放課後のいかせのごれ高等学校。その屋上に、二つの人影があった。
「久しぶりだね、ミツ。元気そうで何よりだ」
「ゼロ……」
目の前にいる少年の姿を見て、ミツは眉をひそめる。
ショートカットにされた銀髪、淡く輝く蒼瞳。中性的なその外見は、ミツのそれとよく似通っていた。
「貴方が――いえ、貴方『達』と言った方が適切なのでしょうか」
「ええ――そうね」
目の前の少年――ゼロの口調が変わったかと思えば、その外見まで変化していた。ショートカットだった髪の毛は腰元まで届く程の長さにまで伸び、性別も「少年」から「少女」へと変わる。中性的な「少年」は、気が付くと中性的な「少女」になっていた。
「……アイン」
「はぁい、ミツ? 相変わらず、男なのか女なのか分からない見た目をしているのね」
「……ミツには、生まれた時から性別なんてありません」
「そうかしら――最近、ファスネイが学校に来なくて寂しい?」
「!?」
ファスネイ。その単語に反応し、ミツが身構えた。その表情は強張っており、緊張感が滲み出ている。
「貴方達、まさか――」
「そう。治療中の我等が主、ベガ様に代わってファスネイの抹殺に来たの――ベガ様もお人が悪い。車椅子で生活しているような相手を殺せと仰るのだから」
再び存在が入れ替わり、今度はゼロが表に出てくる。やれやれ、と彼は肩を竦める。
「止めたいかい、ミツ? ファスネイが――スイネさんが殺されるのを?」
「…………」
「……怖いなぁ。君にもそんな表情が出来たんだ」
ミツはゼロを睨み付けていた。なまじ、顔立ちが整っているのでその表情には普通の人以上の凄みがある。
「抜刀したまえよ……僕はベガ様の使徒、そして君は
ジングウの人形(オモチャ)だ……僕らが取るコミュニケーションとして、これ程相応しいものはないだろう?」
「…………」
ゼロの両腕に、腕を挟み込むような形で鋏型の赤いエネルギーブレードが出現する。ゼロの能力、「零の騎士(ゼロ・リッター)」だ。それに対し、ミツは自分の右腕に青白いエネルギーブレード「スキル:ソード」を出現させる。
その次の瞬間――二体の人形は、文字通り「激突」していた。
「「――ッッッッッッッ!!!!!」」
赤と青、二つのエネルギーブレードがぶつかり合い、互いを干渉させあう事によって火花を散らす。両者細身でありながら有り得ない程の膂力を発揮しており、そのせいで彼らの両足はコンクリートを抉り、めり込んでしまっている。
「やるね……ハード(身体)を新しいものに変えたのか!」
「不本意ながら……どっかの誰かさんのせいで――!」
不本意と言いつつも、心のどこかでミツは自分を改良したジングウに感謝していた。以前、まだミツが放浪中だった頃にこの「二人」と戦った時は、こんな風に力を拮抗させる事など出来なかった。何故なら、この「二人」はミツと同じBDシリーズでは最新型の性能を誇り、旧式であるミツとは圧倒的なまでの開きが存在していたのだ。
しかし、今は――
「ッ!」
刃が弾け、両者の身体が離れる。ミツが反動を利用し、その勢いのまま刃を叩きつけるように回転切りを仕掛ける。咄嗟にゼロがエネルギーブレードでそれを受け止めるものの、ミツの攻撃はそれだけに留まらない。
「ふっ――ッ!」
矢継ぎ早、ミツの右腕が「スキル:ソード」を振るう。その連撃を前に、両刀である筈のゼロは反撃出来ずに防戦一方だ。
「……なるほど。僕の二刀を封じたまま、押し切ってしまおうという魂胆かい?」
「そちらは二刀流……生憎と、ミツは一本しか剣を持ち合わせておりませんので」
「なるほどなるほど……だったら、最初の一撃で僕を壊せなかった君の負けだ」
「!」
バチ、と言う光子剣がぶつかり合う際に生じる独特の音。ミツの目がそれを見て、大きく見開かれた。自らの刃が、相手の左腕の刃によって捻り上げられるようにして掴まれてしまっていた。
「はい、チェックメイト」
