……目が覚めると、真っ白な世界だった。
境界が曖昧な、不思議な世界。
(……ここは……どこ?)
体を起こすと、頭に鈍い痛みが走る。
思わず手で押さえ、ようやく佑は自分が眼鏡をしていないことに気づいた。
どこもかしこもよく分からなかったのはそのせいだ。視界がぼやけている。
手探りで眼鏡を探してかけると、視界がクリアになる。
そのまま辺りを見回す。白を基調とした部屋。ベッド。閉じられたカーテン。どうやら保健室のようだ。
(……何で保健室で寝てたんだろう、私)
「あ、目が覚めましたか?」
しゃっとカーテンが開き、養護教諭の
玉置静流が顔を出した。
「…玉置、先生…?」
「調理実習中に倒れたと聞きましたが…大丈夫ですか?」
(…ああ、そうだった)
調理実習中に、ひどい頭痛と気持ち悪さに襲われて倒れたのだ。
しかし、原因に心当たりがない。前日に夜更かしも徹夜もしていないし、体調も悪くなかった。
(じゃあ、何で…?)
少なくとも、今朝学校に来たときには何も異変はなかった。何かあったとするならやっぱり調理実習中だ。
未だ小さく残る頭の痛みに耐えながら、記憶を辿っていく。
(確かレシピを見てたら、何かが聞こえて……そう、
コトムが怪我をしてたんだ)
ひどく血が流れてて…大丈夫だろうかとその手を取った。
…そのあと、自分が自分じゃなくなるような感覚に陥った。
ひどい濁流が自分の中で渦巻いて、それに飲み込まれるような感じがして、
それで――
「…我孫子さん?」
「!!」
ハッと我に変えると、タマキが心配そうに顔を覗き込んでいる。
「どうしました?まだどこか具合でも…」
「い、いえ!大丈夫です。さっき起きたばっかりで、まだ少しボーっとしてて」
慌てて手を振って、大丈夫だということをアピールする。
そのついでに、腕時計で時間を確認した。
もうすぐお昼休みが終わる頃だ。今から教室へ行けば次の授業には十分間に合うだろう。
「私、もう平気ですから。ありがとうございます」
「本当ですか?」
「はい。眠ったら、だいぶ楽になりました」
軽く頭を下げると、これ以上何か言われる前にと保健室を出た。
(……ちょっと、不自然だったかな)
しかし、このまま休んでいたら夜に目が冴えてしまう。
何より出れる授業に遅れるわけにはいかない。
軽く頭を振ると、教室へ向かって歩き出した。
「…やっと着いた」
教室の前について、佑は軽く息を吐いた。
授業には間に合ったが、先ほどの考え事の続きをしながら歩いていたためか普段以上の時間をかけてしまった。
前方不注意で後輩らしき生徒に正面からぶつかってしまったのも原因だろう。
(…あとで、謝っておかないとな…会えたらだけど。覚えてたらだけど)
「あ!佑戻ってきた!」
「もう平気なの?大丈夫?」
教室に入ると、友人に声をかけられた。
それに「大丈夫」と返して、自分の席に座る。
「…………」
ふと、斜め前の席にいるコトムと目が合った。
その指には包帯が巻かれている。
「……大丈夫?」
佑がそう聞くと、彼は小さく頷いた。
その様子にやや安堵して、正面を向く。
…時間はそこまで経っていないのに、いろいろなことがありすぎた。
そんな気がして、深いため息をつく。
(……今日は早めに帰って休もう)
未だ小さく痛む頭を抱えながら、佑はそう考えた。
奇妙な体験
(あの感覚は、いったい何だったのだろう)
(心に引っかかることが、またひとつ)
最終更新:2012年01月06日 13:00