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梧桐の想い、朱雀の想い

ジングウ一派によるウスワイヤ襲撃。その場に居合わせたスザクは、事実上の敗戦にうなだれていた。
未知の敵だったというのもあるが、実力で圧倒的に上を行かれていた。

(まただ……また僕は何も出来なかった)

半ば暴走に近い「白化」……あえて人格にヒビを入れ、生物兵器としての部分を露わにする負の切り札。それを切ってなお、この様だ。
身体を引きずるようにして外に出ると、そのままとぼとぼと自宅に向かう。

「………」

帰り道で考えるのは、襲撃現場にいなかったあの男。

(お前はどこで何をしてるんだよ、ゲンブ……こういう時に役に立たないでどうするんだ)

自分をこの立場に引き込んだ男。脱走からの付き合いの仲間。
最近はホウオウグループを敵視する方に思考が飛び、半ば自分達から浮きつつあるあの男。特殊調査員だというあの男が、こんな時に限って現れない。招集がかからなかったのならそれでいいのだが。

そしてもう一つ、

(グループどころか、奴らだけでもウスワイヤに乗り込み、潰せる……)

推測ではない、事実だった。自分は出会わなかったが、ジングウ一派がいたということは間違いなくバトルドレス装着者がいたはずだ。そして兵器である以上は量産が利くはず。

(……もう、ダメかもな)

自分の力ではどうにもならない。それを痛感し、自然と足取りも重くなる。それでもどうにか、家まで辿りつくことは出来た。

「ただいま……」
「お帰りなさいませ……? 姉様、どうされましたの?」




「……そうでしたの」

スザクから一部始終を聞いたアオイは、ふう、とため息をついた。

「肝心な時に限って僕は何も出来ない……守らないと、倒さないとならなかったのに」

自責の念に苛まれる姉を、アオイは不思議そうな表情で一瞥する。そして、

「思うのですが、姉様」
「……?」

「ウスワイヤのために、そこまでする必要はないのではありませんか?」

そんなことを、言ってのけた。

「!? 何をいきなり……」
「姉様は単なる外部協力者でしょう? 内部の問題にまで首を突っ込む必要はないのでは?」
「そうは言っても、あそこにはシスイ達が……」
「かもしれませんが、それに関しては任せておける方がいらっしゃるでしょう? 姉様のお友達は、そんなに信用が置けない方たちですの?」

衝撃だった。確かにアオイの言うとおりだ。だが、

「……あの場に居合わせたんだから、戦わないわけにはいかなかった」

スザクがウスワイヤにいたのは、シスイが重傷で担ぎ込まれたと言う話を聞いたからだ。その最中に襲撃が起きたのだから、彼女はどちらかといえば巻き込まれた形だ。
だが、それでもアオイは言う。

「ええ、存じております。ですから、自分からこの件に関わるのはもうおやめになってはいかがですか?」

「だからって……」
「同じことが起きた場合、姉様にはどうにか出来ますの?」

いっそ冷たいくらいの眼差しで、アオイはスザクを見据える。

「それは……!」
「出来ないとわかったからこそ、そこまで落ち込んでいらっしゃるのでしょう?」

こう言う時のアオイは本当に容赦がない。逃げることも、目を逸らす事も許さず、現実を突きつけて、否叩きつけて来る。

「正直な事を言わせてもらえば、姉様とわたくしは、アースセイバーの皆さまから見れば弱者もいいところですわ。精神状態がフラットなら、2人がかりでもゲンブさんすら倒せません」

何気に酷いことを言ったのはスルーし、アオイは続ける。

「強くなりたいのでしたら当てもあります。皆さまが心配なら、姉様が行かずともやり様はあります。……ですから、これ以上危険に踏み込むのはやめてくださいませ。姉様に万が一のことがありましたら、わたくし、今度こそ本当に一人ぼっちになってしまいますわ……」
「アオイ……」

―――頭に血が上り過ぎて忘れていた。確かにアースセイバーの彼らも大事だが、もっと他に、何を措いても守らねばならないものが、すぐ近くにあったことを。

火波 アオイ。島根から自分を慕ってやって来た、たった一人の妹。
ブランカ・白波。行き倒れた自分を助けてくれた、無二の親友。

(トキコは……大切だけど、守ってやらなきゃならないほど弱い女でもないか)

少なくとも彼女には居場所があり、仲間がいて友達がいる。とはいえ黙っているわけにも行くまい、折を見て話をしておくとしよう。

「……そうだな、わかった。必要以上に首を突っ込むのはやめとくよ」
「姉様……わかっていただけましたのね」
「ああ。ウスワイヤは確かに心配だけど、僕がいないくらいでどうにかなるとは思えないから。僕の戦う場所は、他にある」

逃げ出したのだと笑わば笑え。臆病者だと言わば言え。弱くなったと嘲らば嘲れ。それでも、

(今の僕に、守れるものは少ない)

なら、一番大切なものを守ろうとして何が悪い?

(……そういえば)

決意した瞬間、唐突に妙な方向に思考が飛んだ。ウスワイヤで会ったサヨリという擬人兵は、何と言っていた?

(「もともと我々の所属だったあなたなら」……けど、僕は別にグループにいたわけじゃないぞ?)

スザクがいたのはグループから弾かれた研究者の集団「UHラボ」の施設。そこは他ならぬホウオウグループの襲撃で壊滅している。情報くらいは行っているだろうが、それにしてもあの言いようはおかしい。

(情報に齟齬でもあったのかな)

思うが、グループ内部のことまでは頭が回らない。答えの出ない思考をとりあえず打ち消し、椅子から立ち上がる。

「姉様?」
「……ご飯にしよう、アオイ。何だか今日は疲れちゃった」
「ですわね」

ピン、ポーン……。

「ん?」
「あら? お客様ですの?」

玄関に向かい、扉を開ける。そこにいたのは、


「っーや、こんーばんわ」
「……どうも」

眼鏡をかけたおかしなテンションの男と、白い髪で無表情、生気の全くない少女だった。


梧桐の想い、朱雀の想い

(そしておかしな訪問者)

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最終更新:2011年10月31日 16:22