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敵意は星の瞬きと

「ぉおおっ!」
「っ!」

上から聞こえてきた声に、咄嗟、バックステップで後退する美琴。数瞬の後、さっきまで立っていた場所に人が降ってきた。片膝を立てて衝撃を殺し、ゆっくりと立ち上がったそれは、ニット帽にサングラスという怪しい風体の男。
アースセイバー特別調査員。IUCチーム監督官補佐。
コードネーム「アルマ」こと、一条寺 正人
無論、美琴はそんなことは知らない。

「……誰、ですか」
「………」

無言。しばしの後、アルマ……正人は、美琴に向けて静かにこう言った。

「何をしている?」
「………」

突然の質問に、一瞬思考が停止する。だがそれも束の間、

「宮藤先輩が、ミコトをいじめに来たから。潰しちゃっても、構わないよね?」
「看過できん。止めさせてもらう」

返答は即座に、そして無機質に。美琴の表情が一瞬、呆けたようになり、そしてふっ、とそこに笑みが浮かぶ。
明らかな、狂気に類する笑みが。

「………そっ、か。誰だか知らないですけど、あなたもミコトが邪魔なんですね」
「何を言っている……?」

前後が繋がらない言葉に、正人は無機質を装った表情の裏で当惑する。しかし、事態はそれに集中することを許さない。

「ミコトをいじめる……苦しめる……みんな……みんな、消えちゃえっ!!」

瞬間、無数の黒い星型が虚空に現れ、正人目がけて降り注ぐ。回避行動をとろうとした正人は、星がわずかに動くのを見て直感した。

(誘導!!)

こちらを追尾してくるタイプだ。回避は不可能。
半秒かからずに結論した正人は、自ら前に飛び出す。一歩、二歩。そこで不意に地を蹴り、左へと横っ飛ぶ。そこにあった一発が左肩を直撃する。

「く!」

だが、それで詰むほど柔ではない。追尾して来たもののうち、一発を強引に蹴り返す。機動を狂わされたその一発が廻りの星弾を巻き込み、誘爆して消えた。

「!」
「……思ったよりやるようだな」

アースセイバーの協力者として名前は聞いていたが、この攻撃密度はさすがの一言だ。
とりあえず、まともに当たるのは無理だ。説得は……この状態ではそもそも不可能だろう。
予想以上の長丁場になることを、正人は予感していた。



「アルマを苦戦させるか……全く、子供というのは本当に手に負えんな」

後方にいたゲンブは、宮藤というらしいその少年に肩を貸し、アルマが美琴を
引き付ける間に離脱を試みていた。

「立てるか? とりあえず、ここから逃げるぞ」
「! ま、待って……まだ……」
「……一応言っておくが、説得は無理だ。崎原を変えた元凶を突き止め、それをどうにかした上でなければ事態は進まん」

冷徹にも聞こえる口調でゲンブは言い切り、ちらりと戦いを一瞥すると、少なくともここから離れなければならん、と一哉に言い聞かせながら少しずつ距離を取り始めた。




美琴を相手取る正人は、彼女の予想以上の対応力に内心舌を巻いていた。
能力そのものは、タクトを振って星弾を撃ち出すというだけの単純なものだが、その特性をフル活用してスキを補っている。単射、連射、弾幕、誘導……主にはその四つだが、それらを複雑に組み合わせてこちらを近づけさせない。

(くそっ、思った以上どころか、これは……)

想定外、だった。不信と敵意に染められた心。そこから放たれる攻撃は、記録にある彼女本来のものとは異なり、攻撃力・硬度ともに一線級に達していた。
武器を持たず、接近戦特化の正人には、相性が悪すぎた。回避に徹し―――徹せざるを得ない―――、ダメージを抑えてはいるが、たまに混じる誘導弾が少しずつ削ってくる。
このままでは美琴を止めるどころか、こちらがやられてしまう。

(……仕方がない)

思い、何度目かの弾幕から逃れた正人は、背筋を伸ばして切り札を切る。
それは、彼の能力の応用……「コントロールソート」。
自らの神経系統をハッキングし、思考を直接行動に反映する。準備が整ったのと、次の一撃が来たのはほぼ同時だった。

(今だッ!)
「え!?」

不意に、正人の姿が消えた。一瞬前までいた場所に、連射された星弾がさく裂する。今までとは比べ物にならない速度、そして反応。突然の事態に、美琴も一瞬手が止まる。そして、今の正人はそれを見逃さない。

(とった!)

一撃で意識を刈り取り、然るべき場所で事情を聴く。それが狙いだった。
が、

「なっ!?」

繰り出した手刀は、不意に現れた黒い星弾が盾となって阻んでいた。
――コントロールソートの長所は、思考が即座に行動に反映されることだが、逆もまた然り。
不意を打たれて狼狽した正人の体は、思考の空白と混乱をそのまま反映して固まってしまっていた。
―――そして、こんな至近距離で隙を見せれば、美琴もそれを逃さない。

「うおおおおおおッ!!!!?」

ほとんどゼロ距離から放たれた星弾の弾幕……それを全弾まともに喰らい、強風にあおられた傘のように吹き飛ぶ。瓦礫の山に激突した正人は、崩れてきたそれらの下敷きになってしまった。

「アルマッ!!」

ゲンブが叫ぶ。が、それが命取り。振り向いた美琴の、感情を映さない瞳がそちらを捉え、タクトを振り向ける。黒い星弾の雨が降り注ぎ、襲い掛かる。ゲンブに出来たのは、とっさに抱えていた一哉を瓦礫の影、美琴から見て全くの死角である場所に放り出すことだけだった。




(……何やら、マズイ状況になって来ましたねぇ……)

同時刻。警官に扮していたヴァイスは、先ほどからこちらを見つめている四つの視線を気にかけていた。明らかに、こちらに対して敵意を持っていることがわかる。

マスクをつけた者、蛇のような仮面をつけた者を含む3人と、離れたところからこちらを伺っている一人。

(さて、どうしたものですかね)

下手に動けば騒ぎになる。それは別にどうでもいいのだが、野次馬が集まると逃げにくくなる。この力は一度に一人にしかかけられない上、乱発が出来ないという弱点を抱えている。
どうしたものかとヴァイスが悩んでいると、

「おーい、そろそろ交代の時間だぞ」

後ろから別の警官が声をかけてきた。

「! そんな時間か……」
「ああ、お前はパトロールだな。そこの方達は俺が話聞いとくから、行って来いよ」
「……では、そうさせてもらおう」

言うと、ヴァイスは速足でその場を去った。3人組もその後を、少し離れて追う。

(さて……)




「ん? ありゃ……」

その頃、こちらは流也達。マナの案内に従い、交番を目指していた一同は、その交番を離れていく3人組の後ろ姿を捉えていた。

「マナ、その変な人達って、あいつらか?」
「そうよ。……多分、あの男を追っていったんだと思う」

星の問いにそう答えたマナは、ちらりと後ろを振り返る。ミナミ、海念、冬也、司……表情はいろいろだが、共通しているのは焦りにも似た感情。

(急がないと……)

美琴という人が、完全に壊れてしまう前に。



敵意は星の瞬きと

(次なる、交錯)
(そこが、ターニング・ポイント)

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最終更新:2012年03月18日 13:47