見下ろした。


過ちより先を


全ての過去を清算するのは、もっと遅くなってからなのだから。

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最終更新:2011年10月07日 22:35