ゼロは自由な方の腕、右腕の刃を、ストレートを叩き込むようにして突き出してきた。ミツの胴体はがら空きであり、鋏状の刃は何者にも遮られる事無くそのまま――
「む、そう来たか!」
バチ、と音がして再びエネルギーブレード同士が激突する。ミツの「左腕」から出現した「スキル:ブレード」が、ゼロの「ゼロ・リッター」を受け止めていた。
「右腕の刃を消し、即座に左腕へ「持ち替えた」か!」
「戦闘中にお喋りですね……舌、噛んでも知りませんよ」
ゼロが再び左腕の「ゼロ・リッター」を振るうより先に、ミツの右拳が相手の頬を捉える方が速かった。ゼロの身体は真っ直ぐ真後ろへと吹っ飛び、その身体は屋上のフェンスへと激突する。ガシャン、と凄まじい音が鳴り響き、鉄線で出来たフェンスが大きく撓んだ。
「痛ぅ……口の中切っちゃった」
フェンスから身を起こしながら、ペッとゼロは唾を吐き出す。言葉通り、その唾には彼の血が混じっている。
「やるね。前は逃げる事すら適わない状況だって言うのに、君は旧式の身体で見事に逃げおおせて見せた。そして今君は、僕達と対等の身体を得て、そして僕に一撃入れてみせた……本当に大した奴だ」
「……本当にお喋りが好きですね、貴方」
状況は優勢――しかし、ミツの表情に余裕は無い。なぜなら「彼」は、まだこの「二人」が本気になっていない事を理解しているからだ。
「さて、と――今度は私の番よ」
「!」
ゼロから、アインへのシフト。その直後、彼女の右腕に光で構成された弓が出現する。ゼロが「剣兵」とするならば、アインは「弓兵」。
「さぁ、踊ってくださる?」
アインの言葉の直後、ミツに向かって光の雨が降り注いだ。「アインリッター」は、光の矢を操る能力。光子エネルギーを操作し、矢玉の雨を降らせる事も、収束して攻城槍を生み出す事も出来る。
光の雨に対し、ミツは「スキル:ミラー」で対抗する。「龍儀鏡」と同じ性質を持つこのバリアは、エネルギーで出来た飛び道具ならばすべてを反射し、無効化する。
ゼロ/アインは一度、ミツと交戦しその能力を知っている。「スキル:ミラー」によって、「アイン・リッター」が無力化される事位、彼らも承知のはずだ。
その承知の上で、「アイン・リッター」による攻撃に及んだ理由は――
「――はっ!!」
突然ミツが「ミラー」を解除し、そのまま「ソード」を抜いて身体を回転させる。振り向きざまに「ソード」を振ると、その背後にいたゼロの「ゼロ・リッター」とぶつかり、火花が散った。
「やはり、この手で来ましたか……!」
「アインの能力じゃ、君にダメージは与えられないからね。目くらましに使わせて貰ったよ!」
先程はミツが自分から攻撃する事で、ゼロの動きを抑え込んでいた。しかし、今度は逆だ。ゼロの二刀流による猛攻を前に、ミツの方が防戦一方となっている。
「そらそら! さっきまでの勢いはどうした!?」
「く――」
攻撃の「凌ぎ零し」により、ミツの身体に少しずつ傷が付いていく。掠った頬から血が噴出し、制服が切り刻まれていく。
だが、突然その猛攻が止んだ。ゼロが突然後ろに跳び、ミツとの距離を開けたのだ。
「っ――!?」
その行動の意図を読んだミツは、相手の動きに先んじて「ミラー」を展開する。距離を開けたのは力を溜める時間を確保する為で、次の攻撃がアインによるものだと考えたのだ。
だが、
「――残念」
すぐ傍に、目と鼻の先に、ゼロの顔があった。ミツがハッとした時には、もう遅い。
ブツン、と言う肉が破断する音。数秒遅れて地面に落ちて来たのは、切断されたミツの左腕だった。
「く……」
「同じ手が何度も通用するか、って言葉があるけど、あれって実際のところ、雑魚が同じパターンの攻撃を繰り返すからバレちゃうだけなんだよね」
ゼロが両手を重ね、すり合わせ、二つのエネルギーブレードが火花を上げる。ミツは苦悶の表情を浮かべており、切断面から体液が零れ落ちると共に、その部位から火花を散らしていた。
「さぁ、ミツ。君の実力はこんなものじゃないだろう? ――もっと見せてよ、貴方の本気」
