「その、お昼一緒に食べてもいい、かな?」
ユウイのその言葉を、アオイは一も二もなく受け入れた。断る理由が存在しない。
「ええ、ご一緒しましょう」
席に着いたユウイとともに、昼食に入る。隣にはいつものごとくスザク。
しばらく箸を進めるが、なかなか会話の取っ掛かりがつかめない。逡巡したのち、思い切ってユウイは聞いてみた。
「あ、のさ、アオイさん?」
「? あら、お友達なのですから、他人行儀にならずアオイと呼んでくださいな。それで、何ですの?」
「いや、さ……なんで、アタシと
友達になりたいのかな、って」
ユウイの疑問は至極もっともなものだった。ここまであまり顔を合わせたことも、話をしたこともない。そもそもクラスはリオトともども隣だ。なのに、なぜ?
しかし、アオイにとっては簡単な話だった。
「知らないから、ですわ。わたくし、転校してきてから姉様しか見ておりませんでしたから、お友達がおりませんの」
「そうなの?」
「そうなのですわ。ですから、まずは隣のクラスの方とお友達になってみよう、とこう思ったわけですわ。ユウイさんだったのは……まあ、些細な偶然のめぐりあわせ、ですわね」
「はあ……」
言いながら支離滅裂になってしまったが、本音だ。幸い言いたいことは伝わったらしく、ユウイの表情からやや緊張が抜けた。
「さて……あっ、ひとついただいてよろしいかしら?」
「へ? あっ、どうぞ」
手作りのおにぎりを一つもらい、頬張る。
「…………」
「ど、どう、かな?」
「おいしいですわ。とてもよく出来ております」
「あ、ありがとう」
「いえいえ。……お一つ、いかがです?」
弁当箱を差し出すと、ユウイがおずおずと選んだのは卵焼きだった。
はむ、と食んで、
「……甘い。おいしい」
「そ、そうか? よかった、上手く出来てた……」
「え?」
言ったのはスザクだった。きょとんとしてアオイを見ると、苦笑しつつ言う。
「姉様、ご自分がドジだとようやく自覚なさったらしくて……最近、料理の練習に励まれているのですわ。このお弁当も姉様が作られましたのよ」
実際、スザクは料理は上手いのだが、時々失敗をしでかすのだ。
「本当に、以前はボウルはひっくり返す、お塩とお砂糖を間違える、レンジで卵を温める……」
「な、何そのテンプレドジッ娘……」
ほっといてくれ、と机に肘をついて膨れるスザク。実際に失敗した方は苦い思い出だ。
「まあ、そんなわけですから、わたくしの役割はフォローですの」
「そうなんだ……」
「ともあれ、ごちそうさま、ですわ。ユウイさんのおにぎり、本当においしかったですわ」
それほどでも、と言おうとしたユウイを遮ったのは、スザクだった。
「違う違う、違うぞアオイ」
「?」
「おにぎりじゃない、おむすびだ。お・む・す・び、な」
「?? それって、どっちでも同じだろ?」
ユウイが首をかしげつつ言うと、スザクは「何を言ってるんだ」と言わんばかりの顔になって反論して来た。
「違う、ぜんぜん違う。いいか、おにぎりは三角で、おむすびは俵型なんだ。翻って、ユウイのは丸だろ? これはおむすびの範疇なんだ。そこを間違えるなよ」
「そうなんだ……知らなかった」
感心したユウイだったが、後ろから
ハヤトがツッコんで来た。
「鳥さーん。けどよ、俺が聞いた話じゃ、東日本がおにぎりで西日本がおむすびって聞いたぞ?」
「えっ?」
「? 俺がじいやから聞いたのは、おにぎりの方が歴史が古いって……」
<確か、どう違うのかははっきりしてなかった気がするけどね>
と灰音まで。
自信を持っていた自説をつぶされ、ぶーっ、といっそわかりやすいほどに膨れるスザク。
「……」
「……」
そんな彼女を見て、どちらからともなく吹き出していた。
スザクが「笑うなよ、ちょっと!」と抗議していたが、どこ吹く風。
チャイムが鳴るまでのしばしの間、アオイとユウイは揃って笑っていた。
友達になりたい・アオイの場合
(とりあえず、初対面は上手くいった)
(後はこれからだ)
最終更新:2012年07月29日 00:48