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包囲網と隠避者

「おや? まだ朝ですが……」

その日、街を歩いていたヴァイスは、何やら血相を変えて学校を飛び出す二人組の男子を見かけた。美琴から聞いた話の、確か不動とかいう少年と、冬也。

(なるほど、ワタシに感づきましたか)

その可能性は考慮していた。だが、簡単に見つかると思ってもらっては困る。身を隠すのは逃げるより得意だ。

(時間をかけて仕込んだのです、そう簡単にはやらせませんよ)

心中でそう呟き、警官に扮したその男はその場を去った。




「ただいま」
「お帰りなさい、マスター」

白波家。外出していたランカが戻り、アズールが出迎えた。奥からアカネの声がする。

「お帰りなさい。うがい・手洗い、忘れちゃ駄目よ」
「はーい」

基本だが確実だ。まだ冷たい水に「うぅ~」と顔をしかめつつも手を洗い、うがいを済ませて戻る。
寄ってきたアズールは今日は人の姿だ。

「最近は世の中物騒ですし、ほんまに気ぃつけてください。こないだやって……」
「? 何かあったの?」

それがですな、とアズールが語ったのは、先日見かけた、中学生らしき女子に声をかける謎の男の話。

「怖いね……」

ランカがそう呟いた時だ。リビングの電話がコール音を鳴らし、着信を告げた。

「はい、白波です。……ちょっと待って」

応対したアカネは一言、二言話したと思うと、送話口を押さえて呼んだ。

「アズール、スザクちゃんからよ」
「ウチにですか?」

珍しいこともあるものだ。首をかしげつつ代わると、電話の向こうからやや焦ったような調子のスザクがまくし立ててきた。

『アズールか? なあ、昨日変な男を見たって言ったよな? どんな感じだった、何を言った!?』
「ちょ、ちょっと落ち着いてください! 偉う慌てとるようですが、何があったんですか?」

スザクが言うところでは、昨日声を掛けられていた女子は崎原 美琴というらしいが、彼女が今日になって突然態度を変えてしまい、その原因が謎の男ではないか、とのことだった。

『さっき、たまたま冬也が話してるのを聞いたんだ。美琴、アースセイバーに協力したこともあるらしいから、一応そっちの方面でも調べてもらってるんだけど』
「そ、そうですか。そいつはスーツを着とりましたが……今も同じ格好かはわかりませんなぁ。あ、でも、言うとった内容は覚えとります」
『な、何て言ってた!?』

聞こえたままをそのまま話すと、スザクが息をのむのがわかった。

「な、何かマズイことでも……」
『いや、そういうわけじゃない。ともかく、アズールは家でランカを守っててくれ。その男、もしかしたらもしかするかも知れない』

それを最後に、スザクは通話を切ってしまった。

「あ、スザクさん!? ……何やねん、一体」
「アズール? 綾ちゃん、何て?」
「さ、さあ……」
「……アズール。スザクちゃん、何て電話して来たの?」
「いや、変な男がスザクさんの後輩に何か言うたらしいんですが……」

返事は無言。すっくと立ち上がったアカネは、上着を引っ掴んで羽織ると玄関に向かった。

「お母さん、どこ行くの?」
「ちょっと用事。お留守番、お願いね」




「くそっ、どこに居やがる!」
「ふ、不動くん、ちょっと落ち着いて……」

学校を飛び出してすでに2時間。とうに授業は始まっていたが、司はそれどころではなかった。その妙な男を探し、まさに血眼だった。

「どう落ち着けってんだよ!! こんな状況で……」
「こんな状況だから、だろ!? だいたい、そいつがどんな奴か、わかるの!?」
「!!」

言われてようやく頭が冷えた。そうだ、『変な男』と聞いただけで、外見などの特徴が全くわかっていない。これでどう探せというのか?

「…………一回戻るぞ」
「そうした方がいいと思う……」

と、冬也が振り返った時だ。

「うおっ?」
「わっ」

歩いて来ていた人にぶつかってしまった。どうもあちこちよそ見をしながら歩いていたらしく、向こうも驚いていた。

「す、すみません」
「いや、俺こそ……って、冬也じゃねえか?」
「え?」

名前を知っていた。誰かと思って見てみると、覚えがあった。以前、一度だけ顔を合せた事がある。

「ええと……霧波さんでしたっけ」
「おお、そうだ。覚えててくれたか。……後ろのは友達か? 俺はこいつの知人で、霧波 流也ってんだ。ま、よろしく頼むわ」
「お、おう……」

どんどん進む話に、かろうじてそれだけ返した司。一方の流也は再び冬也に向き直り、

「で、何してんだ? よい子は学校で勉強する時間だぜ」
「い、いや、それがそうも言ってられなくて……」

一連の事態を説明すると、にわかに流也の目つきが険しくなった。

「……なるほどな。よし、俺も手ぇ貸すぜ」
「「え?」」
「協力するって言ってんだ。駆け出しだが一応探偵なんでね」

言うと、流也はコートのポケットから携帯を取り出し、すばやくメールを打つ。
相手はシドウ。『V=S捕捉。現在Ⅰ校付近。追跡開始』
さらに、探偵事務所の星とスザクに同じ内容を送信。さらにゲンブ宛てのものには、「アルマの協力要請」と追加。
それを済ませると携帯をしまい、

「よし、冬也。まずは、昨日お前が話しかけられたって場所に案内してくれ」
「わ、わかりました。こっちです」



包囲網と隠避者

(母親はその男を追い)
(東は二人の学生と合流し)
(南は妹とともにその場所を飛び出し)
(北は武器に連絡を取り)
(演出家はその身を何処かに潜め)

(疑うことを知らない少女は、すべてを拒絶した)


(繋がる時は、近い)

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最終更新:2012年01月06日 12:55