「彼」とよく似た中性的な、しかし確かな性別を持った顔で、ゼロと、そしてアインは、妖しく笑みを浮かべた。
ミツとゼロ/アインの戦いを見つめる、一羽の黒い鳥の姿がある。他の
バードウォッチャーとは違うその機種は、ジングウが独自に改良して作り出した物だ。通常のバードウォッチャーが完全な鳥へと擬態しているのに対し、そのバードウォッチャーは全身が機械剥き出しの状態になっている。
「ジングウさん、ミツさんが……!」
バードウォッチャー越しに見えるミツの危機に、
サヨリが思わず不安げな声を漏らす。しかしジングウは目の前の光景を、何時も通り冷静な、むしろそれ以上に冷めた表情で見ていた。
「落ち着いてください、サヨリさん」
「だ、だってミツさんが……」
「以前のミツならまだしも、今の「彼」は私の手で最新型に改良されています。同じ最新型のゼロ/アインと性能は互角の筈ですよ」
「でも! あんなに押されてますよ!?」
「それは「彼」が、自分の性能を完全に引き出せていないだけです――ここで破壊されるようなら、それまでって事ですよ」
「そんな……!」
冷たく言い放つジングウに、サヨリは今にも泣き出しそうな顔をしている。
(ウスワイヤ襲撃の時も、結構痩せ我慢して悪人ぶってましたからねぇ……本当にこの娘、何で
ホウオウグループにいるんだか)
心の中で嘆息してから、ジングウは画面の向こうで戦闘を繰り広げる「三人」を注視する。片腕を失ったせいか、戦局は徐々にゼロ/アインがミツを圧倒し始めていた。
(……さぁ、見せてみろ、ミツ。お前の中に眠る本当の力を)
絶望的に見える状況下、ジングウだけが、ミツの勝利を信じて疑っていなかった。
16 :
akiyakan:2012/03/07(水) 18:11:03
「ハァ……ハァ……」
戦闘開始からもはや数十分が経過しようとしていた。
ミツはもう限界だった。全身は自己修復機能が追いつかない程のダメージで埋め尽くされており、何より片腕を失った事が大きく不利に動いていた。五体満足でようやくゼロと互角であったのが、右腕一本では対応し切れていない。
「……がっかりだよ、ミツ。君はその程度の力なんだな」
ボロボロのミツに対して、ゼロに傷は全くと言っていいほど無い。手傷を負わせるには負わせているが、それらはほとんど自己修復機能で復元されてしまっている。余力は残っていないミツに対して、ゼロ/アインはまだ全然戦える状態だ。
「ハードを新調したから、もっと楽しませてくれるものだと思ったのに――がっかりだわ」
「…………」
「期待するだけで期待させて、熱くするだけ熱くさせて……そんな事では、貴方の大好きなファスネイに嫌われるわよ」
「――アイン。この子にそんな事言っても意味無いよ。「彼」には性別なんかないんだから」
「――それもそうだったわね」
そう言ってから、アインの手に光の弓が出現する。戦闘の最中でありながら、彼女の動作は悠然としている。緩慢にすら見える動きで矢を番えるのは、もはやミツに反撃されても恐ろしく無いからだ。
「ハァ……ハァ……」
ミツは「スキル:ミラー」を展開しようと思えば出来たが、それはやらなかった。「ミラー」を展開したところで、「彼」の死因が光の矢から光の剣に変わるだけだからだ。
(……く)
残る右腕に展開するのは「ミラー」ではなく「ソード」。この期に及んでも、ミツはまだ勝利を諦めていなかった。
しかし状況は悪い。全身の損傷が激しく、パフォーマンスの低下が著しい。体が鉛のように重く、右腕一本構えるだけで全身に激痛が走る。体中から流れ出る血液が、それと共にミツの生命力まで奪っていくかのような、そんな感じさえ覚える。
だが、
(ミツは……諦めない……)
ここで負けたら、自分よりもゼロ達の方が優れている事になってしまう。ミツを作った開発チームよりも、ゼロ/アインを生み出したベガの方が優秀と言う事になってしまう。それを思うと、ミツはここであっさり自分の命をくれてやる気にはなれなかった。
