「……以上が、あたしが見た出来事、です。」
「…そうか、ご苦労。」
「中々厄介な能力を持つ奴、でした。…それと、そうだ。奴に会い、ました。「
ブラウ=デュンケル」」
「なんだと?」
ここのところ大きな事件がいくつも転がり込んできていた為か、すっかり疲れきったような顔をしていた獏也であったが「彼」の名前を聞き、ばっと表情を変えた。
「…なんで「アイツ」とみたいな格好してたんだ…。ややこしいったらありゃしな」
「で、奴についてわかったことはあったか?」
既知のことを
シュロがぐだぐだとぼやき始めたので、即座に獏也は質問をする。
ついでに彼女のやたらつっかえる敬語も聞き苦しかったので敬語を止めて説明をするように言った。
「―――奴はあらゆるものを「見る」能力を持っていたんだ。襲撃者の「相撃ち」がわかったのも、奴の「見る」能力のおかげだ。
それが何であろうと、たとえ記憶や能力そのものであろうと、概念や法則であろうと、関係はない……そう言っていた」
「……成る程、凄まじい能力だ」
「あんたのも相当だと思うが。…でも、敵のようには見えなかった、―――だからといって、こちらの味方だ、とは言い切れないけど。何考えてるか全くわからない。」
「…まだまだ警戒は必要、か。…よし、ご苦労。シュロ、お前は少し休め」
「なんで?別に疲れてねぇ。ブラウについてはあたしも独自で調べてみる。で、さっきの「休め」って言葉、獏也さんにそっくりそのままお返し、ます」
「………」
くるりと背を向けて立ち去っていくシュロの背を見つめ、獏也は「生意気だ」とため息をついた。
それから数日後のこと。姉貴(in琴音さん)はすっかり元気になり、今日から妹(娘)のアオイちゃんと一緒に
いかせのごれ高校へ登校することになったらしい。
(なんか…心配だな。)
怪我のこともそうだが、琴音さんは雰囲気からして姉貴とはまっったく似ていない。
髪色の方は「イメチェン」とでも言えばなんとでもなるだろうけど、性格や口調をその場でコロンッと変えるのは無理に近いだろう。
そもそもあの能力者がわんさかいる学校だ。姉貴が姉貴じゃないと気付く奴は数人いるはずだ。
…面倒なことにならなきゃいいけど…。自分も付いていった方が良かっただろうか。年齢的にもまだセーフラインだろう。
………アウトだって? じゃあ間を取ってセウトだセウト。
―――余計に怪しまれるか。ここは、アオイちゃんに任せよう。…きっと大丈夫だ。
「失礼、します」
そんなことを考えながら、辿りついたのはゲンブのいる病室だった。未だ、意識を失ったままだ。
でも生きていて本当によかった。
「兄貴、今日はさ、ウスワイヤに保護されてる女の子が花をくれたんだ」
返事はない。
「えぇっと花言葉は確か、なんだったっけ…?…覚えてないや、ごめん」
が、言葉は届いている、そんな気がした。…ごめん、そうだったらいいと思っただけ。
「で、あたし最近いい曲見つけたんだぜ。ちょっと古いけど綺麗な曲なんだよ」
他愛もない話をしながら花を花瓶に移し終えると、シュロは椅子に座り一息ついた。
特にすることもなかったので、ちらっとゲンブの方を見てみた。目を覚ます気配はない。
…この人はいつもどんなことを考えているんだろう。
この人はどれだけのものを背負って生きているんだろう。
今まで姉貴と一緒にどんな困難を乗り越えてきたんだろう。
この人は、この人達は自分よりも多くの、大きなことを考えている。
尊敬するよ、本当に。
それにしてもこの世界は本当にわからないことだらけだ。誰がいつどこで怪我をする、とか。いつどこで死ぬ、とか。
もしかすると自分が死ぬのは明日かもしれない。明後日かもしれない。きっとまたわからないうちに、それは突然やってくるんだろうな。
(別に死ぬのが恐いわけじゃあないけれど)
ぐうっと背凭れにもたれ掛かり、天井を見上げながら小さくぽかんと口を開け。
「…あたしが死ぬのはいつかな、出来ることならかっこよく死にたいや」
消え入るような声で呟いた。
白い天井
(って、あたしは重症患者の前でなんてこと言ってんだ。ごめんな)
(じゃ、そろそろ行くよ。早いとこ目ェ覚まして、回復したらまた修行付き合ってよ)
最終更新:2012年08月21日 23:24