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影なる戦士

「く…ッ!」
「キラちゃん、大丈夫!?」
「あ、ああ。」

ウスワイヤ。
ジングウ率いる「千年王国」の襲撃により、アースセイバーに所属する多くの能力者が戦闘に駆り出されていた。
そして。

「♪今 Untie it! さあ太陽よッ!! 焼き尽くせ! 大地と共にッ!!!」
「姉貴、変わっていいか? …よし! ………また変わるかもしれない、休んでて!」

「裏アースセイバー」とも呼ばれる特殊部隊「IUCチーム」も加勢に入っていた。
特殊能力者より戦闘経験が少ないとはいえども、中には戦闘向きのIUCを持つ者もいる。
聴こえる音楽のリズムに合わせて戦う紀伊や、体温調節などで、互いの人格を象徴する氷と炎を操る鏡石姉弟も勿論例外では無い。

「…埒が明かないな。お前ら、じっとしてろ! 『アレ』を使う!」
「分かった!」

刹那、キラの体に異変が起こった。
人間味のある肌の色が真っ白に変色し、いかせのごれ高校のジャージも白いチュニックに変わる。
機械的な模様に変貌した瞳からは、人間らしさが感じられなかった。
キラが人間からアンドロイドの姿に変えたのだ。

「行くぞ…ルームクエイク!!」

キラが地に拳を叩き付けた途端、辺りに強い振動が走った。
ただ地面が揺れているだけでなく、空気も揺れているかの様に振動を起こしている。
その揺れにバトルドレス―――BDの小隊が隙を見せた。

「気絶は無理か…ひなた! たたっ斬れ!」
「うん!」

キラの合図を受け、ひなたが前に躍り出る。
本物の剣へ変化させたキーホルダーの剣を振るう度に、黒い人影から鮮血が次々と噴き出した。
再び斬ろうと振りかぶった瞬間、1人のBDがひなたの背に向かってアサルトライフルを構える。
とそこへ。

「させない」

いつの間にかBDの懐に潜り込んでいた亞離鎖が、ライフルを握っている腕を掴んだ。
すると瞬く間にBDの腕がライフルごと凍り付く。
他の数人のBDが亞離鎖に銃弾を放つも、今度は亞離鎖が氷に包まれ、その氷を貫けても亞離鎖を貫く事は出来なかった。

「…ねえ亞離鎖ちゃん」
「何?」
「本当に実戦経験無いの?」
「無い。ただ訓練を重ねているから、他の奴らより動ける」
「なるほど…っと!」

ひなたが飛んできた銃弾を剣で弾く。
ふとある事に気付いた亞離鎖は、ヘッドフォンを装着し、アクロバティックに戦う紀伊を呼び掛けた。

「紀伊!」
「♪―――! ―――!!」
「紀伊ッ!!!!」
「…ん? 何だー?」
「戦闘中ぐらいは音小さくしてよ!! 全く…それより気付かない?」
「んー…まさかとは思うけど―――」
「ああ、『減っている様子がない』」

紀伊の代わりにキラが答える。

「増えてはいない…ただ減ってないんだ」
「今はまだ大丈夫だけど、このままじゃあじり貧になっちゃうよ…」
「ルームクエイクの振動波で吹っ飛ばせれば気絶出来たんだが、いかんせん相手が悪い…どれだけの強度があるんだ、あのスーツ!」

舌打ち混じりにキラが言った。

「けど、諦める訳にはいかないよ」
「ええ…鎖離也も言ってる」
「ここで死んだら、ウスワイヤがマジでヤバい」
「そうだ。あんな人の心を持たない奴らなど…掻き消してくれる!!」

走り出すキラ。
当然BD達はチャンスとばかりに、キラに銃口を向ける。
しかしキラはそれに目もくれず。

「失せろ!! 人でなしが!!!」

咆哮すると右腕で横一閃に空を薙ぐ。
それと同時に、円や線を組み合わせた記号のような物がBD達に向かって飛んでいった。
記号はBD達に当たると電気を発生させ、一気に痺れさせようとするる。
だが。

