「………はぁ。」
ぱたん、と携帯を閉じる音だけが部屋に響く。
白い天井を見つめながら、ユウイは大きく息を吐いた。
たった今、ユウイは
ホウオウグループを抜けた。
リオトには申し訳ないとは思う。そりゃあ、出来るならば彼と共にいたい。
けれど、友人を殺したり、裏切ったりはとてもじゃないが出来ない。
出来るはずもなかった。
(疲れた…。)
慣れない相手と会話をしたからだろうか?
一気に疲労感を感じ、彼女は枕に顔を埋め瞳を閉じた。
「ゆーーいーー!」
「………」
「ゆーーーいーーー!!」
何だ?何が鳴いている?
自分の名を呼ぶ声に、彼女は徐々に眠りから覚めていく。
直後、勢いよく開けられる部屋の扉。
「もう、ユウイ!いつまで寝てるの!」
「え、う…お、おはよう。」
「おはよう。――じゃなくて!ほら、早く起きて!」
「へ?なんで。」
「リオト君来てるのよ。」
「えっ!」
なんてこった――。
リオトが家に来た?
もしかしなくても、あの話をするつもりだろう。
「待たせちゃってるから早くしてっ。」
「や、やだ。」
「は?」
「今日はやだ。帰ってもら――」
「ダメよ。」
「なんでよ!」
「ダメなものはダメなの。」
「嫌だって…。」
「会うわよね?」
「でも、」
「会、う、わ、よ、ね、?」
「………はい。」
「宜しいっ。」
一つずつ語を区切り、圧力をかけられた。
親には逆らえない。
ユウイは負けたと心の中で呟き、縮こまりながら縦に頷いた。
何故母親があそこまで自分をリオトに会わせようとしていたのかはわからないが、ただ一つ気になったことは――。
部屋で階段を降りる母親がやたら喜んでいるように見えたことだ。
今、この部屋は恐ろしい程の沈黙を保っている。
誰も居ないのかと思えるほどの沈黙。
しかし、部屋にいる人の数は2。
言うまでもなく榛名有依とその幼馴染み高嶺利央兎である。
彼は今自分のことをどう思っているんだろうか?
裏切り者だ、と怒っているのか。
情けない、と呆れているのか。
急に心の中がごちゃごちゃし始めて、不安で不安で、押し潰されそうになった。
(でも、言わなくちゃ。)
彼、リオトには今まで本当に迷惑をかけた。小学生の時から何かあればリオトに助けを求め、何かあればリオトに助けを求め…その繰り返しだった。
しかし今ならわかる。
もう、自分は――。
………よし。
「「ごめん! ッ!?」」
声が、ハモった。
お互いがお互いの方向を向き、軽く頭を下げた状態。
端からみれば漫才のようだったろう。
ハモったことに驚いた二人は素早く頭を上げ、目をぱちくりとさせながら暫く視線を交わらせた。
そして、先に口を開いたのはリオトの方。
「ごめん、な。オレ…。」
「いや、アタシも…悪いから。」
再び流れる沈黙の時。
次にそれを破ったのはユウイであった。
「そ、その…さぁ。アタシ達、小さい時から一緒にいたじゃん?小学校低学年の時からだからえーっと…。9、10年ぐらいか?」
「そんなもんだな。」
今まで彼と一緒に過ごしてきた年月を指折り数える。
10年、相当な年月だ。
「離れちゃうなんてあると思うか?」
微笑を浮かべながら、彼に問いかけた。リオトはびっくりしたような顔のまま動かない。
「アタシは、ないと思うな。だって10年だよ?10年。」
「ホウオウグループに頼らなくたって、これだけ一緒にいれたんだよ。だから…これからも一緒にいられる。ううん、一緒にいる。」
ユウイはリオトの赤い瞳に映った自分の姿を見ながら、言葉を紡いだ。
「お前は…リオは…、」
「アタシの――大切な人だからさ。」
そう口にして、ようやくユウイは胸を張ってリオトを見上げた。
これが、本心。
「ユウイ、それは…」
「?」
一拍置いて。
リオトはキラキラ輝く瞳でユウイに詰め寄った。
「オレに対する告白だよな!」
「――――ッ!!!」
(ば、…ばばば、ばば…!)
「ば、バッカじゃねぇーーのッ!!」
「えっ」
「こ、告白とか!バカ!バーッカ!あ、ああアタシが言ったのは「純粋に」大切な人って言っただけで!?
別に、別に「恋愛的意味で」大切な人なんて言ったワケじゃないし!?
っんの自意識過剰!じいしきかじょーが!!」
「ちょ、ユウイ!」
「ぜぇ、ぜぇ……。」
鬼のような顔のまま息を切らすユウイ。
そんな彼女にリオトは思わず笑みを溢した。
「そんなに元気なら、明日は大丈夫そうだな。」
「お、おう。」
「じゃあオレはもう帰るから。」
「わかった、今日はありがとな。」
立ち上がったリオトを見上げ、ユウイは軽く手を振った。
そして最後に一言だけ。
「また、明日な。」
「……あぁ、また明日。」
廻る想い、残る絆。
(しかし、その後)
(一階でリオトとユウイの母親がとある話で盛り上がっていたのはまた別のお話)
最終更新:2012年01月06日 12:53