「くそっ…いつになったら出れるんだ…」
『まだ言ってるの?』
「はあ…何故こんな目に…」
空に朧月が浮かび、桜の大樹が佇むそこで、ゲンブは苛立ちを感じつつ何度も溜め息をついていた。
『それにしても、あなたは一体何なの?』
「どういう意味だ」
『さっき言ったでしょう、ここに入れるのは妖怪だけだと。まさかあなたも?』
「そんな筈はない。俺は人間だ」
『ならどうしてここにいるのかしらね』
「それはこっちの台詞だ」
『…ま、いつかは誰か来るでしょ』
「はあ」
ゲンブはその『いつか』に焦りと苛立ちを感じ、また溜め息をついた。
と。
『…あら?』
「どうした?」
『誰かが来たみたいね』
「何?」
『ほら、あそこ』
と
サクヤが指差した方向には、確かに一つの人影が見えている。
『ま、良かったわね。ようやく出れるわよ』
「あ、ああ…しかし見かけない姿だな」
『そうね。
百物語組の人では無さそうだし…』
人影が段々近付いてくる。
そこでようやく、出で立ちや顔がはっきりと見えた。
人影は少女だった。
乱れた長い髪は黒く、ボロボロのマントも黒い。
黒で埋め尽くされた彼女だが、ただ黒い目の中の瞳は、白かった。
それだけで人間ではない事は明らかだ。
『どうもこんにちは』
「………」
『別に警戒しなくてもいいわよ、ここは何もないし』
「………お前は、ここの者か」
ようやく口を開いた少女。
周りに玲瓏たる声が響き渡る。
『ええ。ところであなた、百物語組の人?』
「百物語組…?」
『違うみたいね』
「………」
「いかせのごれに住み着いている者か?」
「……間違いではない」
「…なるほどな」
『さてと…あなた、どう来たかは分かるわよね?』
「ああ」
『なら、この人も一緒に連れ出してくれるかしら?』
「?」
『妖怪では無い筈なんだけど、何故かここに迷いこんじゃったみたいで。いい?』
「…分かった」
『良かったわねー』
「うむ…しかしお前、何者なんだ」
「………」
人間とは違う目をゲンブに向ける少女。
しばらく黙っていた後、口を開いた。
「…我は、全てを奪われた命」
「奪われた?」
「我はあの女を探している」
「女?」
『会ってどうするの?』
「……会ったら、この手を」
「そいつの血で染める」
『……』
「復讐…か」
「今の我には、それだけだ」
「…そうか」
「……出たいんだったな」
「ああ」
「来い、こっちだ」
少女は身を翻し、歩き出す。
と。
『ちょっと待って』
「…何だ」
『名前は?』
「……捨てた。今の我は、『復讐者(
ヴェンデッタ)』だ。」
『ヴェンデッタ…ね。また会えるかしら?』
「…我はこの地をさ迷っている。また廻るだろう」
『そう。ではまたいずれ』
「……いずれ、な」
再び歩き出す少女―――ヴェンデッタ。
ゲンブはその後をついていく。
「…ヴェンデッタ」
「?」
「お前は一体何の人外だ?」
「…今の我は、何でもない。敢えて言うなら…『半魔人』と言った所か」
「半魔人? それは―――」
刹那、一陣の風が吹いた。
それによりヴェンデッタの黒いマントが大きくはためく。
その下には―――氷と鎖に覆われた人ならざる右腕が。
「……」
「これが、その証だ」
その言葉を最後に、ヴェンデッタは口を閉ざした。
しかしそれでも、ゲンブには割り切れない思いがあった。
(人外である事には間違いないが……)
―――ここに入れるのは”妖怪”だけよ。
(妖怪というより、”魔物”という感じだな…しかしここに来たからには……)
考察を張り巡らすゲンブだったが、結局最もな結論は出なかった。
玄武、復讐者(ヴェンデッタ)に救われる
「ところで、何であそこに来たんだ?」
「あの女の手掛かりを探しに」
「…その女は、一体誰なんだ?」
「……女は、自分の事をこう言っていた。”冷血”…即ち」
最終更新:2011年12月01日 21:36