「…!?」

BD達は強力な筈の電流を受けてなお、さも平気だと言わんばかりに立っていた。

「バカな…さっきの電気は10万ボルトぐらいの威力があるんだぞ!?」
「だったら、亞離鎖ちゃんの氷か鎖離也くんの炎で―――」
「いや、無理ね」
「え?」
「私の氷は凍らせる事が出来る、勿論凍死だって可能」

「だけど」と、亞離鎖は一間置いて続ける。

「BDが相手じゃあ、凍らせる事しか出来ない。鎖離也の炎も同じ。さっき燃やそうと試みたんだけど、全体的に焦げただけ。そもそも私達の氷と炎はあくまで『操る』ってだけで、威力は特殊能力者より凄く低いの」
「そんな…!」
「俺のもただスピードがはえーだけだし、格闘技しか使えないからな。唯一の攻撃手段はひなた、お前の『斬る』悪夢だけだ」
「………」

彼女は幾つか持つ悪夢の内の一つ、『斬る』悪夢は様々な物を剣に変えるだけでなく、『斬る』という事に特化する事も能力なのだ。
重大な役目を任され、緊張で顔を強張らせるひなた。
それを和らげるかの様に、キラがひなたの肩に手を置く。

「大丈夫だ。私達が全力で守る」
「キラちゃん…」
「来るぞ!」

数人のBDがナイフや銃を手に近付いて来る。

「じゃあ行くぞ…ってあれ?」
「どうした?」
「…音楽終わった」

紀伊の言葉に3人はずっこけそうになった。

「何してるんだお前は!!」
「悪い悪い…すぐ流すから、ちょっと後ろに下がっとくよ」
「全く……ん? …分かった、変わる」

突如、亞離鎖の体つきや、髪の色と長さが変わった。
鎖離也に人格交代したのだ。

「とりあえず俺らは足止め、ひなたは攻撃。それでいいんだよな?」
「ああ」
「よし!」

鎖離也が駆け出し、2人のBDにタックルをかますと同時に炎を発する。

(持続させて、一部でも焼き払ってしまえば…!)
「鎖離也! 避けろ!」
「おわっ!」

鎖離也の頭があった場所に鉛弾が飛んできた。

(チッ! 隙が大きいか!)
(攻撃に集中してるから、さっきの私みたいな防御と同時に出来ないのね)
(はあーあ、こーゆー時は特殊能力者が羨ましいぜ!)
「大丈夫か?」
「ああ。姉貴でも同じ結果みたいだな」

顔をしかめる鎖離也。

「とにかく、ひなたが攻撃しやすいように動け!」
「…つっても、ひなたにばっか攻撃任せたら、いつかバテんぞ」
「確かに…しかしそれ以外に攻撃手段は…」

苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべるキラ。
実際、ひなたもひなたで段々と動きが鈍り始めている。

「ぜえ…ぜえ…」
「ひなた、もう休めって!」
「駄目…諦めたくない…」
「だからってこのままじゃあ!」

その時。

「バカ紀伊! よそ見するな!」
「バカっておま――― !」

紀伊はBDが右から銃を構えているのに気付いた。
しかし時は既に遅く、BDは引き金を引く。
それを見た紀伊は思わず目を瞑った。


「……?」

鉛弾を受けた感覚が来ない。
恐る恐る目を開けると―――。

「…っ」
「ひなた!?」

地面に伏しているひなたの右腕から血が滴っている。
どうやら紀伊を庇って撃たれてしまったらしい。

「紀伊くん…大丈夫?」
「大丈夫って…それは俺の台詞だっつの! 何で庇った!?」
「仲間を庇うのに…理由なんかいらないよ」
「お前…」

ひなたの剣を持つ腕から力が抜ける。
握るのがやっとの状態のようだ。

「まずいな…ひなたがこれじゃあもう…」
「ごめん…」
「いや、お前は悪くない。バカ紀伊を助けたのに、責める必要は無い」
「だからバカ紀伊言うなって…」

軽口を叩くも、紀伊の表情には明らかに余裕が無い。
それは他の3人も同じだった。

「仕方ない…とにかく足止めしまくれ! 私の記号図で他の奴らに救助連絡を―――」

ドンッ!

