「なんなんだあいつは…!」
修斗は走りながらつぶやく。
工事現場に辿り着くと、準備を始めていた親方に走って行った。
「親方!」
振り向いた親方は驚いた顔で修斗を見る。
「どうした、血相変えて!何かあったのか?」
「ゼハー、ゼハー、ハァ、ハァ…」
「修斗、落ち着け!ほら、水!」
修斗は差し出された水を飲み干すと、一気にまくしたてた。
「ウ、ウスワイヤ…ウスワイヤの連中が…」
* *
「“ウスワイヤ”だ。オマエを保護しに来た。おとなしくついてこい。」
キャップ帽の男に言われた言葉を理解するのに3秒とかからなかった修斗は、どうすべきか
考えた。
「…バイト関係の所に事情を説明してくる、それからでいいかい?」
「ウスワイヤで引き受けられるが。」
「いや、自分で言わなければ意味がないしな。ちょっと待っててくれ。」
ウスワイヤのことは聞いたことがあった。異能者を保護し、場合によっては隔離したり、
アースセイバーという機関で働いたりすることになるらしい。しかしあくまで“らしい”
ことであり、不透明なことには変わりがなかった。
「…とりあえず逃げるか。」
部屋の奥に戻ると、修斗は辞表願をさらさらと三通書く。
「どちらにしろここらは危険だ…」
窓の下を見ると、ボックスタイプの車が一台停まっていた。
「おーい、早くしろよ。」
玄関のキャップ帽の男がこちらを見ている。
「ああ、洗濯物も入れといかないといけないからな…。」
修斗はマジック用のロープと辞表願を三通ポケットにねじ込むと、窓を開けた。
丁寧に洗濯物を部屋干しさせると、開いた窓から―――
「あ!おい待てコラ!」
ボックスカーめがけてダイブした。
ドン!ゴロゴロ!
着地した修斗は、転がりながらボックスカーの天井から落ちる。
車の後ろに『ウスワイヤ』の文字を確認しながら、急いで立ち上がると走り出した。
車に乗っていた男とキャップ帽の男が修斗を追いかけてきたが、修斗は裏路地に入ると
紐をちょうどよく足の高さに結び、急いで走った。
二つの大きな音がして、それから静かになった。
* *
親方は頭を抱えたまま答える。
「そいつは…マズいな。」
ぽかんと答える修斗。
「え?」
「ウスワイヤは公的な機関だ。警察と変わらん。逃げ切れんら?」
事務所にはすでに仕事仲間がいた。心配そうに皆親方を見ている。
修斗は辞表届を出すと、寂しそうに呟いた。
「ええ。いずれ捕まるかもしれません。しかし僕は足掻きますよ。
彼等は・・・不透明なんですから。」
「…分かった。こいつは餞別だ、持って行け。」
封筒を渡す親方。
中には5万入っていた。
「そんな…!」
「いいから持ってけ。頑張れよ。」
その時、ドアを激しく叩く音がした。
「ウスワイヤだ!森山修斗!おとなしく出てこい!」
親方が弾かれた様に立ち上がると全員が身構えた。
修斗に小声で呟く親方。
「時間を稼ごう、行け!」
扉が開いた瞬間、窓から逃げる修斗。
振り向きもせず、一目散に逃げた。
<森山修斗の転換点>
6ヶ月後。
修斗は森の山小屋に住んでいた。
ウスワイヤからありとあらゆる手段を使い逃げ、
辿り着いたそこで自然と格闘しながら生きていた。
しかし。
「よお、ようやく見つけたぜ。」
そこにも、ついにウスワイヤが現れた。
忘れるはずもない、あの切れ目の入ったキャップ帽の男。
逃げようとする修斗を、窓から狙撃したネット弾で動きを封じたのは
雌のワーラットだった。
「いっちょあがりですぜ!」
小屋は囲まれていた。
修斗は冷静に判断を下した。もう逃げ場はない。ならば―――
能力を使うしかない、と。
ネットが自在に動き、形を変える。切れ目のキャップ帽の男とワーラットに
一本となった縄が飛びかかる。
「ケッ!」
「甘いんだぜ!」
キャップ帽の男は手から何かエネルギーの塊でできたような剣を作り、
ワーラットは重火器を取り出し、
それぞれ縄を切り刻み、撃ち斬った。
「そこまでだ。」
キャップ帽の後ろから出てきた男には修斗にも見覚えがあった。たしか
ウスワイヤ、アースセイバーの所長・隊長だ。まだ若いが、有能なのだろう。
「なぜお前は俺達から避ける?」
「決まったことを!あんたらが怪しいからに決まっているだろう!」
「なぜ怪しい?」
「あんたらに連れ去られた人間はどこで何をしているというんだ?不透明だ!」
「なるほどな。だが異能者はどの場所にいても、一般人からの評価がいいとは限らない。」
「・・・」
「それにこれは異能者の為でもあるんだ。異能者の能力を狙う集団があるのを知っているか?」
「?いいや、知らない・・・。」
「名を
ホウオウグループと言う。まあ、狙うものはそれだけではないが、こいつらから
異能者を守るための機関でもあるんだ。表沙汰にはなっていないがな。」
「・・・。なるほど。」
「しかしお前はかなりの戦力になる。我々相手に、半年も逃げ続けた。芯の通った心も持っている。
お前をアースセイバーに入れたいと思う。」
「なんだって?」
「お前の能力を正当に評価したまでだ。戦闘に関してはまだ経験が足りないだろうが、
その縄を使う能力と頭脳と心なら十分に戦える。」
「・・・。」
「力を貸してくれないか。」
「・・・条件が一つ。」
「何だ?」
「不透明だと言ったろう?ウスワイヤの活動と、異能者たちがどのような扱いを受けているのかを見た後、納得できるようなら。」
「いいだろう。」
こうして森山修斗はウスワイヤへと行くことになる。
彼がアースセイバーの一員として活躍することになるのはまた別のお話。
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最終更新:2013年06月12日 19:23