「ミツは……ミツは死にたくない……!」
自分が廃棄物だと言う認識に苦しんでいた時、「それは違う」と言ってくれた人がいた。
自分を仲間だと認めて、暖かく迎え入れてくれた人がいた。
そして――
(…………)
なぜだか分からない。けれども、スイネの事が頭に浮かんだ。彼女の事を考えると、どうにも落ち着かなくなる。さっきだって、ゼロにスイネを殺すと言われた時は、危うく冷静さを失うところだった。
「気がある」。かつてトキコに言われた言葉が、ミツの頭の中に浮かんだ。これが「気がある」と言う――所謂、「恋心」という奴なのだろうか。
「…………ははっ」
乾いた笑い声が、思わず出た。我ながら馬鹿馬鹿しい。恋愛とは異性間で成立するものだ。たまに同性間でも結びつく事があるらしいが――それは別として、そもそも性別を持たない自分が「恋心」を語るなどおかしい。
されど――
(ミツは――スイネさんが好きだ)
気のせいだったとしても、勘違いだったとしても、それでもミツは良いと思う。これが、今自分の心の中にある「これ」が、自分にとっての「恋心」なのだと「彼」ははっきりと言い切る。
(死なせない……スイネさんを殺させるなんてそんな真似、絶対にさせない!)
刺し違えてでも、ゼロとアインを止めてみせる。不退転の、背水の覚悟でミツは飛び出した――
――・――・――・――
――プログラム起動
――コード『龍ノαGITΩ」ヲ発動シマス
――・――・――・――
「…………」
「アイン・リッター」の直撃地点が煙を上げている。エネルギーを圧縮して構成した光の矢がその場所を打ち抜き、コンクリートを融解させた結果だ。そこには今までミツの姿があった筈だが――「彼」の姿は、屋上のどこを見渡しても見当たらない。
「死んだようね」
そう自らに事実確認をするアインは――どことなくつまらなそうだった。
「――結局、僕らにとって取るに足らない相手だったね」
「――所詮、人間の作った人形よ。神がその手で直々に生み出した私達……使徒に敵う筈無いじゃない」
「――それでも、前の「彼」は、今よりずっと弱かったけど、僕らから逃げ切る事は出来た」
「――……ゼロ、貴方。「彼」を褒めたいの、貶したいの、どっちなの?」
「――僕は君だよ、アイン……僕だって、失望しているのさ」
もはやここに用は無いとばかりに、ゼロ/アインはくるりと背を向けた。
――その時だった。
「「――ッッッッ!!??!?!?」」
ゼロ/アインは、全身を何十もの刃によって貫かれた。
否、実際のところ、彼らの白い肌には一切傷など存在しない。ミツに付けられた傷は、とっくに自己治癒によって塞がっている。しかしその時彼らは、「本当に貫かれた」と思った。
バッと、勢いよく振り返る。反射的に、アインはゼロへと交代し、その両腕には「ゼロ・リッター」の刃が顕現していた。
冷や汗に塗れた顔。言い知れぬ何かに緊張している。
その視線の先に、それはいた。
「ミ……ツ……」
「アイン・リッター」の光の矢に打ち抜かれ、もうもうと煙を上げていたその場所に、ミツの姿はあった。
ただし、先程までと様子が違う。大きな変化は、その背中に出現した「翼」だ。左右にそれぞれ、青白い五本の光の剣が浮かんでおり、それらが組み合わさってまるで翼のような形を構成している。頭の上には所々角の出た光の輪が浮いている。
天使。変貌したミツの姿を見てゼロが、そしてアインがまず抱いた感想はそれだった。
剣の翼に、輪刃(チャクラム)の天使輪。神の使いと呼ぶにはあまりにも攻撃的な姿であるが――しかし、その一方で神秘的であり、神々しくもあり、美しいと思える。
ミツが無言のまま、右腕をゼロ達に向けた。すると、ミツの背後に浮かぶ十本の剣が一斉に、彼ら目掛けて飛んだ。
「なっ!?」
慌ててゼロはその場から離れ、その攻撃をかわす。光の剣はまるで屋上の床をバターの様に易々と切り裂いていった。
(あの剣一本一本が、「彼」が普段使っている剣と同じ威力を持っているのか……!?)