「ぐっ!?」
「キラ!!」

腕を振り上げようとしたと同時に、キラの肩を銃弾が掠めていった。
それを境にBD達の攻撃が激しくなる。
恐らく攻撃手段が無くなったからだろう。
最早、4人の状況は悪い方向へ向かっていた。

「くそっ!」
「逃げるしかねえが…」
「…あいつらはそんな暇も、与えなさそうだな」
「ていうか、あれだけ斬り伏せた筈なのに、一向に減らないっていうのがおかしいよ!」
「ああ…きっと何か仕掛けがあるはずだ」
「つっても分かる訳ねーよ…!」
「万事休すか…?」

じりじりと迫り来るBD達。
すると数人がこちらに銃口を向けた。

(畜生!)

キラはただただ睨み付けるしか無かった。

刹那。


「吹っ飛べーーーっ!!!」


ゴウッッ!!!

「!?」
「風…いや、『風の刃』!?」

突如聞こえた咆哮と共に、何処からともなく円状に渦巻く白い風の刃が、BD達を襲った。
まともに食らったBDは体を真っ二つにされていく。

「今のは…」
「皆! あそこに誰かいる!」
「何だって?」

ひなたが指差した方向には、建物の上に立つ一つの人影。
それは白いマントを纏い、黒い前髪を上げ、ゴーグルをかけた少女だった。
そして一瞬、その白に紛れて黒い何かがはためく。

「黒い…蝶…て事はあいつが…」


―――”闇の蝶”。

「闇の蝶?」
「ああ。何時からかは知らんが、時折アースセイバーの人間に助力する者がいてな。そいつは決まって、黒い蝶のついた白いマントを羽織っていた。それが―――」
「目の前にいる奴って事か」
「そうだ」

そんな会話をしている4人の元に、”闇の蝶”は建物の上から軽々飛び降り、駆け寄った。

「大丈夫ー?」
「あ、ああ」
「良かったー! 何かウスワイヤで騒ぎ起こってるの見えたから、慌てて駆けつけたんだよ!」

ゴーグルで目が見えないものの、声の調子から満面の笑みを浮かべているのが分かる。

「そうか…すまない」
「いいのいいの! アースセイバーには世話になったし!」
「世話?」
「あ、こっちの話だから気にしないで。それよりこいつらは?」
「BD…バトルドレスの部隊だよ」
「バトルドレス?」
ホウオウグループ製のスーツだよ。見た目は普通のバイクスーツだけどな、装着した奴の筋力を強化する上、防弾・防刃機能を備えたチート物だ」
「ふーん…」
「まあ、お前がさっき放った風の刃やひなたの剣は効いたが…でも問題なのはそれだけじゃねえ」
「?」

首を傾げる”闇の蝶”。

「倒しても倒しても数が減らないんだ。増えてるんじゃなくて、ただ減ってない」
「だからお前が来なかったら、俺ら全員…全滅していた」
「だが鎖離也。窮地は免れ助っ人が来たとはいえ、この状況を打開出来るのか?」
「それは―――」

答えあぐねる鎖離也。
とそこへ。

「なんだ! それならアタシに任せてよ!」
「え?」
「任せろって…何するつもりだ?」
「まあ見てて」

身を翻し、BDと対峙する”闇の蝶”。

「まずは威嚇してみるか!」

ニッカリ笑いながら言うと、”闇の蝶”はBD達に向かって駆け出した。

「レイアームズ! ネイルモード!」

すると、”闇の蝶”の指先から黒い爪の様な光が現れた。
”闇の蝶”は軽快な身のこなしでそれを振るい、BD達を次々と切り裂いていく。
ある程度攻撃をすると、彼女は自分の動きを警戒するBD達に動きが無いのを確認し、ピタリとその場に止まった。

