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歪みの中へ

運命の歪み、ねぇ」

渡された真っ黒な名刺を手に、ヴァイスはひとり呟いた。
あのピエロとかいう男については知っていた。大体自分と似たような男だが、自ら手を下すという点が異なる。自分はあくまでも舞台を整え、シナリオを描き、役者を選び出す。そこまでだ。

「どうしたものですかね」

自分に味方などというものはいない。前は何人かいたが、かえって邪魔だった。
だから、誰かと組むなどとは最近考えたこともない。組んだら組んだで得はあるだろうが、彼らの全貌がつかめない。そもそもどういう組織なのか?

(入るだけ入って、それでワタシの目的が阻害されるようでは本末転倒もいいところですからねぇ)

さてどうしたものか。……実のところ、ヴァイスは自分の命にはさほど興味がない。シナリオを演出している最中は何としてでも生き延びようとするが、そうでない時は恐ろしいほど淡泊だ。
彼らは「拒否するならそれでいい」とは言ったが、信用できたものではない。裏に生きる自分のような人種は、その実信用が第一だからだ。その意味で、ジェスターはともかくピエロが信用ならない。

(ま、ワタシには関係ありませんが)

「未完成」「総意」「死霊遣い」など興味をひかれる単語はいくつかあったが、それは決め手にはならない。
ヴァイスにとって、最優先すべきは自身の目的。それが阻害されるなら、たとえ神であろうとも従わない。そういう男だった。

「返事が決まったら燃やせと言っていましたが……内情も知らせず勧誘するようでは、余程特殊なのか、さもなくば秘密主義なのか……」

現時点ではどちらともいえない。二人ともそういうことは言っていなかった。
ただ、

「……まあ、行ってみますか。最悪でも死ぬだけですね」

わざわざ自分に声をかけた。その一点において、その「運命の歪み」とやらに興味が出た。
入れというなら、入ってやろう。ただし、ひとつだけ条件つきだ。

「ワタシの脚本に介入しない。これだけは譲れませんね」

それが通らないようなら、この話はナシだ。言われた通り名刺を燃やそうとして、

「……ライター、持ってませんでしたね」



歪みの中へ

(何のつもりか知らないが)
(来いというなら行ってやろう)

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最終更新:2012年01月23日 08:25