ゼロの二刀流どころの話ではない。十本+一の十一刀流。ゼロは両手の刃を駆使して向かってくる剣を弾き落としていくが、舞い踊る剣達は、まるでそれぞれが意思を持っているかのような動きで彼を翻弄する。
「ぐ――ッ!?」
ついにゼロは、攻撃を裁ききれず、その体に刃を受けた。四肢に剣が突き刺さり、地面に彼の体を縫い止める。
「…………」
言葉を発する事無く、ミツの身体が宙に浮かんだ。右腕をゼロに向けると、彼の頭の上に浮かんだ天使輪がその前に移動する。ゼロの体を縫いとめている以外の刃が、ミツの周りに集い、天使輪と噛み合って何かを形作る。
「あれは……!?」
天使輪と六本の剣。それによって構成されたのは砲だった。発射口になっているのは天使輪であり、ミツの意思に呼応してそこにはエネルギーが収束を始めている。
「まずい!?」
ゼロは何とか拘束を解除しようとするが、食い込んだ刃は彼の体を地面にしっかりと縫い止めてしまっている。もがくと刃が傷口を抉り、激痛が全身を駆け巡った。
「ぐ――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げ、拘束を外そうとするゼロ。
そうしている間に、ミツの方は攻撃の準備が完了した。右手を振り上げ、撃鉄を倒すかのように振り下ろす。
『スキル:バスター』
青白い光の奔流が、ゼロの網膜を焼き、視界を埋め尽くした。
「――コード・オフ。『龍ノαGITΩ』ヲ解除シマス」
自らが発した、聞き慣れない単語を耳にして、ミツは我に返った。
「ぜぁ……ハァ……ハァ……!?」
突然の、急激な疲労が全身に圧し掛かってくる。思わずミツは、その場に崩れ落ちた。
「今のは、一体……」
「――龍ノαGITΩ……なるほど。それが君のアゾットか」
「!?」
頭上から聞こえた声に、ミツは顔を上げた。
「…………!!」
崩れかけたフェンスの上。そこに、ゼロの姿があった。拘束を無理矢理解いた為、両腕は完全に欠損し、両足もほとんど千切れかけている。
ほとんど死に体。しかし見る限り、ゼロにはまだ余裕があるように見えた。
「ゼロ……!」
「恐るべき力だ――少々、貴方の事を甘く見ていたようね」
「あ!」
ふわり、とゼロ/アインがフェンスから身を躍らせる。重力に従って落下していく彼らを追おうとするが、限界に達した身体はミツの言う事を聞かない。
「――面白いものを見せてくれたお礼に、取り合えず今回はファスネイを見逃そう」
「――次は、私達のアゾットで相手をしてあげるわ」
「「――だからそれまで、せいぜい壊れないよう頑張るんだね」」
ゼロ/アインの言葉が、風に乗って周囲に残響する。
「ア……ゾット……?」
そこで、ミツの意識は途切れた。
※『アゾット』。一部のバイオドロイド達に搭載されている特殊な機構。発動すると、その姿は天使を模した形態へと変化する。ミツに内臓されているのは「龍のαGITΩ(アギト)」と呼ばれるもので、「アゾット」発動中は全能力値が大幅に向上し、「ドラゴンズスキル」もそれに対応して変化する。
最終更新:2012年03月07日 18:42