都シスイは激昂した、それは悲しみ故の怒りであっただろう。
彼が放課後にたまたまその光景を目にしてしまったのが、いけなかった。
体育館裏での、女子生徒による女子生徒への暴行。
その被害者は、あの
張間みくであったのだ。
「―――――!!!!」
弾かれたように
シスイは走り出すと、一人の女子生徒の手を掴んで叫んだ。
生意気なのはどっちだよ、
一生懸命生きてる奴の邪魔してんじゃねぇよ、
同じ目に合わないと分からないようなら、やってやろうか!!
彼の知り合いであれば、普段温厚なシスイからは連想出来ぬ言葉であった。
加害者側の彼女達はシスイの剣幕に押されてか、短く悲鳴を上げると逃げ去っていった。
後に残されたのはシスイと、暴行を受けた後のみずぼらしい姿をしたみく。
そんな彼女の姿を見て、はっ、としたシスイは、声をかけようとしゃがんだ。
「おい、大丈夫…」
「ひっ!!」
みくはシスイを見るなり、そう悲鳴を上げると怯えるように後ずさんだ。
その時、シスイの胸がずきん、と痛んだ。
少し冷静になっていれば、あのような態度を取らなくても穏便に解決出来たかもしれない。
それなのに感情に動かされるまま言葉を発した時、自分はどんな表情をしていたのだろうか。
その答えが、今まさに彼女が取っている態度ではないだろうか。
「…ぁ、」
気が付けばシスイの目からは涙が零れ落ち、それは止まろうとせずどんどん溢れてきた。
泣きたいのは自分じゃない、目の前の彼女だろう、それなのに。
「くそ、っくそ…!」
締め付けられる胸の痛み、泣くことによる呼吸困難、そして、悔しさ。
それらに苦しめられたシスイは両手を地に付け俯き、泣いてしまったのであった。
「…」
そんな彼の様子を見て、張間みくは戸惑っていた。
自責の念が先行するよりも、先程恐ろしい様子で彼女らを責めていた彼が、
苦しんで泣いていることに戸惑っていたのだ。
それと同時に、彼を『可哀想』だと思ってしまったのであった。
見ず知らずの人に対し『可哀想』だと思うのは間違っているかもしれない、けれども、
なんとなくこの人は優しい人なんだろう、とみくには分かった。
そんな優しい人が、こんなことで心を痛めてしまっただなんて。
「………」
みくは意を決してシスイに近付くと、その背中を優しく摩った。
不思議と温かくて、いつものあのネガティブな気持ちはどこかへといってしまっていた。
「せんぱい…」
「…」
みくが名も知らぬ先輩の前に来てそう呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げた。
嬉しいのか、それとも申し訳ない気持ちが蘇ってきたのか、みくの視界も段々と歪んでいく。
喉にも涙が溜まっているようで、上手く声を発せられない。
駄目だ、ここで泣いては先輩をもっと悲しませてしまう。
先輩が欲しいのはきっと、ごめんなさい、でも、泣くことではない。
感謝を伝えなきゃ、救われてるってことを、ちゃんと伝えなきゃ。
そう思ってみくは涙を拭うと、精一杯の笑顔を浮かべて、シスイにこう言ったのであった。
「…ありがとう。」
臆病と麒麟
(その後、せきを切ったかのようにみくも泣き出した)
(シスイもまた、泣いた)
(数分後、
ハヤトがその場に来るまで二人はただ、泣いていた)
(…だいじょうぶだよ、)
(あなたのおもいに、わたしはすくわれたから)
最終更新:2012年03月18日 13:43