「!? ”闇の蝶”!?」
「危ないよ!」
「だーいじょー…ぶっ!」

勢いよく跳躍したかと思えば、前にいたBDの頭を踏んづけて更に跳ぶ。

「お、いたいたー」

空中でさも蝶の様に飛び舞う”闇の蝶”は、何かを見つけると黒い光の爪を消した。

「リングモード・ブレードスタイル!」

次に現れたのは桃色に光る、手に握れるサイズの輪。
”闇の蝶”が両手に持ったそれを薙ぐ様に投げ飛ばすと、桃色の輪が幾つかに分離され、ある方向に向かって飛んでいく。
そこには―――1人のBD。

輪はそのBDを容赦なく切り裂く。
すると。

「な…!?」

切り裂かれたBDから黒い影の様な何かが出てきたかと思えば、それは弱々しく霧散する。
その途端、周りのBDからも黒い影が現れ、同じように霧散した。
辺りに残ったのは、脱け殻となった大量のBDだけになった。

「今のは…?」
「あれが仕掛けの正体だよ」

4人の元に降り立つ”闇の蝶”。

「どういう事だ?」
「さっき黒い影みたいな出たでしょ? あれは謂わば『本体』で、他の奴らは『分身』だったって訳」
「『本体』? 『分身』?」
「つまり、あの『本体』は『分身』を作って自分を守っていたんだよ。『分身』だから倒されても消えず、当然減らない。そして倒された『分身』はバレないように復活させていた。君達は気付いてなかったみたいだけど、アタシは上から見ていたからね。すぐ分かったよ」
「そうだったのか…」
「まーこれで危機は去ったかな、他の所は分かんないけど。じゃあ行くね」

その場から去ろうとした”闇の蝶”を、キラは慌てて呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待て!」
「ん?」
「お前…何故、私達を助けるんだ?」
「んー…君達は知らないだろうけど、アタシは君達に恩があるんだ」
「恩? それってどういう―――」
「じゃあね!」

キラの問いかけを遮る様に、”闇の蝶”は今度こそその場を去った。

「…あいつ…」


翌日、いかせのごれ高校。
ひなたを始め、大体のウスワイヤ学生組は登校していた。

「スザクちゃん、おはよう」
「ああひなた、おはよう。昨日のウスワイヤ、大変だったみたいだな」
「うん…」
「ひなたも戦ってたのか?」
「うん、キラちゃんや紀伊くんに、亞離鎖ちゃんと鎖離也くんとね。苦戦を強いられちゃったけど、”闇の蝶”のお陰で何とか勝ったの」

”闇の蝶”という言葉にスザクは頭を傾げるが、思い出した様に「ああ」と言った。

「アースセイバーを助けている能力者だろ?」
「そうそう! お礼したいけど、正体不明なんだよね…」

とそこへ。


「おはよ」


「あ、希流湖ちゃん!」
「何話してたんだ?」
「あ、いや。他愛の無い会話だよ」
「それより希流湖ちゃん。昨日電話出てなかったけど…」
「あー悪い。その時ライヴ中でさ」
「なーんだ……ん?」
「? どした?」
「……ううん、何でもないよ」
「そうか。あ、伊織にノート返すの忘れてた。じゃあまた後でな」
「うん」

手を軽く振り、希流湖は1組の教室へと向かって行った。

「どうしたんだ? ひなた」
「ん?」
「さっき、希流湖の顔をじっと見てたじゃないか」
「んー…何ていうか、誰かに似てる気がして…」
「似てる?」
「うん…でもきっと気のせいだね」
「そうか」


「はー…しかし昨日は疲れたなあ」

伊織にノートを返し、2組の教室に戻る希流湖。
そして、希流湖の口からこの言葉が飛び出た。


「”闇の蝶”の活動も大変だな」


影なる戦士





※”闇の蝶”の時、希流湖はボイスシフトで声色を変えてます。

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最終更新:2011年11月23日 13:21